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吉野山

吉野山 奈良県吉野町 歴史の舞台を訪ね歩く

修験道総本山の金峯山寺。蔵王堂は木造古建築としては東大寺大仏殿に次ぐ大きさ

修験道総本山の金峯山寺。蔵王堂は木造古建築としては東大寺大仏殿に次ぐ大きさ

 訪れた吉野山は、葉桜の緑の美しい時季となっていた。

 奈良県吉野町。ヤマザクラを中心に約3万本の桜の木があるといわれ、麓から下千本、中千本、上千本、奥千本と桜の名所が続く。

 吉野山は2004年に登録された世界文化遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の1つ。その中心が修験道の総本山、金峯山寺(きんぷせんじ)である。約1300年前に役行者(えんのぎょうじゃ)が開山したといわれる。山への桜の植樹は、役行者が感得した蔵王権現の像を桜の木に刻んだとの言い伝えに基づく。本堂である国宝の蔵王堂は高さ34メートル、四方36メートルと、木造古建築では東大寺大仏殿に次ぐ大きさで、前に立てばその威容に圧倒される。

 前の晩は宿坊に泊まり、午前6時30分からの朝座勤行に参加した。高さ約7メートルと日本最大の秘仏といわれる3体の蔵王権現は通常は非公開だが、訪れた時は今年の特別ご開帳期間(4月1日~5月7日)だったため、憤怒の表情でまなこを開いた青い姿の蔵王権現を前に、おずおずと40分ほどの読経を行った。修験の地とあって、読経の合間に山伏の吹く法螺(ほら)貝の大きな音に身が引き締まる。

 「蔵王権現はおそろしい形相ですが、過去、現在、未来と三世にわたってすべてを守るオールマイティーな仏様です」と庶務部長の鷲須晴徳さん(48)の言葉に、早起きして参加したかいがあるというものだ。

尾根伝いに参道が延びている吉野山の集落(中央に金峯山寺蔵王堂)

尾根伝いに参道が延びている吉野山の集落(中央に金峯山寺蔵王堂)

 参道を歩く。土産物などの店が並ぶが、店の裏に回ると、崖に沿って下へ家屋が重層になっている。吉野の集落は尾根伝いにあり、吉野建(だて)と呼ばれる独特な造りはそうした険しい地ゆえの工夫だ。

 南朝ゆかりという吉水神社に向かった。もとは吉水院という僧坊。南北朝時代の1336年、足利尊氏に都を追われた後醍醐天皇はこの吉水院に南朝皇居を一時置いた。吉野で花見をした豊臣秀吉もここを本陣とし、その際修理した後醍醐天皇玉座の間は桃山時代の特色を残している。さらにさかのぼる1185年には、兄頼朝に追われた源義経が静御前、弁慶らとともに隠れて住み、義経、静の2人が最後に過ごした場所となった。きらびやかな歴史の一方で、どちらかといえば非運な英雄が多い。

 後醍醐天皇の御陵が桜名所、中千本あたりの如意輪寺の裏手にある。塔尾(とうのお)山の中腹で、後醍醐天皇塔尾陵という。普通は南面を向く御陵が、北を向いている。死んでも京都へ戻ろうとした天皇の執念を感じさせる。

 勅願寺でもあった如意輪寺の住職、加島公信さん(60)が吉野ならではの話を聞かせてくれた。後醍醐天皇に従って吉野入りした臣下の子孫を今でも「地下衆(じげしゅう)」と呼ぶ。当時から700年近い歳月を経てもなおである。「地下衆の家は、○○さん(参道の店舗)ら十数軒はある」と加島さんが言った。寺では毎年9月27日に後醍醐天皇御忌の法要をしている。吉野ではいつまでも風化しない歴史がある。

 吉野となれば、桜の歌人、西行法師の地を訪ねずにはおれない。奥千本にある西行庵(あん)に足を運んだ。金峯神社で車を降り、山道を徒歩で十数分。平安末期、西行はここに庵(いおり)を結び、3年住んだといわれる。当時を思わせる杉ぶきの庵が設けられ、中に西行の座像が置かれている。近くには西行と、西行を慕って訪れた松尾芭蕉(ばしょう)が歌と句を詠んだ「苔清水(こけしみず)」がいまも流れている。

ひっそりとした杉ぶきの西行庵の建物。中に西行の座像が置かれている=いずれも奈良県吉野町で

ひっそりとした杉ぶきの西行庵の建物。中に西行の座像が置かれている=いずれも奈良県吉野町で

 しばらく鳥声だけが響く山の中に静かに身を置く。目をつむり、「願はくは花の下にて春死なむその如月(きさらぎ)の望月の頃」と西行が詠んだ桜の情景を思い浮かべてみる。歌心は乏しいが、西行や芭蕉のような隠せい、漂泊の生き方にちょっと心が動いた。

 文・写真 朽木直文

(2017年6月9日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
吉野町へは、新幹線京都駅から近鉄特急で橿原神宮前駅で乗り換え、吉野駅まで約1時間40分。
近鉄名古屋駅からは特急で大和八木駅、橿原神宮前駅で乗り換え、約3時間。
吉野山ロープウェイ(千本口-吉野山)は復旧工事などのため運休中で、現在は代行バスが運行。

◆問い合わせ
吉野町産業観光振興課=電0746(32)3081

おすすめ

吉野本葛

吉野本葛

★金峯山寺秘仏本尊の特別ご開帳
国宝仁王門大修理勧進として2012年から毎年一定期間行っている。
次回は来年春の予定(日程は未定)。
今年10月に開催する「千人結縁灌頂会(けちえんかんじょうえ)」では、その参加者に限って拝観できる。
金峯山寺=電0746(32)8371

★柿の葉ずし手づくり体験
老舗の平宗吉野本店でグループ客を対象に開いている。
平日午前10時、午後3時からの2回、各45分。
店員が指導し、用意された柿の葉でご飯とネタを包み、箱に入れ、輪ゴムを巻いて押さえる。
丸1日後が食べごろ。
料金はサバ・サケ8個入りが1674円。
要予約。
電0746(32)2053

★吉野本葛(くず)
蔵王堂近くの葛屋中井春風堂では、中井孝嘉店主が本葛の良さを知ってもらうため、注文を受けてから客の見えるところで作る。
出来たては透明感が違い、「賞味時間10分の世界」という。
本葛切りは800円。
所要時間2時間の体験プログラム「葛会」(1人3500円、完全予約制)も。
水曜定休。
電0746(32)3043

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