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ゴッホゆかりの地

ゴッホゆかりの地 フランス、オランダ 傑作生んだ情景 今も

ゴッホが下宿していた「ラヴー亭」は、歴史的建造物に指定されている=フランスのオーヴェール・シュル・オワーズで

ゴッホが下宿していた「ラヴー亭」は、歴史的建造物に指定されている=フランスのオーヴェール・シュル・オワーズで

 「あの席に、ゴッホはいつも座っていたのよ」。パリから電車で約1時間の小村、オーヴェール・シュル・オワーズは、画家ゴッホが人生最後の10週間を過ごした地として知られる。拳銃自殺を図り、下宿先の「ラヴー亭」で息を引き取った。現在はレストランとなっている店内で、村の観光局長のカトリーヌ・ギャリオさんがにこやかに語る。「そして、いま私たちが座っている席に彼の遺体が置かれたの」。思わず、ナイフとフォークを持つ手が止まった。

 マーガレット、ポピー、バラ…。街角の至る所に花が色づく、人口約7000人の美しい村だ。ゴッホが自殺したのと同じ7月に訪ねた。村中に、ゴッホがイーゼルを立てた地点を示す金属の刻印が見つかる。最晩年の代表作「カラスのいる麦畑」に描かれた麦畑は、絵と同じ黄金色に色づいていた。

 ゴッホが暮らしたラヴー亭3階の屋根裏部屋はとても狭かった。自殺の理由は今もはっきりしない。126年前と同じ光が差し込む小さな椅子に腰かけて、ここで死を決意したゴッホの胸中を思った。

ニューネン郊外にある風車。健脚のゴッホは町中を歩き回って絵のモチーフを探した=オランダのニューネンで

ニューネン郊外にある風車。健脚のゴッホは町中を歩き回って絵のモチーフを探した=オランダのニューネンで

 その原点を知りたくて、画家として大きな一歩を踏み出した母国オランダ南部の町ニューネンに向かった。パリ北駅から高速列車「タリス」で北上。さらに普通列車とバスを乗り継ぎ、品の良い小さな町に到着した。

 国が変われば「GOGH(ゴッホ)」の発音も変わる。フランスでは「ゴーグ」だったのが、オランダでは「ホッホ」になり、はじめは少し戸惑った。

 町を案内してくれたのは、日本から移住して40年という経田敬子(つねだひろこ)さん(74)。点在するゆかりの地を自転車で巡った。オランダは自転車大国で、町内も専用道路が整備されている。少し走らせると、ゴッホの時代から立つ大きな風車が見えてきた。吹き抜ける風が気持ちよく、いつまでもペダルをこいでいたい気持ちになる。

 この町で、ゴッホは30歳からの2年間を過ごした。父と同じ聖職者になるという夢をあきらめ、画家を志して間もないころ。同居する両親との不仲や、隣家に住む年上の恋人が服毒自殺を図るなどのトラブルを抱えながらも、町の農民を描いた初期の傑作「ジャガイモを食べる人たち」を完成させた。

ゴッホの初期の代表作「ジャガイモを食べる人たち」の銅像を案内する経田敬子さん=オランダのニューネンで

ゴッホの初期の代表作「ジャガイモを食べる人たち」の銅像を案内する経田敬子さん=オランダのニューネンで

 ゴッホの父が牧師を務めた教会に入ることができた。緑の中にたたずむ小さく美しい教会で、ゴッホも絵に描いている。「彼の母が転んで骨折し、2カ月ほど外出できなくなった時に『教会を持ってきてあげる』と言って描いたのよ」と経田さん。もともとゴッホには関心がなかったそうだが、「ガイドの仕事を始め、彼の人間的な一面を知って好きになった」という。

 ゴッホはこの町で父を亡くしていた。父は字の読めない農民たちにキリスト教の教えを説明するため、絵を使うことがあったという。牧師になれなかったゴッホが絵を描き始めたのは、父の影響が大きかったのかもしれない。その葬儀で彼は「死ぬのは大変だが、生きるのはもっと大変だ」と言ったそうだ。

 ニューネンを出たゴッホはパリ、南フランスのアルル、サン・レミを経てオーヴェールで没した。その間わずか5年。精神的な病を抱えながら数々の傑作を残した。彼が描いた建物や風景の残る地を訪ね、その心の中の情景に触れたような気がした。

 文・写真 樋口薫

(2016年10月28日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
オーヴェールへはパリから電車で約1時間。
ニューネンへはアイントホーフェン駅から路線バスで約15分。
渡航前に鉄道周遊券「ユーレイルパス」を申し込めば、ほとんどの鉄道が乗り降り自由となる(特別列車は追加料金が必要)。

◆問い合わせ
フランス観光開発機構、オランダ政府観光局のホームページへ。
パスの情報はユーレイル・グループ(www.eurailgroup.org)へ。

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ゴッホの墓

ゴッホの墓
白身魚のベーコン包み

白身魚のベーコン包み

★ゴッホの墓
オーヴェールの駅から北側の丘を上れば、麦畑の中の共同墓地にたどり着く。
一角にあるゴッホの墓は、彼を物心両面で支えた画商の弟テオの墓と並び、一面のツタに覆われている。
画家の愛したヒマワリの花を供える人も。

★ラヴー亭の食事
店内はゴッホが暮らした19世紀後半の雰囲気を残している。
白身魚のベーコン包み、サーモンのマリネなど、地元の食材を用いた昔ながらの家庭料理が楽しめる。
コースは29ユーロから。
2階は土産物店になっている。
冬季休業。

★フィンセンター
ニューネンの町北部にあるゴッホ資料館。
町で描いた作品やゴッホの家族たち、年上の恋人マルゴットに関する資料がそろう。
日本語のオーディオガイドもあり。
月曜休館。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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