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内蔵のまち

内蔵のまち 秋田県 「鞘」が守る伝統の空間

内蔵のため外からは見えない。右手前の建物が佐藤又六家=秋田県横手市増田町で

内蔵のため外からは見えない。右手前の建物が佐藤又六家=秋田県横手市増田町で

 店内に入った後、「ちょっと待ってください」と声がして、くぐり戸のある大戸が目の前に現れた。

 声の主は、この店の当主、第12代佐藤又六さん(77)。「ここから内蔵(うちぐら)になっています」と説明した。内蔵は、家の中に土蔵がある構造をいう。

 秋田県横手市増田町。又六さんの店は、古い町並みを残す中七日町通りにある。2013年、同通りを中心に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されるのを機に設立された増田まちなみ保存会の会長だ。

 カメラ店を営む又六さんの家は、入ってすぐに蔵があり、その中に店舗と座敷、奥に別の文庫蔵がある。普通は木造の主屋(おもや)に続いて蔵があり、これらを「鞘(さや)」と呼ばれる木造の建物が覆う。間口は10メートルに満たないが、奥行きは裏門まで120メートルもある。豪雪地帯で、冬季にも蔵との行き来を容易にしたこともあるが、江戸時代に5回もの大火があったことが大きいという。又六さんの店舗兼住宅の蔵は明治4(1871)年に完成した。客間にかかる同年の米国製柱時計はまだ健在だ。

内蔵が完成した1871年製の柱時計を指す佐藤又六さん=秋田県横手市増田町で

(上)内蔵が完成した1871年製の柱時計を指す佐藤又六さん(下)総漆塗りで仕上げた佐藤養助漆蔵資料館の内蔵内部=秋田県横手市増田町で

 「蔵は、たなぎものでした」と又六さん。土地の言葉で「厄介もの」という意味だが、修理や維持には大変な費用がかかる。にもかかわらず、現在でも内蔵の家が48棟もあり、うち19棟が一般公開(一部有料)している。

 増田町は、2つの街道が合流する交通の要衝として発展。幕末から明治期には養蚕、葉タバコなどの産業で栄えた。さらに、銀行の設立、水力発電、鉱山開発なども加わって大正、昭和初めにかけて最盛期を迎えた。

 内蔵はその繁栄の証しでもある。はす向かいの増田観光物産センター「蔵の駅」もその一つ。金物店だった。観光ガイドで市職員の佐藤豊さん(59)が一般的な内蔵を案内してくれた。

 裏庭に延びる、通り土間に沿って、黒しっくいの蔵がある。開かれた扉は片方だけで1トンもある。精緻なしっくい技術の高さには、現代の左官職人も驚くほどという。

 豊さんは旧増田町が2005年に横手市と合併する前、増田町教育委員会に勤め、内蔵について調べた。「当時は、生活の中にある蔵を他人に見せるなんてとんでもない。地元の人でも隣の蔵を見たことがない、という時代だった」と振り返る。

 通りに沿って内蔵を見て回る。蔵を応接間として用い、高価なヒバの通し柱や床などを総漆塗りで仕上げた家もある。これまで外部に見せようとしなかったのが不思議だ。

 蔵の外観が評判の山吉肥料店に寄った。昭和初めの内蔵。蛇腹の扉の縁は5段もあり、扉などを守る組み子細工の鞘飾りも幾何学的な美しさがある。すっかり案内が板についた山中弘子さん(70)が「扉を閉めれば下から和紙1枚がすっと抜ける。ぴったりだと扉が傷むし、広ければ煙が入る」と自慢げに言った。内蔵はいまや町の大きな誇りだ。

 翌朝、寛永20(1643)年以来続くという朝市をのぞいた。毎月2、5、9の付く日に近郊の農家らが山菜や野菜などを売る。地元客に交じって観光客の姿も目立った。

 元造り酒屋を活用した「旬菜みそ茶屋くらを」でこうじ料理の昼食をとった。店の看板は以前の「勇駒酒造」のまま。おかみの鈴木百合子さん(43)は「保存地区選定で勝手に変えられない」と笑った。店奥にある江戸時代の仕込み蔵は、外観に手を加えず、写真展やコンサートなどを開く。

組み子細工の鞘飾りも美しい山吉肥料店の蔵側面=秋田県横手市増田町で

組み子細工の鞘飾りも美しい山吉肥料店の蔵側面=秋田県横手市増田町で

 町の若手でつくる「蔵ッカーズ」の代表を務め、勉強会や清掃活動も行う。「古いのを壊すのは簡単だが、古いものをつくることはできない。生活が息づいてこその増田町。テーマパークにはしたくない」

 文・写真 朽木直文

(2016年6月3日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
秋田新幹線大曲駅で奥羽線に乗り換え、
横手駅まで約20分、十文字駅まで約40分。
横手市増田町(四ツ谷角)へはバスで横手駅から約30分、
十文字駅から約10分。
秋田空港からはバスで秋田駅まで約35分、
奥羽線で十文字駅まで約1時間30分。

◆問い合わせ
増田の町並み案内所「ほたる」=電0182(23)6331、
横手市観光おもてなし課=電0182(32)2118

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★横手やきそば
戦後、屋台で始まったゆで麺の焼きそば。現在、約50軒の店がある。通常、豚ひき肉、目玉焼きの肉玉焼きそばを指す。同暖簾(のれん)会マップもある。事務局=電0182(32)2118

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