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ヒュッゲの国を訪ねて

ヒュッゲの国を訪ねて デンマーク 街角に満ちるくつろぎ

れんが造りの建物が美しい街並み。冬は曇り空で薄暗い日が多い=デンマーク・コペンハーゲンで
れんが造りの建物が美しい街並み。冬は曇り空で薄暗い日が多い=デンマーク・コペンハーゲンで

 おとぎ話の世界に迷い込んだような、れんが造りの建物に目を奪われた。北欧デンマークの首都、コペンハーゲンを訪れたのは冬。日暮れが早く、午後3時半を回るともう薄暗い。明かりがともり始めた窓に、すてきなインテリアの中で、だんらんする家族の姿がかすかに浮かぶ。ああ、何だかとっても居心地が良さそう・・・。

 「hygge(ヒュッゲ)」というデンマーク語がある。欧米で注目を集め、日本でも少しずつ紹介されているので、聞いたことがある人も多いかも。デンマーク人がとても大切にする感覚で、気の置けない家族や友人と過ごすくつろぎの時間や空間を指す。夕暮れ時の窓から見えたのは、まさにヒュッゲのひととき。美術展の記事を書くための今回の旅でも、たくさんのヒュッゲの心に出合った。

 デンマークのくつろぎの空間と聞いて、思い浮かぶのは洗練されたデザインの家具や雑貨だ。コペンハーゲンのデザイン博物館には年代、テーマごとにさまざまな家具が並ぶ。木を使ったあたたかみのあるものから、近未来を感じさせるものまで、絶妙な曲線や色使いは見飽きることがない。

デザイン博物館内のカフェ。洗練された照明と家具の、居心地の良い空間だった=コペンハーゲンで
デザイン博物館内のカフェ。洗練された照明と家具の、居心地の良い空間だった=コペンハーゲンで

 案内してくれた職員のニコリナ・オルセンさんは「冬が長く寒いので、家の中で過ごす時間が多い。そこで、家具にも工夫を凝らすようになったんです。ヒュッゲの原点かも」。博物館も、不思議と心地良い空間。カフェのいすや休憩スペースに置いてあるソファが全ておしゃれな上に極上の座り心地で、ついつい長居してしまった。

 コペンハーゲンから飛行機と特急で3時間半。最北端の港町スケーエンに着いた。オレンジの屋根と壁が印象的な街並み。19世紀後半に画家や詩人が集まって芸術家村をつくった、今回の取材地だった。どうやらこの町の芸術も、ヒュッゲの心と無縁ではないようだ。

 今も残る画家の家を訪れると、壁に飾られた作品や画材だけでなく、整えられた家具や調度品も目を引いた。外は雪が舞う寒い日で部屋の中も薄暗かったが、やっぱり居心地が良いのだ。「スケーエン派」と呼ばれた画家たちは美しい夏の海岸、労働に励む漁師たちを好んで描いたが、室内画も多い。中には画家たち自身がテーブルを囲み、楽しそうに談笑している絵もある。きっと芸術論に花を咲かせていたのだろう。

画家の邸宅の一室。ここでくつろぎながら交流していたのだろうか=スケーエンで
画家の邸宅の一室。ここでくつろぎながら交流していたのだろうか=スケーエンで

 スケーエン美術館学芸員のメテ・ボォ・イェンセンさんに絵とヒュッゲの関係を聞いてみると「彼らが私生活を描いた絵には、その感覚が感じられますね」と教えてくれた。「お互いのつながり、共に過ごす時間をとても大事にしていました」

 「友達や家族と過ごす時間を大切にするから、幸せだね」「仕事と生活のバランスもとても良いと思うよ」。旅で出会った人にヒュッゲについて尋ねて返ってきた言葉は、自分の慌ただしい日々を考え直したくなるものばかりだった。スーツケースに山ほど詰め込んだおしゃれなお土産以上のものを、この国にもらった気がする。

 文・写真 川原田喜子

(2017年3月24日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
スカンジナビア航空(SAS)が東京-コペンハーゲン間の直行便を毎日運航。
所要約11時間。

◆通貨
ユーロではなくデンマーク・クローネ(DKK)。
3月中旬現在、1DKKは約16円。物価は全体的に高い。

◆観光情報
デンマーク政府観光局ホームページ「VisitDenmark」(英語)、在日デンマーク王国大使館ホームページ(日本語)などがある。

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創業220年の「スロッツケラン・ホス・ギッテ・キック」

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食料品の店が並ぶコペンハーゲン中心部の屋内市場「トーベヘルネKBH」

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★食べ物
名物料理「スモーブロー」は、薄切りパンに肉や魚介類、果物を載せたオープンサンド。
コペンハーゲンにある創業220年の「スロッツケラン・ホス・ギッテ・キック」ではエビやサーモン、シカ肉など多種多様な具材がカウンターに並び、指をさして注文する。

★買い物
手ごろなお土産探しならスーパー。
あちこちにある高級スーパーチェーン「イヤマ」では、かわいいデザインのお菓子や日用品がそろう。
食料品の店が並ぶコペンハーゲン中心部の屋内市場「トーベヘルネKBH」を散策するのも楽しい。

★スケーエン観光
スケーエン派の絵画9000点余を収蔵するスケーエン美術館、画家の邸宅、2つの海流がぶつかりあう独特の景観を見ることができるグレーネン岬など。
冬季休業日あり。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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