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金華山

金華山 宮城県石巻市 シカ戯れる修験の山

海峡を挟んで、牡鹿半島を望む。日当たりのいい草原にシカたちが憩う

海峡を挟んで、牡鹿半島を望む。日当たりのいい草原にシカたちが憩う

  「キャー、かわいい。連れて帰りたい」。子ジカの頭をなでながら、観光の女性が歓声を上げる。

 宮城県石巻市沖に浮かぶ島・金華山。約500頭のシカが生息し、大小の群れを作って原っぱや森の中を散策している。

 桟橋から海沿いの道を上がったところにある「鹿山公園」は、海とシカが絵になるスポットだ。人を怖がる様子はなく、餌を求めにきたりもしないシカたち。島の西斜面中腹にある黄金山神社の「神の使い」として大事に扱われてきたからだろうか。

  草原の向こうには「金華山瀬戸」と呼ばれる海峡が横たわる。対岸は牡鹿半島。狭い場所では1キロ弱の距離だ。

 森の中の道を登り、神社に向かう。木々の合間をニホンザルが数頭、餌を求めて歩き回っていた。神社の宿坊以外には人家のない島。手付かずの自然が残っている。

 神社は、奈良時代の750年に建立された。大和朝廷が国家事業として奈良の大仏を建立した際、現在の宮城県で日本初の金を産出。朝廷に献上したのを記念して建てられ、金運・開運の神様・弁財天がまつられた。

 海抜445メートルの山は遠い沖合からも目印になり、古くから漁民たちの信仰の対象だった。起伏に富んだ山は、恐山(青森県)、出羽三山(山形県)と並ぶ東北三霊場として、修験者たちの修行の場にもなってきた。

東日本大震災で倒壊し、再建された黄金山神社の大鳥居

東日本大震災で倒壊し、再建された黄金山神社の大鳥居

  東日本大震災後に再建された大鳥居をくぐり、石段を上がると拝殿。「3年続けてお参りすると商売繁盛する」と言い伝えられ、多くの参拝客を集めてきた神社だ。しかし、震災で大きな打撃を受け、かつてのにぎわいはない。犠牲者をしのび、被災地の復興を祈って、手を合わせた。

 5年前の震源地は、ここから100キロほどの至近距離だった。激しい引き波により金華山瀬戸の底が見えるほど水が引いた後、南北から津波の第一波が押し寄せ、激しくぶつかりあった。巨大なエネルギーの塊が石巻の市街地や周辺漁村をのみ込んでいった。金華山では犠牲者はなかったが、参道が崩壊し、大鳥居や常夜灯が倒壊。ライフラインも断たれ、観光客らは停電の大広間で一夜を明かした。

 今も、震災の傷痕は痛々しい。参道のあちこちに土のうが積まれ、崖崩れの修復工事が続く。島内をめぐる散策路も多くは通行止めのままだ。

 帰りの船の時間が迫ってきた。定期便は2013年5月に一部再開されたが、半島先端の鮎川港と付け根の女川港から、それぞれ日曜日の週一便だけ。島の滞在時間は2時間弱しかない。

 
根子山神社の境内で佐藤哲也さんに山神のご神体を特別に見せていただいた=いずれも宮城県石巻市で

根子山神社の境内で佐藤哲也さんに山神のご神体を特別に見せていただいた=いずれも宮城県石巻市で

 戻った鮎川港は、切符売り場やトイレも仮設のまま。観光協会の事務所にいた男性は「観光バスで来ていただいてもトイレにも困る状態です。復興には時間がかかりますね」と、寂しそうだ。

 港から車で15分ほどのホテルニューさか井も、金華山参りの客が激減した。職員たちが語り部となり、撮影したビデオを流して、被災地視察、防災研修などの宿泊客に当時の様子を伝えている。金華山瀬戸の水が引いた写真も紹介する。

 まだまだ不便な観光地だが、「忘れてはいけないこと」を再確認するために、ここを訪れる価値がある。

 文・写真 安藤明夫

(2016年3月25日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
石巻駅から鮎川港へバスで90分、鮎川港から船で20分。
JR女川駅近くの女川港からは船で35分。

◆問い合わせ
金華山航路事業協同組合(鮎川)=電0225(44)1850
潮プランニング(女川)=電0225(98)9038

おすすめ

天然アワビ

天然アワビ

★田代島
金華山の西側にあり「猫の島」として知られる。
仁斗田港の周辺などに約100匹の猫が暮らす。
民宿経営者らが中心となり、猫をシンボルにした
観光に力を入れている。漫画を用いた地域おこしを
進める石巻市と連動し、ちばてつやさん、里中
満智子さんら5人の漫画家が猫のデザインを施した
ロッジなどのアウトドア施設「マンガアイランド」も
ある。

★御番所公園
牡鹿半島の鮎川港に近い御番所山の頂上にある。
展望台から見渡す周辺の島々や太平洋の大海原の
パノラマが見事。江戸時代には仙台藩が外国船の
襲来に備え見張り所を設けていた。林の中を下る
ローラースライダーも人気だ。

★豊かな海の幸
金華山周辺は好漁場として知られる。牡鹿半島の
ホテルや民宿では、夏場はウニ、秋から春にかけては
天然アワビが主役だ。リアス式海岸で育ったアワビは
身が締まり、浜焼き、陶板焼きに舌鼓を打つ食通も多い。
鮎川地区はかつて捕鯨で栄えた。今でも鯨料理が同半島の
名物の一つだ。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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