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パタン

パタン ネパール・カトマンズ盆地 絆が支える復興の町

世界遺産の古都パタンのダルバール広場。地震で建物にも大きな被害が出たが観光客は徐々に戻っている=ネパール・パタンで

世界遺産の古都パタンのダルバール広場。地震で建物にも大きな被害が出たが観光客は徐々に戻っている=ネパール・パタンで

 昨年4月25日、マグニチュード(M)7・8の大地震に襲われたネパール。大地震から1年たった現地の今を肌で感じようと、この春、世界遺産に登録されているカトマンズ盆地の古都パタンを訪ねた。

 首都カトマンズのトリブバン空港で飛行機を降りるとすぐ、強い日差しに照らされた。人々は夏の装い。伝統的なサリーをまとう女性もいるが、Tシャツとジーパン姿の人も目立つ。それにしても、道路はバイクだらけ。ガソリンスタンドには給油待ちのバイクが何百メートルも連なっていた。車も多く、カトマンズは慢性的に渋滞している。土ぼこりと排ガスを防ぐマスクは街歩きの必需品だ。

 パタンはカトマンズの南にある古都。観光客が集まるのは町の中心部にある旧王宮前の広場(ダルバール広場)で、周りは庶民的な住宅地だ。家の特徴は、隣家と文字通り接し、長屋のように連なっているところ。手狭になると上へ上へと部屋を増やしていくというから面白い。下の階では普通に生活しながら、天井から増築中の鉄筋が延びている家もある。

 今回、来日して24年の友人マハラジャン・ナレスさん(43)の帰省に合わせ、ナレスさんの実家にお邪魔した。広場から歩いて15分ほどの住宅地にある家は7階建て。「階段の上り下りが毎日のいい運動」と、妹のリタさん(31)は笑う。

 住民たちの朝は早い。母親のプレーム・マヤさん(65)は毎朝6時前から、近くの寺院を巡り、祈りをささげる。興味深いのは、日本以上に神仏習合が進んでいる点。ヒンズー教の神ガネーシャに祈ったかと思えば、次の場所では仏像に手を合わせる。一つの寺院に神と仏が同居し、密教などその地の信仰も混ざり合った独特の宗教観が人々の心に根付いていた。

 
ダルバール広場で開かれていた、地震の前と後を並べた写真展に見入る人たち=パタンで

ダルバール広場で開かれていた、地震の前と後を並べた写真展に見入る人たち=パタンで

 地震の爪痕は探すまでもなく、あちこちに家が崩れた跡がそのまま残る。広場でも修復中の建物が目立った。一角では地震前と今のネパール各地の写真を並べた企画展が開かれ、観光客らが熱心に見入っていた。まだ元の美しい古都に戻ってはいないが、観光は復興に欠かせない大事な産業。「ぜひ訪れてほしい」とナレスさんは呼び掛ける。

 市街地から車で30分ほど、郊外のブンガマティ村に足を延ばした。昔ながらのれんが造りの家が多く、地震で1350世帯の6割が壊れた。けたたましくクラクションが響く市街地を離れ、高台から山々を見渡すと心が安らぐ。地元主体で作った復興計画では、できるだけ古くからの町並みを残そうと努めているという。

 
ブンガマティ村の学校で皆と学ぶクマリ(右から2人目)=パタン郊外で

ブンガマティ村の学校で皆と学ぶクマリ(右から2人目)=パタン郊外で

 仮設校舎で再開した、3歳から16歳までが通う学校に、生き神「クマリ」の5歳の少女がいた。カトマンズ盆地の風習で、初潮を迎える前の少女から地域ごとにクマリが選ばれる。パタンで会わせてもらったクマリは年十数回の決まった時しか外出できず、教師が家まで勉強を教えに来る。かつては教育も受けられなかったが、クマリでなくなった後の人生を考え、変わってきたという。他の子どもたちと机を並べるブンガマティ村のクマリは無邪気な笑顔も見せていた。

 滞在していた数日間、「今日は朝6時から夕方まで電気が止まる」と毎日の予定を聞かされた。着いた日は水が出ず、夜に給水車がやって来た。人々は停電や断水に普段から慣れている。屋上で夕食中に明かりが消えた時は、星空と小さな懐中電灯の光の下で杯を交わすのも楽しかった。その暗がりの中、「いつまでいるんだっけ」と、隣人がひょっこり隣の屋上から顔をのぞかせた。この密接した地域のつながりは、災害にも負けない強い絆だと思った。

  文・写真 神谷円香

(2016年6月10日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
日本からの直行便はなく、バンコクやシンガポールなどで乗り継ぎ、
カトマンズのトリブバン空港へ。
古都パタンへは空港からタクシーで20~30分。

◆ビザ
入国にはビザが必要。あらかじめ東京の大使館などで取得できる。
郵送での手続きも可。到着時に空港でも取得できるが並ぶ場合も。
観光ビザは15、30、90日間有効の3種類で、料金は15日間で3000円。

おすすめ

ネパールカレー(下)とロキシー(中)

ネパールカレー(下)とロキシー(中)

★料理
本場のネパールカレー。鶏肉や豆の入ったものが多く、使うスパイスは家庭ごとに違い、
それほど辛くないものもある。牛肉は食べないが水牛は食卓に並ぶ。炊いたり乾燥させ
たりした米と一緒に手で食べる。

★飲み物
紅茶がおいしくお土産でも定番。牛乳と砂糖をたっぷり入れたチャイを朝に飲む。
アルコールは多種類の地ビールがある。各家庭で造る米などの蒸留酒ロキシーは
度数が40度以上といわれ、祝いの席などで出される。市販はされていない。

★絵画・彫刻
色鮮やかな曼荼羅(まんだら)はカトマンズやパタンの市街地で販売している。
特にパタンは美術の町で、画家や彫刻家が多い。店の奥をのぞくと作品づくりに
励む姿も見られる。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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