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富士山洞穴巡り

富士山洞穴巡り 山梨県 季節忘れる氷の世界

富岳風穴の中は気温0度。夏でも氷が見られる=山梨県富士河口湖町で

富岳風穴の中は気温0度。夏でも氷が見られる=山梨県富士河口湖町で

 「さむーい、お父さん」。半袖短パン姿にサンダルを履いた小さな女の子が、父親の体に抱きついた。

 寒いはずだ。山梨県の富士五湖周辺で最高気温が24度に上がったこの日、富岳風穴(ふがくふうけつ)の中は、何と0度。自然のつららがキラキラ輝いているのだから。

 「ほぼ1年を通して氷が見られますよ。江戸時代には、真夏に江戸の殿様に献上されたらしいです」

 地元で20年以上、ネーチャーガイドをしているベテラン、小野巌さん(83)が、ちょっと誇らしげに教えてくれた。

 洞穴は、富士山北西部に広がる青木ケ原樹海の中に無数にあるという。このうち数カ所は、観光客が安全に見られるように整備され、公開されている。

 暗い洞穴内を探検気分で歩きながら、真夏に冬を味わえるのが人気の秘密だ。今回は小野さんに案内してもらい、いずれも天然記念物に指定されている富岳風穴(富士河口湖町)と鳴沢氷穴(鳴沢村)の2カ所に入った。

 富岳風穴は、樹海の中に大きな口を開けている。階段で穴の底に下りると、あとはほぼ水平。人が入れる区域だけで総延長201メートルある大きな洞穴だ。入ってまず目を引くのが一面の氷。暗闇の中に青白く光っている。「冷蔵庫がなかった私らが子どものころは、発熱するとここの氷を熱冷ましに使ったものです」と小野さんは言う。

 薄暗い岩の通路を歩いていくと、溶岩が縄のような模様に冷えた「縄状溶岩」が壁一面に見られた。さらに進むと、かつてはカイコの卵を保管し、ふ化の時期を調整したという大空間がある。地元の人は昔から、気温が年中ほぼ一定の洞穴の環境を生かしてきたのだ。通路に設置されたほの明るい電灯が、探検気分を盛り上げる。

 それにしても寒い。パーカのフードをかぶった子もいる。洞穴の中に20分もいると、手がかじかんで、全身に震えがきた。洞穴内を1周して外に出ると、熱を持った空気の重さを感じた。

 
穴をしゃがむなどして通っていく=同県鳴沢村の鳴沢氷穴で

穴をしゃがむなどして通っていく=同県鳴沢村の鳴沢氷穴で

 富岳風穴から東方へ約800メートル離れたところには、別の洞穴「鳴沢氷穴」がある。次はもう1カ所の穴もぐりにも挑戦だ。

 こちらは深さが21メートルある縦穴だ。青竹で作られた柵を握って急階段を慎重に下りていく。通路は狭く、人がすれ違えないほど。高さが91センチしかない場所もあり、カニの横ばいのように、腰をかがめて行くしかない。油断した瞬間、頭にガツンと衝撃が。天井の溶岩にぶつけてしまったのだ。入り口でヘルメットを借りてくるべきだった!

 最も底にある大空間は高さ4メートル近くありそう。あちこちに氷が見える。「穴の中を風が通る時に膨張して、空気が冷やされるから氷ができるんですよ」。小野さんが教えてくれた。

 それにしても、青木ケ原樹海に洞穴がたくさんあるのは、どうしてなのか。

 
磁石で溶岩をくっつけて見せるガイドの小野巌さん。富士山の溶岩は、磁力を帯びた磁鉄鉱という岩石からできている=鳴沢村で

磁石で溶岩をくっつけて見せるガイドの小野巌さん。富士山の溶岩は、磁力を帯びた磁鉄鉱という岩石からできている=鳴沢村で

 小野さんによると、富士山の北西にある側火山(そっかざん)である長尾山(標高1、424メートル)が864年に大噴火を起こし、流れ出た溶岩が斜面を埋め尽くしたのが始まり。それがゆっくり冷える時に、溶岩に含まれる二酸化炭素が噴出して、大小無数の洞穴ができたという。

 その後の約1100年で、溶岩の上に樹木が生え、今では青木ケ原樹海と呼ばれるようになった。「樹海と洞穴を見ると、地球は生きていることが実感できますよ」と小野さんは話す。

 文・写真 市川真

(2016年7月1日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
東京駅からJR中央線大月駅で富士急行線に乗り換え、
河口湖駅下車。
名古屋駅からは中央線塩尻駅で乗り換え、
大月駅経由で河口湖駅まで。
富岳風穴や鳴沢氷穴方面へは、
河口湖駅からバスが出ている。

おすすめ

紅葉(こうよう)台

紅葉(こうよう)台

★富岳風穴と鳴沢氷穴
営業時間は午前9時から午後5時15分(時季によって変動あり)。入場料はともに大人350円、小学生200円。両洞穴セットで大人600円、小学生300円。小学生未満無料。ただし鳴沢氷穴は、赤ちゃんをおんぶや抱っこして入場することは不可。休憩コーナーでは、地元特産のトウモロコシを使ったソフトクリームやパフェが味わえる。ガイドの問い合わせは、富士観光興業=電0555(85)3089

★紅葉(こうよう)台
標高が1164メートルあり、青木ケ原樹海を上から眺められる。なぎの状態の大海原に見える樹海と、富士山のコラボレーションが絶品。紅葉台入口バス停から東海自然歩道を徒歩約40分。レストハウスの展望台入場料は大人150円、子ども100円。

★道の駅なるさわ
物産館では、モモやプラム、サクランボなどの果物や野菜など、地元産の新鮮な食材が格安で購入できる。「なるさわ富士山博物館」もあり、富士山内部のマグマの活動などを巨大模型で説明しているほか、古代の地球を再現した恐竜ゾーンなども。営業時間は午前9時から午後6時。年中無休で入場無料。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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