【本文】

  1. トップ
  2. 旅だより
  3. アルテピアッツァ美唄
アルテピアッツァ美唄

アルテピアッツァ美唄 北海道美唄市 風景に溶け込む彫刻

旧小学校の校舎(奥)を利用したアルテピアッツァ美唄。季節や天候により彫刻の表情はさまざまに変化する=北海道美唄市で

旧小学校の校舎(奥)を利用したアルテピアッツァ美唄。季節や天候により彫刻の表情はさまざまに変化する=北海道美唄市で

 とても硬いはずの巨大な大理石やブロンズの彫刻が、軟らかいものに思えてくるから不思議だ。大雨がやんだ直後の緩やかな山の斜面に立つと、自分と彫刻、そして周囲の緑が、同じリズムで呼吸をしている錯覚さえ覚えた。

 北海道美唄(びばい)市にある「安田侃(かん)彫刻美術館アルテピアッツァ美唄」は、市出身でイタリア在住の世界的彫刻家、安田侃さんの作品40点余を7万平方メートルという広大な敷地の中で展示している。入場無料だが、運営するNPO法人が寄付を募っている。かつての美唄は国内有数の炭鉱都市。美術館も三菱が経営した炭鉱地区にあり、既に閉校していた小学校の校舎や体育館、校庭などを再生して1992年にオープンした。

 訪れた8月下旬の週末は、北海道にしてはめずらしく台風が襲来していたこともあり、人影はまばらで静まり返っていた。晴れた日には家族で来る人も多く、子どもたちのはしゃぐ声が響き渡るそうだ。

 
歴史を感じる旧小学校の教室では白い大理石の彫刻が浮かび上がるように見える=北海道美唄市で

歴史を感じる旧小学校の教室では白い大理石の彫刻が浮かび上がるように見える=北海道美唄市で

 たった1人、敷地内で小高い丘を上ったり下りたりを繰り返し、丸みを帯びたり角張ったりした抽象的な形の彫刻を訪ね歩く。見る場所や角度によって周囲の山並みの風景は変わり、そのたびに新鮮な気持ちになる。

 それぞれの作品の前に題名や説明書きは一切ない。「作品が、見る人の心の鏡でありたい」という作者の願いからだそうだ。つまり、彫刻を見ながらどう感じ、どんなことを考えるかも自由ということだ。

 古い木造校舎の中にも彫刻はある。教室だった部屋の床や壁は年月がたち木の色が濃くなっていて、床に置かれた真っ白な大理石の彫刻が映える。

 この小学校が閉校したのは35年も前のことだが、教室には壁の名札や、身長を測るためのものさしがそのまま残してあり、にぎやかだった時代の記憶を鮮やかに伝えている。これらはいずれ朽ちていくはずなのに、大理石の彫刻がピタリと時間を止めているようにも感じる。

誰でも使える工房にあるノミなどの工具。すべてイタリアから取り寄せたものだ

誰でも使える工房にあるノミなどの工具。すべてイタリアから取り寄せたものだ

 旧校舎を出て、敷地内で1番高い丘へ向かう。そこには誰でも使える工房があり、やすりを手に黙々と大理石を削る人の姿があった。ここで年に1、2回安田さんが主宰する「安田侃のこころを彫る授業」で直接指導を受け、彫刻のとりこになったという愛好家の岩瀬津雅子さん(54)。週1回、仕事が休みの日に札幌市の隣にある江別市から1時間かけて車を運転してくるほど熱中している。汗だくになりながら「大理石は意外と軟らかく、朝と晩でまったく違った姿になるのが楽しみなんです」と教えてくれた。

 アルテピアッツァ美唄の彫刻たちは、季節によってまったく違った「額装」をまとう。1番にぎわうのは、周囲の山々の紅葉が盛りを迎える10月だ。他方、スタッフの1人で、イタリアで8年間、彫刻修復の修業をした経験を持つ土谷あすかさん(35)は「個人的に冬が1番好きです」と勧める。冬場は雪が深く積もるが、作品の周囲は除雪されて通路も確保される。土谷さんは「来場者は少なく、彫刻を見ながら雪の音が聞こえてくるような気になります」。
 

大地に置かれた彫刻は見る場所によってさまざまに変化する

大地に置かれた彫刻は見る場所によってさまざまに変化する

 展示されている彫刻は自由に触れることができる。少し遠慮がちに、手のひら全体をつけて深呼吸をしてみた。相手は人間でもないのに、自分の気持ちを理解してもらえたような、そんな優しさを感じた。

 着いてからずっと曇っていたが、日没間際になって突然、日が差して一瞬だけ神秘的な風景となった。気付いたら、到着してから4時間近くたっていた。

文・写真 南拡大朗

(2016年10月07日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
札幌からJR函館線で美唄駅まで特急で35分。
新千歳空港からはJR千歳線に乗って、札幌で乗り換え、美唄駅まで1時間15分。
美唄駅からアルテピアッツァ美唄までは、市民バスで20~30分。

◆問い合わせ
安田侃彫刻美術館アルテピアッツァ美唄=電0126(63)3137
美唄市商工観光課=電0126(63)0112

おすすめ

美唄焼き鳥

美唄焼き鳥

★美唄焼き鳥
1本の串でレバーや皮、卵などさまざまな鶏の部位が、市内の飲食店で味わえる。
味付けは塩、こしょうとシンプルで、炭火でじっくり焼いたうま味と歯応えがいい。
ルーツは明治の開拓期にさかのぼり、後に炭鉱で働く人たちの憩いの食として地域に根付いた。

★炭鉱の記憶
三菱美唄炭鉱の跡地に建設された炭鉱メモリアル森林公園、三菱美唄記念館、美唄市郷土史料館で往時の面影に触れることができる。
独特の形状をした炭鉱長屋が今も残っており、移り住んで生活している人たちもいる。
炭鉱にちなんだ建造物などをめぐるガイドツアーも定期的に開かれている。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

旅コラム
国内
海外