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豊富町

豊富町 北海道 皮膚病に効く油温泉

茶色の油膜が湯の表面を覆う、独特の風合いを持つ豊富温泉

茶色の油膜が湯の表面を覆う、独特の風合いを持つ豊富温泉

 「出掛けるついでに、牛乳買ってきて」。家族にそんなことを頼まれたことがある人は多いだろう。僕も時々ある。ただ、今回の「ついで」は少々壮大だった。吉永小百合さん主演の映画「北の桜守」のロケ取材で北海道・稚内に行くついでに、その隣町に寄ろうというのだ。

 目指したのは豊富(とよとみ)町。一風変わった温泉があるという。町の中心部から車で東に10分近く走ると、そこが温泉街だ。町営の入浴施設ふれあいセンターを訪れた。

 風呂場で湯船を見て、驚いたというか、たまげた。焦げ茶色や黄土色のどろどろとしたものが湯の表面に浮いていて、その周辺はてかてかと輝いている。「何だ、これは」。思わず声に出してしまった。温泉と言われて想像する湯からはほど遠く、むしろ薬品工場や中世の魔女の釜の方が近いイメージだ。

 同センター職員の尾崎滋さん(30)が教えてくれた。「日本はもちろん世界的にも珍しい泉質で、石油成分が混じっているんです」。どうりで。湯を手ですくってみると、ぬるぬるを通り越してべたべたしている。ツンと刺激臭がするのも納得だ。

 歴史を聞いてさらに合点がいった。今から90年以上前の大正末期、石油を掘ろうとしたら噴出したのが温泉だった。すぐに温泉街が整備され、地元の人たちに愛されてきた。遠くまで名前が知られるようになったのは1990年代だ。「乾癬(かんせん)に効くらしい」。そんなうわさが道内で広まり、やがてアトピーにもいいようだと評判を呼ぶと、東京や愛知、広島などから湯治客が訪れるようになった。

 湯治客は2~3週間滞在し、日に何度も入浴する人が多い。皮膚疾患には、油分に含まれるタールが抗炎症作用を発揮するといわれる。このため、湯治用の湯船はぬるく、油分が多くなるよう調整されている。

 一般用の湯船は濃度を変えていない源泉が使われているが、それでも入ってみると、湯に沈んだ足先やひざが見えないほど濁っている。ぬるぬる感や軽い刺激臭もあるが、決して嫌な感じはしない。むしろ「特別な温泉に入っている」という非日常感が強く味わえていい。温泉マニアに人気で、沖縄など全国から訪れるというのも分かる。

乳牛1500頭が放牧されている緑地。広大な景色が楽しめる

乳牛1500頭が放牧されている緑地。広大な景色が楽しめる

 「温泉が有名な町ですが、産業としては酪農が盛んです」。町観光協会の栗山尚久さん(50)がそう教えてくれた。町営の大規模草地(おおきぼそうち)牧場は総面積1400ヘクタールと広大で、約1500頭もの乳牛が放牧されている。足を運んでみると確かに、牛がうまそうに、のんびりと草を食(は)んでいる。NHKドラマ「坂の上の雲」のロケで、ロシア軍との冬の戦闘シーンが収録されたこともあるが、今の時期は緑が広がって気持ちいい。牧場内でツーリングを楽しむ観光客も多いという。

 酪農で産出される牛乳はさまざまに利用される。町北東部の林の中にある工房レティエは、チーズがふるさと納税の返礼品として人気で、店舗には手作りジェラートを求めて多くの観光客が訪れる。

 接客中、笑みがこぼれっぱなしの久世(くせ)あも社長(26)は「両方とも、兄の牧場の生乳を使って添加物を入れずに作っているので、あっさりして食べやすい」と味の秘密を明かす。来店客に言われて1番うれしい言葉を聞いたところ、予期せぬ答えが返ってきた。ケラケラ笑いながら「『迷わず来ました』です」。カーナビも途中で案内をやめてしまうほど、人里離れた場所にあるようだ。
 

よもぎ味とミルク味のジェラートを手にほほ笑む久世あも社長=いずれも北海道豊富町で

よもぎ味とミルク味のジェラートを手にほほ笑む久世あも社長=いずれも北海道豊富町で

 そんな秘境の工房で、家族に土産でもと思ったが、やっぱりやめた。ついでで買うにはもったいない味だ。いつか家族で食べに来よう。

 文・写真 金森篤史

(2017年6月30日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
中部国際空港から新千歳空港は約1時間40分。
新千歳から稚内空港は約50分。
羽田空港から稚内は約1時間50分。
稚内空港から豊富温泉までは、タクシーやレンタカーなどの車で約40分。

◆問い合わせ
豊富町観光協会=電0162(82)1728

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電0162(82)1248

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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