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倉敷・吉備路

倉敷・吉備路 岡山県 晴れの国 “3王”の足跡

約1万平方メートルの敷地に立つ塩田王「旧野崎家住宅」。膨大な所蔵品にも注目が集まる=岡山県倉敷市児島

約1万平方メートルの敷地に立つ塩田王「旧野崎家住宅」。膨大な所蔵品にも注目が集まる=岡山県倉敷市児島

 浜子浜子とヨーオ けなしてくれな 浜子 大名で扶持(ふち)がつく-。かつて広大な塩田が広がっていた岡山県倉敷市の児島半島。きつい製塩作業に従事した浜子たちが歌っていた作業唄はカラッと明るい。給金のほか家族を養うに十分な米、みそ・しょうゆ、番茶、漬物の現物支給「扶持」が出た。

 江戸後期の創業以来、浜子ら従業員を大切にした「日本の塩田王」野崎家の旧邸(国指定重要文化財)を訪ねた。

 幅26メートルの壮麗な門構え。貴賓をもてなした書院は淡雅なゆったりとした構え。枯れ山水の庭園は奇石、巨石による石組みが幽玄な風情である。

 茶室3棟のうち臨池亭は、枯れ滝からの流れが注ぐ池に見立てた苔(こけ)庭に臨む、岡山藩で重用された茶道速水流の好みが色濃い、かやぶきの庵(いおり)である。

 初代野崎武左衛門は足袋の行商から身を起こし、製塩と新田開発で成功した。社会貢献第一の遺訓は代々受け継がれた。

 お能とお茶をたしなんだ野崎家には、書画、茶道具ほかのお宝1万数千点が残る。明治維新期に旧藩主池田家から拝領と伝わる能面92面が金沢市で昨年初公開。新発見の能楽コレクションとして話題を呼んだ。こうしたお宝の一端は土蔵群の展示場で見ることができる。

 児島はかつて綿花の一大産地だった。野崎家周辺の商店街は国産ジーンズ発祥の地として、地元メーカーの個性的なデニムがそろい、ジーンズ好きでにぎわう。

夜のそぞろ歩きも楽しい景観照明がともる古い町並み=倉敷市美観地区の本町通りで

夜のそぞろ歩きも楽しい景観照明がともる古い町並み=倉敷市美観地区の本町通りで

 倉敷市から、社会事業に尽力したもう一つの一族が現れる。クラボウやクラレなどを育てる一方で、日本初の西洋美術館「大原美術館」や社会問題改善に取り組む研究所、病院を設立した「紡績王」大原家である。

 泊まった「倉敷アイビースクエア」は大原家の近代産業遺産。クラボウの前身の紡績工場をホテルやレストランなどに再開発した観光名所だ。大浴場につかって疲れを癒やし、友人が紹介してくれた地元でバレエ教師をする沢田紗有美さんの案内で観光スポットの美観地区へ。

 柳並木と白壁が美しい倉敷川河畔ばかりでなく、道一本隔てた本町の通りも近年、大きく様変わり。古い町家を改装したカフェ、ギャラリー、居酒屋などが軒を連ねる。日が暮れると、景観照明がつき幻想的。「倉敷の新しい魅力を知ってほしくて夜のお散歩を」と紗有美さん。

 この夜は、老舗旅館跡を改装した料理屋で地産地消の料理を楽しんだ。会食した紗有美さんの母でバレエ教室主宰の亜依さんに「今度の旅は、古代、江戸、近代と時空を巡りながら岡山の“三人の王”の跡をたどるのが目的なんです」と告げた。沢田さん母娘は「エッ、3人の王って。分からない」と首をかしげた。「塩田王、紡績王、そして古代吉備の大王ですよ」

愛らしい造形がユニークな埴輪=岡山市の岡山県古代吉備文化財センターで

愛らしい造形がユニークな埴輪=岡山市の岡山県古代吉備文化財センターで

 岡山は今も昔も「晴れの国」。温暖な気候に恵まれ、古代吉備国として栄えた県中南部の吉備路には、巨大な造山古墳、古代山城の鬼ノ城など、貴重な遺跡多数がある。

 鬼退治の桃太郎のモデルで大和政権の勇将をまつる国宝、吉備津神社本殿には「平賊安民」の額が掛かっていた。古代吉備の大王は敗れ「鬼」「賊」と呼ばれたが、遺跡出土の埴輪(はにわ)はゆるキャラ風のなんとも愛らしい造形である。田園風景に映える備中国分寺の五重塔の丘に立って、独自の文化を育んだ晴れの国の今昔を思った。

 文・写真 長谷義隆

(2016年2月12日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
倉敷市内の移動はJR倉敷駅が起点となる。
児島地区にある旧野崎家住宅はJR瀬戸大橋線の児島駅が最寄り。
美観地区は倉敷駅から徒歩約15分。
吉備路巡りはJR総社駅前など3カ所にあるレンタサイクルを利用すると便利。

◆問い合わせ
倉敷駅前観光案内所=電086(424)1220、旧野崎家住宅=電086(472)2001、吉備路観光案内センター=電0866(92)1211

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★城下町・高梁
倉敷市を流れる高梁川の上流にある。
「天空の山城」として知られる備中松山城の麓には、茶人大名の小堀遠州が江戸初期に作庭した名勝、頼久寺庭園が今も旧態のまま保存されている。

★国産ジーンズ発祥の地
江戸時代から繊維産業が栄えた倉敷市児島。
1960年代に国産ジーンズの製造が始まり、素材、染め、縫製まで高い技術を駆使した高品質ジーンズのショップが並ぶ。

★大原美術館
実業家・社会事業家の大原孫三郎、総一郎親子が設立、発展させた美術館。西洋の近現代美術の本館、日本の近現代美術の分館、工芸館・東洋館、児島虎次郎記念館からなる。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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