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串本町、古座川町

串本町、古座川町 和歌山県 澄んだ渓流に身を任せ

トルコの軍艦エルトゥールル号が沈没した現場近くにあるトルコ雑貨店で、トルコアイスを売るシェキャリさんで

トルコの軍艦エルトゥールル号が沈没した現場近くにあるトルコ雑貨店で、トルコアイスを売るシェキャリさんで

 灯台の下の海では岩に当たった波が白く砕け散っている。「台風がくると崖の下から波が吹き上がってきて何も見えなくなる。今日は静かなほうです」。地元の歴史や自然に詳しいガイドの青木寛(ゆたか)さん(47)が説明する。

 この日は雨が降っていたが、特別、海が荒れているわけではない。それでも潮騒は断崖の上にある樫野埼(かしのざき)灯台にまで届く。和歌山県串本町の紀伊大島は、隣の本州最南端・潮岬とともに太平洋に突き出し、熊野灘の荒波にたえず洗われている。

 「あそこがエルトゥールル号が座礁した岩場です」。青木さんが灯台から少し離れた海を指さす。1890年9月16日夜、トルコの軍艦エルトゥールル号は台風に流され、この岩場にぶつかった。海に投げ出された乗員は灯台の明かりを目指し、数十メートルの崖をよじ登った。わずか60戸ほどだった大島村樫野地区の人々は命がけで生存者を崖の上に引き上げ、なけなしの食料や衣類を分け与えたという。約650人の乗員のうち69人が生き延びた。

 樫野埼灯台は事故の20年前に造られた日本で最初の石造り灯台だ。今も変わらず熊野灘を通る船に光を送る。エルトゥールル号の乗員が助けを求めた灯台守の宿舎も、ほぼ当時のまま残されている。

 悲惨な事故をきっかけにしたトルコとの縁は120年以上も続いている。大統領をはじめトルコ政府関係者が今も足しげく串本町を訪れ、当時の献身的な救助への感謝を口にする。灯台の近くには約200人の遺体を納めた慰霊碑や、事故の様子を伝えるトルコ記念館がある。トルコの雑貨を売る店もあり、2カ月前に来日したばかりのカディール・シェキャリさん(29)が伸びることで有名なトルコのアイスを売っていた。

奇岩がポコポコと並ぶ橋杭岩。干潮時には歩いて近くまで散策できる=いずれも和歌山県串本町で

奇岩がポコポコと並ぶ橋杭岩。干潮時には歩いて近くまで散策できる=いずれも和歌山県串本町で

 串本町は東京都の八丈島とほぼ同じ緯度にあり、濃い緑の植物は南国を思わせ、周辺の海にはサンゴ礁が広がる。案内してくれた青木さんはフィリピンなどでも働いた経験があるが、串本町の自然に魅せられて移住したという。「これほどきれいで豊かな海はめったにない」と話す。周辺には、大小約40の岩が一直線に延びる「橋杭岩」など奇岩や奇観も少なくない。

古座川の支流・小川に浮かぶ「ダッキー」。安定した船体に寝転び、箱眼鏡で川底をのぞくこともできる=和歌山県古座川町で

古座川の支流・小川に浮かぶ「ダッキー」。安定した船体に寝転び、箱眼鏡で川底をのぞくこともできる=和歌山県古座川町で

 翌日には串本町の北を流れる古座川に向かった。河口から5キロもさかのぼると、ところどころで川面に白い波がたち始める。東京の隅田川や荒川ののったりとした灰色の流れを見慣れた目には、渓流がそのまま海に吸い込まれていくように見える。特に古座川の支流・小川(こがわ)にはダムがなく、水深4、5メートルの場所でも川底まで透き通る。橋の上からは身をひるがえすアユがキラキラと光って見える。

 カヌー型ゴムボート「ダッキー」のガイド谷哲也さん(43)は「水の透明度は(四国の清流)四万十川にも負けない」と胸を張る。以前は四万十川でカヌーガイドの仕事に就いていたが、5年前に起業して古座川町でダッキーのガイドをしている。

 谷さんは「ダッキーはかなり適当なオール使いでも大丈夫。安心して川下りが楽しめる」と話す。乗ってみると、その言葉どおり抜群の安定感だ。岩にぶつかってもゴム製なので衝撃が少ない。身を乗り出して箱眼鏡で水中をのぞいたり、寝そべって流れに身を任せたりすることもできる。

 この日は全長約3キロのコースを約3時間かけて下った。途中、何度か休憩をはさみ、谷さんがいろいろな遊び方を教えてくれる。小魚やエビを網ですくえば数分で何匹も捕まえられる。ダッキーをいかだのようにつないで渡ったり、裏返して滑り台にしてみたり、遊び方は尽きない。

 文・写真 中沢穣

 (2016年6月24日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
JR紀勢線の串本駅には、新大阪から約3時間20分、名古屋からは約4時間半。
串本駅から古座駅までは約10分。
串本町と古座川町の町内の交通は、複数のバス路線がある。
南紀白浜空港(羽田空港から約1時間15分)からレンタカーも便利。

◆問い合わせ
串本町観光協会=電0735(62)3171
古座川観光案内所(ぼたん荘)=電0735(72)0376

おすすめ

「本州最南端」の石碑

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★古座川町のジビエ
古座川町は「清流鹿」のブランドで、町内のシカを売り出している。
昨年、捕ったシカやイノシシを下処理するための施設を造った。
捕獲から2時間以内に処理され、臭みのない肉を東京や大阪に直接出荷しているほか、町内でも「南紀月の瀬温泉ぼたん荘」などで食べられる。
猟師についてのハンティング体験も可能。
ぼたん荘=電0735(72)0376

★潮岬観光タワー
本州最南端の潮岬にあり、高さ約40メートルの展望台からは、3方向に広がる水平線の眺望が楽しめる。
入館すると「本州最南端訪問証明書」がもらえる。
近くには潮岬灯台や「本州最南端」の石碑もある。
大人300円、小中学生100円。
電0735(62)0810

★養殖クロマグロ
串本町ではクロマグロの養殖が盛ん。
近畿大水産研究所が開発したクロマグロの完全養殖技術を使っている。
潮岬観光タワーの食堂などで「串本マグロしゃぶしゃぶ御膳」を提供している。

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