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近江商人のひな祭り

近江商人のひな祭り 滋賀県 往時しのばれる豪華さ

塀に開いた桟敷窓の奥にはひな人形が飾られている=滋賀県日野町で

塀に開いた桟敷窓の奥にはひな人形が飾られている=滋賀県日野町で

 板塀と格子戸の古い町筋のあちこちに「日野ひなまつり紀行」ののぼりが立つ。滋賀県日野町の目抜き通り。道行く人が足を止め、塀に開いた窓から中をのぞき込む。日野独特の「桟敷窓」だ。のぞくと、段飾りのひな人形が据えられている。

 日野は、江戸時代の初めから近江八幡、五個荘(ごかしょう)(東近江市)などと並んで近江商人輩出の地。古くは武家の名門、蒲生家の居城、日野城の城下町だった。日野商人は、おわんや薬の行商から、のちに多くは北関東地方で酒、しょうゆなどの店を構えたが、本宅は日野から移さず、奉公人も日野近辺から雇った。

 東西約1.5キロに約150軒がひな人形を飾る。その一軒、中田穣さん(69)はまつりの世話人。9年前、「家や蔵にしまわれているひな人形で町を活気づけよう」と呼びかけた。「日野商人の町の歴史を知ってもらいたいとの思いもあった」

 桟敷窓は、毎年5月3日、16基の曳山(ひきやま)が町を練る日野祭の見物のためのものだ。外をのぞく窓が、ひなまつりでは、中をのぞく窓となる。カメラを手に一軒一軒、撮影していく人もいる。

 
「日野商人が活躍した関東のひな人形が多い」と話す満田良順館長=滋賀県日野町の近江日野商人館で

「日野商人が活躍した関東のひな人形が多い」と話す満田良順館長=滋賀県日野町の近江日野商人館で

 まつりの拠点が「近江日野商人館」。旧商家や旧奉公人の家々に残るさまざまなひな人形が一堂に並ぶ。館長の元中学校校長、満田良順さん(69)は「日野商人の多くが栃木、埼玉県などで店を持ったので、鴻巣雛(びな)など関東のひな人形がほとんど。それぞれの地域に今はないものもある」と話す。

 1番古いのは文政3(1820)年の箱書きのある享保雛。200年近い年月を経ていても色は鮮やかだ。薬商人の正野玄三家の、幕末に特注された「源氏枠飾り」と呼ばれる豪華なひな飾りもある。2階には近江商人の歴史が展示され、赤穂浪士討ち入り当日の手紙なども紹介されている。

干支の「申」をテーマに左義長ダシを豆などで作る野村直仁さん=滋賀県近江八幡市で

干支の「申」をテーマに左義長ダシを豆などで作る野村直仁さん=滋賀県近江八幡市で

 近江商人の草分けとされるのが、近江八幡市の八幡商人だ。約400年の歴史を持つ。江戸・日本橋などに進出した豪商も多く、重要伝統的建造物群保存地区に指定されている古い町並みでは、旧西川家や旧伴家など、豪商の屋敷に贅(ぜい)を尽くしたきらびやかなひな飾りが並ぶ。

 水路として発展の礎となった八幡堀を見ながら、日牟禮(ひむれ)八幡宮へ。もとは安土城下で行われ、織田信長も自ら躍り出たといわれる左義長まつりがここで開催される。今年は3月12、13日の日程だ。

 呼び物が、最後に火をつけられて燃え上がる左義長ダシ(作り物)。各町から13基が作られるが、八幡宮に近い宮内町の製作現場を見学した。

 ダシの特色は、毎年の干支(えと)がテーマ。今年は申(さる)。材料は豆などの穀物とスルメなどの海産物と変わっている。精巧に作られた猿は、手にはノリ、お尻にはシイタケが用いられている。製作担当の野村直仁さん(50)は中学生の時から参加して36年。「食べ物の色を考えて材料を選んでいる」と言う。

人形師の東之湖氏の創作ひな人形「清湖雛」=滋賀県東近江市で

人形師の東之湖氏の創作ひな人形「清湖雛」=滋賀県東近江市で

 東近江市五個荘の「商家に伝わるひな人形めぐり」は今年21回目を迎えた。掘割にコイが泳ぐ古い町並みの金堂地区は重要伝統的建造物群保存地区。金堂まちなみ保存交流館や近江商人屋敷などでひな人形を見て回ることができる。商人屋敷の一つ、中江準五郎邸では、地元の人形師、東之湖(とうこ)氏の、近江上布(麻布)をまとった創作ひな人形「清湖雛」が飾られている。

 淡い上品な色調のひな人形で、メルヘンの世界にいざなう。伝統的なひな人形にやや疲れた目には新鮮。早春の1日、古今のひな人形の世界を心ゆくまで満喫した思いがした。

 文・写真 朽木直文

(2016年3月4日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
新幹線米原駅で下車。日野へは近江鉄道で八日市経由で約1時間20分。
近江八幡へはJR東海道線で約30分。
五個荘金堂地区へは東海道線能登川駅でバスに乗り換えて約10分。

◆問い合わせ
日野観光協会=電0748(52)6577、近江八幡観光物産協会=電0748(32)7003、東近江市観光協会=電0748(48)2100

おすすめ

母屋と、名石を集めた庭園

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ウィリアム・メレル・ヴォーリズの像

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★ひなまつりの日程
日野町の「日野ひなまつり紀行」は3月13日まで。
近江八幡市の「近江八幡節句人形めぐり」、東近江市五個荘の「商家に伝わるひな人形めぐり」は3月21日まで。

★近江日野商人ふるさと館「旧山中正吉邸」
日野町西大路にある。
日野商人本宅の代表的な屋敷。
母屋と、名石を集めた庭園を持つ新座敷がある。
庭園を眺めながらの伝統料理も。
1500~2000円。
要予約(10人以上)。
まつり期間などは除く。
電0748(52)0008

★尾賀商店
近江八幡市永原町の築150年の古民家。
戦前までは砂糖問屋を営んでいたという。
古代米と地元産野菜の和食店やはんこ、手芸など6店舗が入居。
木、金曜が休み。電0748(32)5567

★ヴォーリズ像
「青い目の近江商人」といわれ、建築家でもあったウィリアム・メレル・ヴォーリズ(1880~1964年)の像が、自ら創立した近江兄弟社前に立つ。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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