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中ノ島・海士町

中ノ島・海士町 島根県 隠岐諸島 遠流の地でハート探し

中央下の空洞がハート形に見える明屋海岸の「屏風岩」

中央下の空洞がハート形に見える明屋海岸の「屏風岩」

 1221年、承久の乱に敗れた後鳥羽上皇が配流された「遠流」の地で、隠岐諸島の1つ島根県海士(あま)町を訪れた。

 「おとうちゃーん」。こぢんまりした島前内航船をヨチヨチ歩きで下りた女の子が、菱浦(ひしうら)港で待っていた男性に駆けよった。ぎゅーっと抱きつく。後から船を下りた母親が「ただいま」と笑う。私も船を下りた。周囲には、島民らしき若い夫婦や幼い子どもがあちこちにいて、活気があった。

 隠岐諸島の4つの有人島は島前(中ノ島・海士町、西ノ島・西ノ島町、知夫里島・知夫村)と島後(隠岐の島町)に分けられている。太古の火山活動によって形成された。豊かな自然と独特の歴史文化が残り、ユネスコの世界ジオパークにも認定されている。

 「ハート岩がある」-。自然が生み出した偶然の産物を1目見ようと、バスに揺られて明屋海岸へと向かった。「屏風(びょうぶ)岩」と呼ばれ、地元の女神さまがお産をした伝説が残っている。岩の空洞がハート形に見えるという。

 海岸に着くと、見渡す限り濃紺の海。所々エメラルドグリーンに染まっている。海沿いの石畳を少し歩くと「屏風岩」の下に、ハートの空洞がくっきりと見えた。うっとり眺めていると、同じバスに乗り合わせていたカップルが歩いてきた。「思ってたよりちゃんとしたハート形で、びっくり」と、石川未弥子さん(26)=松江市。みんなで目を見合わせて喜んだ。

 ほかには、どんな見どころがあるのだろうか。海士町観光協会の本田大善さん(39)に、旅の手配を手伝ってもらい、隠岐牛丼を食べたり、島の名所を巡る「ぐるっと海士ツアー」などに参加した。

島ガイドと行く「夜まいり」が人気の隠岐神社=いずれも島根県海士町

島ガイドと行く「夜まいり」が人気の隠岐神社=いずれも島根県海士町

 印象に残ったのは、後鳥羽上皇をまつった隠岐神社。歴史の授業では、島流しされるところまでしか知らなかった。その後、崩御するまでの20年近く、都へ帰る日を待ちわびながら過ごしていた。和歌を詠み、刀を打ち、趣のある生活を送っていたようだ。同神社は「夜まいり」でも知られ、竹灯籠に導かれて本殿へ向かった。家族連れ5人と一緒で、順番に参拝し、おみくじを引いた。隠岐の島町の赤田遥さん(14)は「この空間に誰かいらっしゃるような、厳かな感じがしました」と話し、おみくじの「学問」の欄を熱心に読んでいた。

海中展望船「あまんぼう」の船底にある展望窓からクロダイなどを観察できた

海中展望船「あまんぼう」の船底にある展望窓からクロダイなどを観察できた

 菱浦港から出ている海中展望船「あまんぼう」にも乗った。海士のもう1つの名所「三郎岩」は「太郎」「次郎」「三郎」と呼ばれる3つの縦長の岩で、海から突き出ている。もともとは1つの岩だったという。また歳月が流れるとこの「3兄弟」が波の浸食で姿を変えていくのかと思うと、目の前の光景がいとおしく思えた。船と並走するように、トビウオが跳ねた。アーチを描くように飛ぶと思い込んでいたが、実際は海からひょこっと顔を出すと、直線的に飛んでいた。船底に移動して、海中展望窓からクロダイの泳ぐ様子を観察。40センチクラスが群遊する見慣れない光景で、「遠くへ来た」という思いを強くした。

 港に戻ってうろうろしていると、「あれ、また会いましたね」と声を掛けられた。島へ向かう途中で、同じ船に乗り合わせた兵庫県の池田信子さん(67)だった。中学卒業の15歳まで海士で育ち、関西に働きに出たという。娘夫婦と孫とともに両親のお墓を捜しに50年ぶりに島を訪れた。「お墓見つかりましたよ。私がいたころに比べて、この島の建物も道路もだいぶ変わって、きれいになっていますね」。50年ぶりに幼なじみに会って、おいおい泣きながら再会を喜んだそうだ。

 フェリー乗り場であるポスターが目についた。「ないものはない」という町のキャッチコピー。それでも、隠岐牛や岩ガキ「春香」のブランド化を展開するなど、全国へアピールしている。地方創生の一例として注目を集め、働き盛りのUIターン者も後を絶たない。もともと島に「あるもの」を大事に売り込んでいる。そんな海士の魅力に取りつかれて、島を後にした。

 文・写真 秋田佐和子

(2016年8月12日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
海士町の菱浦港へは七類港(松江市)、JR境港駅に隣接した境港(鳥取県境港市)から高速船またはフェリーが発着している。
最短でも、高速船は約2時間、フェリーは約3時間。
七類港へはJR米子駅からの連絡バスがある。
米子空港とそれぞれの港の間もバスが運行している。

◆問い合わせ
海士町観光協会=電08514(2)0101
隠岐汽船=電08512(2)1122

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電08514(2)2525

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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