【本文】

  1. トップ
  2. 旅だより
  3. 予土線の旅
予土線の旅

予土線の旅 愛媛、高知県 緑の中 緩やかな時間

のどかな山あいの駅で存在感を放つ鉄道ホビートレイン=愛媛県鬼北町の予土線近永駅で

のどかな山あいの駅で存在感を放つ鉄道ホビートレイン=愛媛県鬼北町の予土線近永駅で

  新幹線と2本の特急を乗り継いで愛媛県宇和島市に来た。北海道新幹線が3月に開業し、残る新幹線未到達の地となった四国。ここに「なんちゃって新幹線」「ゆる~い」などとちゃかされながらも、地元を盛り上げようと走る列車がある。それに乗ってぶらりと旅をしてみた。

 既存のワンマン列車を、初代新幹線0系を模して改装した「鉄道ホビートレイン」。宇和島から予土線を通り窪川(高知県四万十町)までを結ぶ便に、2014年3月から投入された。

 ディーゼル音を響かせて宇和島駅にその列車が来た。先端の丸いフォルムに元祖新幹線の面影。街で見る、電車やSLに似せた幼稚園バスを思い出し、ほほ笑んでしまった。これを本物の鉄路で走らせている遊び心には脱帽だ。

 JR四国によると、新幹線の生みの親と呼ばれる第4代国鉄総裁十河(そごう)信二が愛媛県出身なのにちなみ、社内会議で出たアイデア。結果も出している。この車両を使った便の利用者数は1年目の14年、通常車両で走っていた前年から16%、約6000人増えた(集計は各年の3~11月)。15年はそのまま横ばいだったというから、3年目の今、正念場ではある。

 
地域の生活の道になっている沈下橋=高知県四万十市で

地域の生活の道になっている沈下橋=高知県四万十市で

 車内では、0系から移設された座席に腰掛けてみる人もいたが、大半の客は窓沿いの横長座席に直行。お遍路の男性(87)に乗った感想を聞くと、笑顔で「それほどのものはないねえ」。

 田園に山と、ひたすら緑の中を走り抜けていく列車。江川崎駅(高知県四万十市)を過ぎると線路は四万十川に沿う。車窓から、川面すれすれに細い板を渡したような沈下橋が見えた。次の半家(はげ)駅(同市)で降り、これを目指して歩く。増水して濁流にのまれるのを見越して欄干がない橋を、地元の車が事もなげに走り去るのに目を見張った。

 
マハタのあら煮を手に宇和海の魚をPRする川本敏雄さん=愛媛県宇和島市で

マハタのあら煮を手に宇和海の魚をPRする川本敏雄さん=愛媛県宇和島市で

 「日本最後の清流」と呼ばれ、夏場には川遊びやキャンプの客でにぎわう流れを横目に小1時間歩いた後、江川崎駅近くの焼き肉店で「四万十牛」に舌鼓。日が落ちた山あいのホームで30分、独りぼっちで列車を待ち、宇和島駅へ帰り着いた。この駅を出てからわずか5時間だったが、日常と離れた旅の気分はしっかり味わった。あの列車は・・・まあ、旅のきっかけということで十分ではないか。

 翌日も同じ列車に乗った。ホームには記念写真だけ撮って去る家族連れも。旧制中学の同窓会で宇和島市を訪れた鈴木恭一郎さん(82)=福岡県新宮町=は「予土線の沿線には手付かずの自然が残る。ここに、この列車のような楽しみが加わるのは良いこと」と、懐かしい車窓の景色に目をやった。

 山間地を巡る旅だったが、宇和島駅近くで海の幸も味わった。東京や名古屋にも送られる地元産の養殖マハタを出す「宇和海亭真ハタ家」。調理する川本敏雄さん(38)の本職は養殖業だ。「日本有数の養殖産地の宇和海だが、魚食離れに危機感は強い。『養殖の仕事いつ辞めようか』と言う仲間も多い」と言う。

 店は、立ち上げた養殖業者の有志5人の手だけで切り盛りし、経費を抑えている。安くはないマハタを少しでも手頃に味わってもらい、広めるためだ。「この店でもうけが出なくても、またどこかで宇和海のマハタを食べてもらえればいい。やれるところまでやりますよ」

 この店も、あの列車も、四国の広告塔として快走を続けてほしいものだ。

  文・写真 森木幹哉

(2016年6月17日 夕刊)

メモ

地図
トロッコ列車「しまんトロッコ」

トロッコ列車「しまんトロッコ」

◆交通
宇和島市へは岡山で新幹線から特急「しおかぜ」に乗り換え松山まで約2時間50分の後、特急「宇和海」で宇和島まで約1時間20分。
空路の場合、松山空港からJR松山駅までバスで約15分。
宇和島-窪川は2時間10分前後。
予土線には観光列車として鉄道ホビートレインのほか、トロッコ列車「しまんトロッコ」、世界的フィギュアメーカーの製品を車内で展示する「海洋堂ホビートレイン」が走る。

◆問い合わせ
JR四国電話案内センター=電(0570)004592

おすすめ

「四万十牛本舗 焼肉よこやま」 3000円の盛り合わせ。

「四万十牛本舗 焼肉よこやま」 3000円の盛り合わせ。

★森の国ぽっぽ温泉
予土線松丸駅(愛媛県松野町)に併設の温泉施設。
電0895(20)5526

★レンタサイクル
江川崎駅や四万十市観光協会など7拠点で乗り捨て可。
1日1500円ほか。四万十・川の駅カヌー館=電0880(52)2121

★四万十牛
四万十市で育てられている黒毛和牛。
「四万十牛本舗 焼肉よこやま」=電0880(52)2989=では
予算に応じてさまざまな部位の盛り合わせも提供。

★マハタ
生のほか、煮崩れしにくく鍋の材料としても人気。
真ハタ家=電080(2975)2675=では
マハタのステーキ1200円、刺し身、あぶりずし5貫各1000円など。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

旅コラム
国内
海外