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千年の神事 絶えぬ熱

千年の神事 絶えぬ熱 福島県沿岸部 相馬野馬追の里

体にフィットするようにひもを結んでいく甲冑の着付け体験=南相馬市の「野馬追通り 銘醸館」で

体にフィットするようにひもを結んでいく甲冑の着付け体験=南相馬市の「野馬追通り 銘醸館」で

 福島県の沿岸部は浜通りと呼ばれる。古代から都とみちのくを結ぶ道だった。訪ねると、長い歴史が今に残っていた。

 6年前の東日本大震災で大きな被害が出たJR常磐線。昨年末、宮城県亘理町の浜吉田駅から福島県相馬市の相馬駅間が開通し、仙台駅と福島県南相馬市の小高駅までがつながった。その先は東京電力福島第一原発の近くを通り、津波で壊れた駅もある。小高駅から同県楢葉町の竜田駅まではバスの代行運転がまだ続いている。

 東北新幹線で仙台駅まで行き、常磐線の上り電車に乗った。南相馬市の原ノ町駅で降りると、ホームに相馬野馬追(のまおい)の大きな看板。地元の水墨画家朝倉悠三さんの原画を基に、原町高校美術部の生徒が描いた作品だった。

 野馬追は浜通りの北部、かつての相馬中村藩の領地で行われる。約500騎の騎馬武者が繰り広げる、千年以上続く勇壮な神事だ。

 駅の近くには「野馬追通り」があり、道沿いにまちの駅「野馬追通り 銘醸館」がある。ここでは甲冑(かっちゅう)の着付けも体験できる。物は試しと、お願いした。

 最初が足袋。次がわらじ。長いひもをどう結ぶのかと迷っていると、南相馬観光協会の太田加奈さんがさっとひもを足首に巻いて、結んでくれた。すね当て、籠手(こて)、胴などを着けていく。手際の良さに目を見張った。

 「甲冑は武将用と足軽用があります。着付けは一度に40人までできます」と太田さん。女性も多いという。

 私が着たのは武将用で「桶側菱(おけがわひし)とじ2枚胴具足」という。重さは15キロぐらい。鎧(よろい)は重いとは感じなかったが、兜(かぶと)はずしりときた。真っすぐ立っていないと、バランスを崩しそうだ。

勇壮な相馬野馬追の神旗争奪戦をジオラマで再現=福島県南相馬市博物館で

勇壮な相馬野馬追の神旗争奪戦をジオラマで再現=福島県南相馬市博物館で

 野馬追は7月末の土、日、月曜に開かれている。今年は29日から31日まで。

 祭りの日でなくても、その熱気を知ることはできる。南相馬市博物館のジオラマ(立体模型)は、上空から落ちてきた赤い神旗を騎馬武者が奪い合う様子が再現されている。

 門脇秀典学芸員は「これが有名な神旗争奪戦です。でも、大事なのは野馬懸(のまかけ)です」と説明してくれた。

 館内には大きな竪型(たてがた)製鉄炉も展示されている。奈良時代から平安時代の初め、浜通りは一大製鉄コンビナートだったそうだ。鉄は多賀城に送られ、蝦夷(えみし)との戦いに使われたという。

 野馬懸の祭場となっている相馬小高神社を訪ねた。多田仁彦権禰宜(ごんねぎ)(45)は「境内に竹矢来を巡らし、海で清めた野馬を白い装束の人が捕まえて総大将の前まで持って行き、神前に供えます」と言う。総大将は相馬中村藩の藩主で、昨年は第33代当主、相馬和胤(かずたね)さんの次男陽胤(きよたね)さんが務めた。

 野馬追は神事だが、北の伊達氏へ備えるための軍事訓練でもあった。古代からのルートは人も物も戦争も運んでいた。

津波の被害に遭い、内陸側に移設された新地駅=福島県新地町で

津波の被害に遭い、内陸側に移設された新地駅=福島県新地町で

 東日本大震災では鉄道も被害に遭った。

 地震が起きたとき、福島県新地町の新地駅には原ノ町駅行きの電車が停車していた。乗客は約40人。そのうちの2人が相馬署の若い警察官だった。列車は津波で脱線、転覆したが、2人の素早い誘導などで乗客は全員無事だった。乗務員は駅に残っていたが、渡線橋で一晩過ごした後、救助された。

 その駅も内陸側に300メートル移転し、美しい白い駅舎に変わった。渡線橋に上ると、はるか遠くに太平洋が輝いていた。

 文・写真 井上能行

(2017年3月10日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
JR仙台駅から常磐線で原ノ町駅までは1時間20~30分。
まちの駅「野馬追通り 銘醸館」は同駅から徒歩15分、南相馬市博物館は同駅から車で10分。
相馬小高神社は小高駅から車で5分。

◆問い合わせ
一般社団法人南相馬観光協会=電0244(22)2114

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当時の歴史資料が豊富。
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その後、入園料を下げながら5月末まで続く。
ここも津波の被災地で、直売所のドアの上に津波が来た高さを示す青い線が引かれている。
電0244(36)5535

★海鮮市場カネヨ水産
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試験操業だが、近くの相馬原釜漁港に水揚げされる新鮮な魚介類が購入できる。
隣には海鮮料理を味わえる「お食事処(どころ) たこ八」がある。
電0244(38)8808

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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