【本文】

  1. トップ
  2. 旅だより
  3. 伏見大手筋
伏見大手筋

伏見大手筋 京都市 名水湧き 人を呼ぶ町

国の重要文化財の御香宮神社表門

国の重要文化財の御香宮神社表門

 「京都に行く」。伏見の人は京都の街中に出掛けるとき、当たり前のように言う。伏見は京都市の一行政区だが、独自の文化を育んできたのだろうか。5月下旬、小さい頃を過ごした伏見の「大手筋」を歩いた。

 大手筋は、豊臣秀吉が晩年、東部の丘陵地に伏見城を築いた際、正門の大手門に通じる道として東西方向に整備された。近鉄桃山御陵前駅から東へ上り坂の大手筋を3、4分。大手門が表門として移築されたという御香宮(ごこうのみや)神社がある。地元では「ごこんさん」の愛称で親しまれている。香ばしい泉が湧いたのが名前の由来といい、今もこの名水を求めて参拝に訪れる人が多い。

 「江戸の初め、伏見は伏見城が廃城になって城下町でなくなりましたが、その後は港町として大坂(現大阪)と結ぶ水路(宇治川、淀川)を三十石船などが行き来し、人や物が集まりました」。宮司代務者で伏見城研究会長の三木(そうぎ)善隆さん(39)は町の成り立ちをそう説明した上で「京都市に編入される前の昭和の初め、2年間と短いですが『伏見市』でした」と付け加えた。

大勢の買い物客らでにぎわう伏見大手筋商店街

大勢の買い物客らでにぎわう伏見大手筋商店街

 実は神社参拝に先立ち、なまじおぼろげな記憶があるため旅の主題を決めかねていた私は、北西へ約3キロの老舗蔵元ののれんをくぐった。1868(慶応4、明治元)年の鳥羽・伏見の戦いの勃発地近くにある「増田德兵衞商店」。伏見酒造組合の理事長でもある14代目、増田德兵衞さん(62)は「伏見…。『水』『港町』をテーマにしたらいいでしょう」と助言してくれた。

 なるほど、伏見は「伏水」とも記されたように伏流水に恵まれ、酒造りには理想的な土地だった。江戸初期には多くの蔵が並ぶ「酒どころ」となり、今も大手筋を円状にぐるっと囲むように約20の蔵元が点在する。「桃山」とも呼ばれるのは、伏見城の廃城後、跡地に桃が植えられたからという。

 御香宮神社の表門を出て西へ下り坂の大手筋を歩く。高架の桃山御陵前駅と京阪電鉄伏見桃山駅の踏切を過ぎると、アーケードのある「伏見大手筋商店街」。すぐの交差点右角に「伏見銀座」があったことを伝える石碑がひっそりと立つ。徳川家康が銀貨鋳造所として関ケ原の戦いの翌1601(慶長6)年に設けた。東京の銀座より古く、いわば各地にある「○○銀座」のルーツだ。

 伏見大手筋商店街振興組合によると、商店街は長さ400メートル、幅10メートルぐらいで、新旧120ほどの店が軒を連ねる。平日の昼間なのに、大勢の買い物客らが行き交っていた。創業380年余の宇治茶販売店「松田桃香園」の13代目、松田須英子さん(58)は「一つの百貨店ですよ」とにっこり。繁華街という意味では伏見銀座は健在だった。

 商店街を抜けて南へ5分ほど。幕末の志士・坂本龍馬が襲われた船宿で知られる寺田屋の跡地が見えた。少し北東の酒蔵が続く道に差しかかると、かすかに酒のにおいが。「白菊水」と呼ばれる湧き水がある。老舗蔵元の山本本家が酒造りに使っている。ポリ容器を手に訪れる人が絶えない。気温は30度近く。名水を空のペットボトルに入れ、ゴクゴクと喉を鳴らす。まろやかな味がした。

爽やかな風の中、酒蔵沿いをゆっくりと進む十石舟。川岸ではスケッチを楽しむ人の姿があった=いずれも京都市伏見区で

爽やかな風の中、酒蔵沿いをゆっくりと進む十石舟。川岸ではスケッチを楽しむ人の姿があった=いずれも京都市伏見区で

 翌朝、港町をしのぼうと観光船としてよみがえった「十石舟」を楽しむため、さらに南の乗り場へ。伏見城の外堀だった宇治川派流で、十数人と一緒に乗った。爽やかな薫風が昨夜の飲酒で火照った頬をなでる。白壁の酒蔵や新緑のヤナギ、水位の異なる川を結ぶ閘門(こうもん)…。川面がゆらゆらと表情を変えている。伏見はやはり「水の町」だと思った。

  文・写真 小松原康平

(2017年6月16日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
伏見の大手筋付近へは、京都駅から近鉄京都線に乗り桃山御陵前駅で下車するか、1駅前の近鉄丹波橋駅で京阪本線に乗り換え伏見桃山駅か1駅先の中書島駅で下車。
10~20分。

◆問い合わせ
NPO法人伏見観光協会=電075(622)8758

おすすめ

伏見夢百衆

伏見夢百衆
伏見城模擬天守

伏見城模擬天守

★十石舟・三十石船遊覧
今年は十石舟が12月3日まで月桂冠大倉記念館近く、三十石船が10月7~9日、11月3~5日、寺田屋跡南側を発着点に三栖(みす)閘門までを往復する。
それぞれ約55分、約40分。
中学生以上1200円、小学生600円、小学生未満300円。
電075(623)1030

★月桂冠大倉記念館
南浜町。
1637(寛永14)年創業の月桂冠の資料館。
酒の製造工程や歴史を学べる。
大人300円、中高生100円。
電075(623)2056

★伏見夢百衆
南浜町。
地元蔵元の酒や酒まんじゅうなどが買える。
月曜(祝日除く)休み。
電075(623)1360

★伏見城模擬天守
桃山町大蔵の伏見桃山城運動公園。
「洛中洛外図」の伏見城を参考に建てられた鉄筋コンクリート造りの大天守と小天守。
入場できないが見学自由。

★鳥せい本店
上油掛町。
1677(延宝5)年創業の山本本家が、酒蔵を改装して営業する鶏料理店。
原則月曜休み。
電075(622)5533

近畿の宿泊情報

一覧

    現在この情報はありません。

近畿のツアー情報

一覧

    現在この情報はありません。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

旅コラム
国内
海外