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手作りおやきに満足顔

手作りおやきに満足顔 長野県 小川村

大洞高原から見た北アルプス

大洞高原から見た北アルプス

 民話の世界から抜け出たような山里が、そこにあった。

 長野県小川村を訪れたのは5月初旬。残雪の北アルプスを背に、幾重にも連なった山の所々に桜が咲き、畑や家が点在する。道端には自生のスミレやツクシのほかに住民が植えたのかスイセンやチューリップが行儀よく並んで咲いている。遅い春の訪れを自然も一緒になって喜んでいるようだ。

 長野市と白馬村の間にある、人口2600人の小さな村。居心地がよさそうなこの村には「縄文おやき」というスペシャル感あふれる食べ物がある。

 おやきとは、野沢菜などの野菜や山菜で作った具を小麦粉やそば粉の皮で包み焼いた郷土食。かつては稲作ができないこの地での主食だった。

 ここは縄文時代初期から中期にかけて温暖な気候で、ウサギやイノシシなどの動物、木の実、野草、魚といった食料が豊富にあったという。粉をこねるときに使う石器や土器が遺跡から出土しており「小麦のような野草を粉状にし、おやきに通じるものが作られていたのでは、と想像されているんです」と郷土史家の笠原静男さん(84)。

 ルーツは縄文時代かも。そんな発想で、地元の郷土料理を楽しめる観光スポット「小川の庄 おやき村」では、ここで扱うおやきを「縄文おやき」と名付けている。従業員の3分の1は地元の60歳以上というベテランぞろい。竪穴住居を模した建物では、おばあちゃんが作り、おじいちゃんがいろりで焼いたおやきを食べたり、実際に作る体験もできる。

「おやき村」で、自分たちが作ったおやきに舌鼓を打つ亀田美智子さん(左から3人目)一家

「おやき村」で、自分たちが作ったおやきに舌鼓を打つ亀田美智子さん(左から3人目)一家

 作り方は、小麦粉の団子を手のひらに載せて指で広げ、具を入れて丸めるだけ。当日の具はノビルと青菜。富山県射水市から一家4人で訪れた亀田美智子さん(46)は「1個目は上手にできたけど、2個目は具をたくさん入れようとして皮にひびが入っちゃった。でも、おいしい」と笑みが広がった。よし、私も挑戦。欲張らないよう自制したつもりが、ひび割れてしまい、おばあちゃんが、さっと直してくれた。

 焼き上がったばかりの、あつあつのノビル入りのおやきを食べた。皮の香ばしさと、野草独特のえぐみや香りが口いっぱいに広がる。素朴であっさりとした味わいだが、食べ応えがあって、朝食代わりになる。いろりの世話をしていた中沢嘉道さん(77)も「今も主食にすることがある。ここのおやきは昔からの本物の味」。さりげない話しぶりの中に自信をにじませる。

法蔵寺では袈裟をかけた猫像が出迎えてくれる=いずれも長野県小川村で

法蔵寺では袈裟をかけた猫像が出迎えてくれる=いずれも長野県小川村で

 満腹になったところで、「猫寺」として知られる法蔵寺へ。室町時代に創建され、戦国時代に現在の長野市鬼無里(きなさ)地区から、この地に移った古刹(こさつ)で、飼い猫が夜な夜な和尚の袈裟(けさ)をかけ、猫たちに経をよんでいた・・・という伝説が残る。その猫の袈裟も現存しているとか。入り口で石仏とともに袈裟をかけた猫像が出迎えてくれ、猫を祭った塚がある。何だか不思議で、楽しくなってきた。

 さて、夜の見どころは星空。うれしいことに晴れている。標高約1000メートルにある大洞(おおどう)高原の小川天文台とプラネタリウム館で天体観測をした後、空を見上げた。真っ黒な空全体に、白く輝く小石のような星々が無数にちらばっている。ほとんどが一等星に見え、星座を見つけるのが都会より難しい。宇宙の中に放り込まれたような気分になった。

 翌朝、ひょんなことで高原近くに住み、平飼いで養鶏をしている古屋たけ子さん(62)と出会った。「うちのニワトリはね、商売にならない小さな卵を1つ産んだだけで、仕事をしたって思ってるの」。屈託なく笑う姿に実感した。

 自然も住民も、きらきらと輝いている、と。

 文・写真 加藤智子

(2017年6月2日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
名古屋からはJR特急ワイドビューしなので、東京からはJR北陸新幹線で長野駅下車。
駅東口からアルピコ交通の特急バス「長野-大町」線に乗って「小川新田」下車(12~4月中旬は別会社の小型バスが運行)。
村内を走る循環バスは本数が少なく、レンタカーやタクシー利用が便利。

◆問い合わせ
小川村観光協会=電026(269)2323

おすすめ

薬師洞窟

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高山寺

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★薬師洞窟
虫倉山登山道薬師尾根コースの途中にある天然の洞窟。
ハイキング感覚で歩ける。
入り口から約20分。
江戸中期、五穀を絶ち、木の実や芽だけを食べて暮らす木喰山居上人(もくじきさんきょしょうにん)の修行の地。
洞窟奥に薬師如来像が祭られ、壁面に石仏がずらりと並び、思わず手を合わせたくなる。

★高山寺
県内では珍しい七堂伽藍(がらん)の寺で、信濃三十三番札所の札どめ所。
重厚感のある三重塔は、鎌倉時代に創建、江戸時代中期に木喰山居上人が再建したといわれている。
鐘つき堂の天井の絵など、洗練された雰囲気が漂う。

★本州のへそ
本州の重心地点にあたる法地地区に「へそ恩柱」が立つ。
全長21メートルのさい銭箱があり、内部に仕掛けられた鐘が何回鳴るかで運勢を占える。

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※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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