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藍島(あいのしま)

藍島(あいのしま) 北九州市 隣の島まで海上散歩

藍島で猫をなでる北九州市内のカップル。猫が人と人とをつないでくれる

藍島で猫をなでる北九州市内のカップル。猫が人と人とをつないでくれる

 工業都市・北九州のイメージが変わった。小倉港から渡船に乗り、煙をはく工場やビルの景色を背に到着したのは藍島だ。透き通った海とさわやかな空気にあふれた場所だった。

 息を大きく吸い込み、民宿から散策に出発すると「宿の中に猫いましたか」と観光客らしい女性に声を掛けられた。女性は道端にいた猫にパンをあげながら「私、瀬戸内で猫のいる宿をやっているんです。東京から来たんですけどね」。名前は小林希(のぞみ)さん(33)。執筆活動をしていて、猫の柄(体の模様)をテーマにした本の取材中だという。小林さんと猫を囲んでいると、北九州市内からやって来たというカップルも加わった。猫をなでながら笑顔でなごむ。藍島は、数年前からネット上で「猫のいる島」として有名らしい。

海水の透明度は高く、色とりどりの海藻が観察できた。遠くに見える貝島に向かって、ここから歩き始めた

海水の透明度は高く、色とりどりの海藻が観察できた。遠くに見える貝島に向かって、ここから歩き始めた

 その後は、夕方の干潮時刻に間に合うように北の端へ。楽しみにしていたのは、300メートル先にある貝島に歩いて渡ることだ。「大潮の干潮時に限って、隣の島まで歩いて渡れる」という特別な響きに引かれた。浜辺に着くと一面に広がっていたのは水平な岩盤。波によって浸食された地形で千畳敷と呼ばれる。大自然の美しさに胸が高鳴る。

 干潮時刻になったら、海に道ができる-。そんな想像をして待った。私を尻目に長靴姿の男性が岩の上をすいすい渡っていく。20分前になっても水位に変化なし。イメージしていた海が割れる奇跡のようにはいかないのか。ふくらはぎの高さまでは水位が下がっていたので「確かに歩ける」。想像したよりも情けない様子だが。

 海に足を入れると、サンダルをはいた足から冷たさが伝わってきた。動かすたびにロープのような海藻が絡み付いて痛い。やっと岩が連なっているところに出たので上に乗ったが、海藻がびっしり。カメラを左肩に掛けているため、バランスが崩れ、気がゆるむと滑ってしまう。なんの試練だろう、とぼんやり思った。やっと乾燥した岩場に抜けた。貝島は目前だったが、私有地と聞いていたので上陸はやめておいた。島には6世紀の古墳13基があり、釣り針などの漁労具が発見されたという。うっそうとした木々に覆われた姿は神秘的だった。

 近くの岩場では、漁師の菅勝さん(65)が地元で「センネン」と呼ばれる貝を採っていた。「そんなサンダルで来たの? 危ないよ」と笑い飛ばされた。「そろそろ潮が満ちてくるよ」と聞いたので、慌ただしくUターン。途中、海藻の説明をしてもらった。岩に付いている茶色の海藻はコブノリという。「みそ汁に入れるとおいしくて、食感がいいよ」。海水の中で足に絡み付いていたのはヒジキ。鮮やかな緑色なのはアオサだ。この島の人は遠い昔と変わらず、海の恩恵を受けながら生きている。

藍島沖でサヨリの入った網を引き上げる浜崎勉さん(左)と俊三さん。途中で雨が降ったためか、あまり取れなかった=いずれも北九州市の藍島で

藍島沖でサヨリの入った網を引き上げる浜崎勉さん(左)と俊三さん。途中で雨が降ったためか、あまり取れなかった=いずれも北九州市の藍島で

 どうせなら、どっぷり海を感じたい! 自治会長の浜崎勉さん(61)に頼み込んで、サヨリ漁に連れていってもらった。勉さんは、4世代10人家族の大黒柱だ。次男の俊三さん(36)と2隻の漁船をロープでつないで午前10時から2時間、並んで網を引き続ける。息の合ったスピードと距離感には驚いた。他の船も兄弟や夫婦など5組が操業していた。「こまい(小さい)船が大きい方に合わせるんよ」と勉さん。子どもが親の背中を追う姿のようだ。港に戻ると、家族が箱詰め作業を手伝うために待っていた。その日の成果を喜んだり悔しがったりする人たちがいる。昼ご飯は取れたばかりの刺し身をいただいた。なぜか懐かしい気持ちが入り交じる格別の味だった。

 文・写真 大槻宮子

(2016年4月15日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
北九州空港からJR小倉駅までは、エアポートバスが便利。
小倉駅北口から小倉港へは徒歩8分。
小倉港から藍島までは市営渡船「こくら丸」で35分(1日3便)。

◆問い合わせ
北九州市渡船事業所=電093(861)0961
藍島市民サブセンター=電093(751)1311

おすすめ

柱台

柱台
美しいビーチ

美しいビーチ

★藍島遠見番所旗柱台
福岡県史跡で1721(享保6)年、中国の密貿易船を取り締まるために建てられた。
密貿易船を発見すると、柱台に大きな旗を立てて海の向こうの小倉藩の番所に知らせた。
今でも2年に1回、藍島小学校が旗を立てて、小倉のホテルから見えるか確認している。

★民宿
市営渡船が泊まる本村港の近くに2軒ある。
新鮮な魚介類をふんだんに使った料理を出してくれる。
藍島では、夏はウニやアワビ、サザエ、クルマエビ、秋はワタリガニなどが取れる。
宿泊する場合は事前に予約を。
民宿はまや=電093(751)1300
民宿ほなみ=電093(751)1360

★馬島
市営渡船の小倉-藍島航路にあり、途中で立ち寄れる。
小倉から20分、藍島から15分。美しいビーチもある。
人口約40人の島で飲食店や売店はない。
港の近くに猫が集まっていて、戯れることができる。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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