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工夫重ね豊かな「遺産」

工夫重ね豊かな「遺産」 和歌山県みなべ町 ウメの里

日本最大級の南部梅林。わずかに咲いていたウメの花と膨らむつぼみの数々が、一足早い春を告げていた=いずれも和歌山県みなべ町で

日本最大級の南部梅林。わずかに咲いていたウメの花と膨らむつぼみの数々が、一足早い春を告げていた

 寒波から逃れるように、鉄道を南に下った。新大阪駅発の特急「くろしお」で1時間半ほどうとうとし、開いた目に飛び込んできたのは柔らかい日を映す車窓の海。そのまばゆさの予告通り、電車のドアが開いた瞬間の冷感は緩やかだった。

 和歌山市から南へ50キロ余り、紀伊半島西岸の和歌山県みなべ町。人口1万4000人ほどの小さな町は、年間3万トン、国内の約3割の生産量を誇るウメの里だ。隣接する同県田辺市の一部(合併前の旧田辺市域)と合わせ、「南高梅」を中心に国内のウメの半数が収穫されている。

 2015年末、この静かな町がにわかに脚光を浴びた。国連食糧農業機関(FAO)の「世界農業遺産」に認定されたのだ。

 和歌山といえば、熊野古道も国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産として名高い。違いを説明してくれたのは、40年以上前から町役場にある「うめ課」の若手職員。中早良太さん(34)は胸を張った。「世界自然、文化遺産は昔の姿から手を付けず維持していかなければなりません。農業遺産はまさに今、生きている人たちの営みを認めたものなんです」

 栽培が始まったのは約400年前。海の近くまで山林が迫るため田畑が少なく、民は困窮していた。田辺藩主の安藤帯刀(たてわき)は、水はけのいい山の斜面で育てやすいウメづくりを奨励した。

 日本最大級、面積約1200ヘクタールの南部(みなべ)梅林を訪ねた。「『一目百万、香り十里』と古くから魅力が伝えられてきました」。ウメの枝でさえずるウグイスのような美声の観光ガイド、坂本恭子さん(60)と山道を登りきると、眼前にかれんな白い花がびっしり・・・。そうなるには、1月中旬の訪問は少し早かった。見頃は2月上旬から中旬。一つ一つの枝でたくましく膨らむ紅色のつぼみを眺め、来る季節への期待を膨らませるにとどめた。

 花がなくとも、先人の工夫を確かめることはできた。梅林が広がるのは山の中腹だけ。山頂部にあるウバメガシなどの林は水源涵養(かんよう)機能を維持し、ウメの授粉を担うミツバチの越冬地となるだけでなく、炭というもう一つの産業をもたらした。今や国際的ブランドとなった「紀州備長炭」。この絶妙なサイクルが「遺産」たるゆえんだ。

 「ウメの里」の味わいは四季を問わず楽しめる。窓から南部湾を一望できる「カフェ・ド・マンマ」は、南高梅と地元の海で取れたシラスを使ったペペロンチーノやピザなどを提供。ウメの酸味が他の素材を覆い隠すことなく、程よい後味を与えてくれる。

独特の香りが漂う梅干し加工場。昔ながらの木おけで塩抜きをするのがこだわり

独特の香りが漂う梅干し加工場。昔ながらの木おけで塩抜きをするのがこだわり

 加工業者が運営する「ぷらむ工房」では、手軽にウメ製品づくりを体験できた。丸々とした南高梅と砂糖、好みに応じてブルーベリーなどを容器に入れて持ち帰り、10日から2週間ほど待てばジュースの原液の出来上がり。梅干し、ジャムづくりも人気という。

梅林と隣り合う薪炭林の木を原料とした炭焼き作業。全国の料理店などに出荷される<br />

梅林と隣り合う薪炭林の木を原料とした炭焼き作業。全国の料理店などに出荷される
=いずれも和歌山県みなべ町で

 全国に広く知られ、焼き料理店に重宝されている炭については「紀州備長炭振興館」で学んだ。昔ながらの窯焼きの煙のにおい、作業場で炭を裁断する「カーン」という澄んだ音に触れ、自然と共生しながら紡がれてきた紀伊の人々の暮らしに思いをはせた。

 旅を終え、この原稿を書き終えたころ、自分でつくった土産も仕上がった。果汁が染み出しきったジュースの原液を、水や炭酸水で割って一口。ポカポカした日差しに包まれた里の風景や、誇らしげな町の皆さんの表情がまた目に浮かんだ。

 文・写真 鈴木智行

(2017年2月3日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
JR紀勢線(きのくに線)南部駅までは新大阪駅から特急で約2時間。
車は大阪から阪和道、湯浅御坊道を経て「みなべIC」まで約2時間。

◆問い合わせ
みなべ観光協会=電0739(74)8787

おすすめ

カフェ・ド・マンマ

カフェ・ド・マンマ
梅の里ボルダリングウォール

梅の里ボルダリングウォール

★南部梅林
既に開園していて、11日からの週末にはもち投げなどのイベントも開催。
12日、みなべ町役場駐車場で開く「やにこいフェスタ」では最高賞金30万円の梅干しの種飛ばし大会もある。
開花状況のテレホンサービス=0739(74)3219

★カフェ・ド・マンマ
南部湾の鹿島などを見渡せるカフェ。
梅を使ったソースなどでさわやかな味わいの料理がある。
水曜定休だが、2、8月は無休。
電0739(72)2361

★岩代大梅林
地元の青年らがつくりあげた約2万本の梅林。
4日開園。
岩代大梅林観梅協会=電090(3614)8604

★梅の里ボルダリングウォール
2015年和歌山国体のスポーツクライミング競技で使われた壁を廃校体育館に移設した施設。
経験者を含む団体に有料で貸すほか、無料体験会も。
みなべ町教育委員会=電0739(74)3134

★熊野古道「千里の浜」
熊野参詣道で唯一、海辺を通るコース。
長さ約1.3キロの白砂青松の浜。

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