【本文】

  1. トップ
  2. 旅だより
  3. 城下町・安芸
城下町・安芸

城下町・安芸 高知県 田園に伝える明治の時

明治の雰囲気を残す「野良時計」

明治の雰囲気を残す「野良時計」

 太平洋に面した高知県安芸市は、小さな城下町だ。幕末明治には、三菱財閥の祖となった岩崎弥太郎や、名物新聞記者の黒岩涙香(るいこう)を生んだ。ポカポカ陽気に誘われて、あまり知られていない土佐東部の町を訪ねた。

 「安芸のシンボルは野良時計ですよ」。そう教えられて、土佐くろしお鉄道のごめん・なはり線安芸駅から北へ、田んぼの中をテクテクと歩く。やがてハイカラという言葉がぴったりする建物が目に入ってきた。白壁と焦げ茶色の木材の取り合わせが絶妙だ。野良時計は、そんな立派な母屋や蔵に取り囲まれていた。札幌時計台の田園版である。

 この時計、1887(明治20)年ごろ、大地主だった畠中源馬氏が、海外から取り寄せた時計を参考に、一から作り上げたという。「時計は貴重品でした。周りの田畑で働く人が、今何時かわかるよう作ったそうです」と、ボランティアガイドの曽我純司さん。今でも畠中氏の子孫が住んでいるため、中を見ることはできない。そのかわり、地元の人たちは周囲の修景に力を入れる。夏はヒマワリ、秋はコスモス。時計を取り巻く風景は四季折々に変化する。

江戸時代の城下町そのままの土居廓中

江戸時代の城下町そのままの土居廓中

 野良時計の北側は、安芸城跡を囲むように城下町が広がり、「土居廓中(どいかちゅう)」と呼ばれる。昔のままの細道、掘割、武家屋敷、手入れの行き届いた生け垣が美しい。支配者は、土豪の安芸氏から戦国大名の長宗我部氏と代わり、今見られるのは、江戸時代の大名山内氏の家老格であった五藤氏の遺構だ。「土居廓中は上級武士の住むところでした。大正のころまで、ここを通るときは、手ぬぐいや笠(かさ)をとって敬意を表していたそうです」と曽我さんは言う。

生家の前に立つ岩崎弥太郎像は迫力十分。駅付近にあったのを2年前に移した=いずれも高知県安芸市で

生家の前に立つ岩崎弥太郎像は迫力十分。駅付近にあったのを2年前に移した=いずれも高知県安芸市で

 安芸市が生んだ最大の傑物は、やはり岩崎弥太郎だろう。井ノ口という集落に生家と立派な銅像があり、自由に見学できる。野良時計から北西に2キロほどの道のり。雰囲気は農家そのものだ。庭に弥太郎が造ったという石組みが保存されている。日本列島を模しており、若き日の弥太郎が全国をにらむ視野をもっていたことが分かる。

 東京新聞(中日新聞東京本社)の源流である都新聞で主筆を務めた黒岩涙香の生家も安芸の町から少し離れた小さな集落にあり、説明板が設けられている。涙香は、数々の翻訳小説や百人一首かるたのルール統一で知られるアイデアマンでもある。

 中央から遠く離れた場所で、国際的なセンスにあふれた人物が生まれ育ったのは、本当に不思議だ。

 涙香が子ども時代に探検したのが「伊尾木(いおき)洞」。国道55号からすぐの場所なのに、別世界のよう。数十メートルの洞窟を抜けると、開けた場所に出る。そびえたつ岸壁に各種のシダが生い茂り、よく探すと貴重な貝化石も見つかる。海底から隆起した砂岩層に川の流れが穴を開け、波に浸食されてこのような地形ができたという。冒険気分ときれいな空気を味わうのにもってこいの場所だ。

 高知県では今春から「志国高知 幕末維新博」と名付けて高知市の高知城歴史博物館を主会場に、各所でさまざまな展示を始めた。尾崎正直知事によれば、「博覧会は22会場もあって回りきれないと言われます。でも安心してください。会期は2年間ありますから」とのこと。高知を周遊しながら、幕末明治に土佐人が大活躍した理由を探るのも面白そうだ。

 文・写真 吉田薫

(2017年4月21日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
安芸市へはJR高知駅から土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線快速で約50分。
高知龍馬空港からはごめん・なはり線のいち駅まで乗合タクシー(500円)がある。
要予約。
のいち駅から安芸駅まで約30分。

◆問い合わせ
安芸観光情報センター=電0887(34)8344、
幕末維新博推進協議会=電088(823)9754

おすすめ

とさでん交通 旧型の路面電車

とさでん交通 旧型の路面電車

★安芸市立歴史民俗資料館
城跡にあり展示充実。
見ものは、山内家の初代一豊が、朝倉氏との戦いで顔面に打ち込まれた矢尻。
家来の五藤為浄が一豊の顔を踏んで矢を抜き取ったと伝えられる。
これが一豊出世の糸口となった。
地元出身の童謡作曲家弘田龍太郎のオルガンも。
電0887(34)3706

★幕末維新博
大政奉還150年を記念して高知県全域で開かれている。
目玉は坂本龍馬の新発見の手紙。
メイン会場の高知城歴史博物館=電088(871)1600=にある。
文中にある「新国家」の字句が、龍馬の夢を物語る。
実物の展示は5月7日まで。

★とさでん交通
高知市の中心部から東西南北に旧型の路面電車が走り、ファンの人気を集める。
車種はバラエティーに富み、1950年製の古豪も健在だ。
東の終点は後免町駅。
安芸方面に向かうごめん・なはり線の駅に隣接し、乗り換えも便利。
電088(833)7111

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

目的で旅を選ぶ
気分で旅を選ぶ
旅コラム
国内
海外