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「なつかしの国」石見

「なつかしの国」石見 島根県西部 夜の社包む神楽の熱気

石見銀山で栄えた大森の町並み=島根県大田市で

石見銀山で栄えた大森の町並み=島根県大田市で

 赤い瓦をふいた建物が次々に目に飛び込んできた。「なつかしの国」とのキャッチフレーズにひかれ、訪れたのは島根県の西部、石見(いわみ)地方。赤い瓦は特産の石州瓦で、頑丈で寒さにも強いという。新鮮な風景に目を奪われながら、まずは2007年に世界遺産に登録された石見銀山遺跡を構成する大森の町並み(大田市大森町)を歩いた。

 大森は戦国時代から江戸時代にかけて銀の採掘で栄えた鉱山町。代官所跡や豪商の家屋などが残り、1キロにわたり古民家が軒を連ねる。「通常の城下町と異なり、武家屋敷と商家が同じエリアに混在するのが特徴です」と石見銀山ガイドの会の長尾英明さん(69)が教えてくれた。

 伝統的な建物はカフェや雑貨店などのほか、今でも住宅として使われており、軒先からは「こんにちは」と、あいさつの声。古民家の庭で遊ぶ今どきの子どもの姿が何だかおもしろい。最盛期には、土地の役人や鉱山関係者、商人、職人らで人口は20万人に上ったともいわれる。

(上)一体ずつ表情が異なる五百羅漢像(下)今も現役の福光石の石切り場=いずれも島根県大田市で

(上)一体ずつ表情が異なる五百羅漢像(下)今も現役の福光石の石切り場=いずれも島根県大田市で

 町の一角にある羅漢寺には、銀山で亡くなった人たちを供養する五百羅漢像が安置されている。一体ずつ違った顔をしており、長尾さんは「誰でも似た顔の羅漢を見つけられるといわれています」。これら羅漢像の材料の福光石も、石見地方で採れる。銀山は1923(大正12)年には実質的に閉山したが、福光石の石切り場(同市温泉津(ゆのつ)町)は、今も現役。見学すると、15メートルを掘り下げた巨大な穴や、むき出しの手掘りの跡などスケールの大きさを味わえた。

大蛇と戦う須佐之男命の姿を舞う石見神楽の演目「大蛇」=島根県浜田市の三宮神社で

大蛇と戦う須佐之男命の姿を舞う石見神楽の演目「大蛇」=島根県浜田市の三宮神社で

 日が落ちてからは、浜田市相生町の三宮(さんくう)神社を訪れた。民俗伝統芸能の石見神楽を見るためだ。神楽が始まると、夜の社が熱気に包まれた。太鼓や笛、古語による歌と拍子が響く中、絢爛(けんらん)豪華な衣装を着た舞子が、舞台を所狭しと舞う。大蛇(おろち)がとぐろを巻き、はいずりまわり、火を噴く。想像以上の迫力に圧倒される。

 この日は「西村神楽社中」の公演。代表の日高均さん(62)は「見てもらうというより、舞子とお客さんが一緒に神様の前で楽しむ感覚です」と解説する。石見神楽は、神事でありながら、テンポが速く、舞は激しい。

 恵比須様の釣り姿を舞う演目では、客席にあめをまいたり、客が持ったタイをコミカルな動きで釣りあげたりする。須佐之男命(すさのおのみこと)がヤマタノオロチを退治する演目では、客席までせり出して巨大な4匹の火を噴く大蛇と戦う姿が圧巻だ。

 公演後、金糸、銀糸を手縫いした衣装を着せてもらうと、布団のようにずっしり重く、20キロにも及ぶという。お面は石州和紙を重ね、重厚感がある。1900年ごろ考案されたという蛇胴も石州和紙でつくられ、畳めば1メートル、伸ばせば一体17メートルにもなる。これらを着けて激しく舞うには相当な練習が必要だと実感した。

 石見神楽は明治期以降、地域の住民が、その担い手になってきた。石見には、150を超える社中や保存会といった石見神楽の団体がある。祭りの時期には朝から晩まで、あるいは夜通し神楽が催され、1日で15~20の演目を舞うこともあるという。舞や衣装は、各団体で趣が違い、時代を超えて伝えられ追加されてきた。

 「石見では、子どもがゲームやテレビではなく神楽にはまる。神楽がしたくて地元に残ったり、戻ってくる子もいる」と日高さん。「伝統を守るというよりは、自分たちが本当に楽しんでいる」。その言葉と神社を包む興奮に、石見神楽が脈々と続いてきた理由が分かるような気がした。

 文・写真 石屋法道

(2016年10月14日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
萩・石見空港へは羽田空港から約1時間半。
出雲縁結び空港へは羽田から約1時間半、愛知県営名古屋空港から約1時間。
鉄道では、新山口駅から浜田駅まで特急で約2時間10分。
広島駅から浜田駅まで高速バスで約2時間~2時間半。

◆問い合わせ
石見観光振興協議会=電0855(29)5647

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江戸時代の津和野藩のメインストリート殿町、白く長い塀や門や掘割を泳ぐコイが有名

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島根県芸術文化センター「グラントワ」

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★日本遺産 津和野
江戸時代の津和野藩のメインストリート殿町には、白く長い塀や門など古い武家屋敷の町並みが残る。
掘割を泳ぐコイも有名。
幕末ごろの様子を描いた百景図と見比べながらの町歩きも楽しめる。
日本遺産センター(原則月曜休館)=電0856(72)1901=には案内人が常駐。

★島根県芸術文化センター「グラントワ」
益田市有明町。
2005年に開館した美術館と劇場の複合施設。
色合いが微妙に異なる石州瓦を屋根に12万枚、壁に16万枚使った建築は見もの。
地域の文化を発信するほか、年間を通して展示やイベントが開催されている。
美術館は有料、原則火曜休館。電0856(31)1860

★萬福(まんぷく)寺
益田市東町。
室町時代の1479年に雪舟によって造られた庭園がある。
巧みに石を配置し、仏教の世界観を象徴しているという。
1374年に建立された本堂は、国重要文化財。
電0856(22)0302

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