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神に問う 「沈黙」の舞台

神に問う 「沈黙」の舞台 長崎市・外海地区 潜伏キリシタンの里

遠藤周作文学館のテラスからは、角力灘に浮かぶ島々が望め、夕日が美しい=長崎市東出津町で

遠藤周作文学館のテラスからは、角力灘に浮かぶ島々が望め、夕日が美しい=長崎市東出津町で

 遠藤周作氏の代表作の一つ『沈黙』の舞台、長崎市北西部の外海(そとめ)地区を歩いた。キリシタンの里として知られる、この地に遠藤周作文学館が立っていた。角力灘(すもうなだ)に臨み、海に浮かぶ島々が石庭の石のように点在し、沈む夕日が幻想的だ。

 長崎市中心部から外海地区へはバスで1時間余り。峠を越えるたびに風景が変わる。波の穏やかな入り江が車窓から見えたかと思えば、港に係留された幾隻もの漁船が細かく揺れ、沖に白波が見えた。

 NPO法人長崎巡礼センターのガイド松川隆治(たかはる)さん(76)は「いくつもの山を越えなければ、たどり着けない。地形的なものが一番の理由です」と、江戸時代、大村藩の激しい弾圧から逃れ信仰の灯をともし続けてきた背景を説明する。信徒であるかどうかを調べる「踏み絵」は毎年行われるが「陸の孤島」へは、追及の手が緩む。

 『沈黙』は、島原の乱(1637~38年)の後、日本教区の最高責任者で恩師でもある司祭が棄教したとの伝聞を確かめるため、長崎に潜入したポルトガル人司祭の苦悩を描いている。信徒が簀(す)巻きにされ海に沈められる光景や穴の中に逆さづりにされるさまを見せられ、聞かされる彼もまた「転べ」と棄教を迫られる。「信徒の呻(うめ)きがみち、司祭の赤い血が流れ、教会の塔が崩れていくのに」「あなたはなぜ黙っているのです」と神に何度も問う。

書斎コーナーで説明する川崎友理子学芸員=遠藤周作文学館で

書斎コーナーで説明する川崎友理子学芸員=遠藤周作文学館で

 文学館には、この『沈黙』の草稿が展示されていた。細かな文字で書かれ、さらに塗りつぶして加筆、推敲(すいこう)の跡がうかがえる。書斎が再現され、机の上には母親の写真が置かれていた。「いつもお母さんが励ましてくれました。最初は母を喜ばせるために洗礼を受けたんですね」と川崎友理子学芸員が話す。ちょうど公開中の巨匠マーティン・スコセッシ監督による映画「沈黙-サイレンス-」のイメージデザイン画などもあった。

 
外海地区のシンボルともいえる出津教会堂=長崎市西出津町で

外海地区のシンボルともいえる出津教会堂=長崎市西出津町で

 文学館からバスで5、6分の外海歴史民俗資料館では「潜伏」と「かくれ」キリシタンの区別があるのを知った。1873(明治6)年、禁教令が解かれた後も先祖の信仰を継承した人たちが「かくれ」で、それ以前は「潜伏」キリシタンとされる。出津(しつ)教会堂がある出津集落や大野集落を含む長崎、熊本両県の12資産は「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」として世界遺産に推薦されてもいる。

「子どもの頃まで、こうしていました」と小石の十字架に祈る松川隆治さん=長崎市下黒崎町で

「子どもの頃まで、こうしていました」と小石の十字架に祈る松川隆治さん=長崎市下黒崎町で

 松川さんの案内で「潜伏」「かくれ」の跡を巡った。山中、巨岩の陰で信徒がオラショ(祈りの言葉)を唱えた「祈りの岩」。さらに山を登ると神社というのに神父がまつられているサン・ジワン枯松(かれまつ)神社。ここで松川さんは小石を拾い集め大きな石の上で十字形に並べた。「お祈りする時だけこうして、終わったら崩すんです」という。山を下るとれんが造りの優美な黒崎教会が見えてくる。

 黒崎は『沈黙』の主人公が初めて日本の地を踏んだトモギ村のモデルとなった場所。遠藤氏は著書『切支丹の里』で「棄教者は教会からも学者からも研究の対象外になっている」「私の視点は(棄教者を含む)『強者と弱者』だ」と記した。信仰に殉じた者と貫き通せず「転んだ」人々。

 長崎滞在中に長崎学アドバイザー本馬貞夫さん(68)に会った。スコセッシ監督映画の監修役も務めた。

 「人間を考えるうえで外海は良いところですよ」。本馬さんの言葉が心に残った。

 文・写真 川瀬真人

(2017年2月17日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
長崎空港から市中心部の長崎新地ターミナルまでリムジンバスで35分、900円。
遠藤周作文学館へは同ターミナルから長崎バス大瀬戸・板の浦線で道の駅(文学館入口)で下車。
1時間10~30分。
730~850円。

◆問い合わせ
NPO法人長崎巡礼センター=電095(893)8763、ガイド料は参加者1~10人で半日5000円、1日1万円。

おすすめ

外海歴史民俗資料館

外海歴史民俗資料館

★遠藤周作文学館
遠藤氏は生前、「墓は長崎に建ててほしい」と県知事に手紙を出すほどに長崎を愛し、文学館の建設地に決まった。
直筆原稿、遺品など約3万点の寄贈を受け、180~200点を展示。
一般360円、小中高生200円。
電0959(37)6011

★外海歴史民俗資料館
マリア観音像、オラショなどの宗教関連資料以外に民俗、考古資料がある。
道を隔てて「沈黙の碑」が立つ。
一般300円、小中高生100円。
電0959(25)1188

★出津教会堂、大野教会堂
ともに国指定重要文化財。
「出津」は白い外壁が美しく、「大野」はマリア像が見つめる石造りの小さな教会堂。
見学は事前に長崎の教会群インフォメーションセンター=電095(823)7650=へ。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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