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骨寺村荘園遺跡

骨寺村荘園遺跡 岩手県一関市 今も生きる中世の風景

中世の荘園そのままの曲がりくねったあぜ道と大小の田んぼ。遠く栗駒山が望める

中世の荘園そのままの曲がりくねったあぜ道と大小の田んぼ。遠く栗駒山が望める

 奥州藤原四代の都、平泉(岩手県平泉町)の西方、約12キロに中尊寺の荘園があった。かつて骨寺(ほねでら)村と呼ばれた同県一関市の本寺地区は、栗駒山から東に流れる磐井(いわい)川中流域の山間部にある。東西約6キロ、南北2キロの広さだった。骨寺は鎌倉時代の歴史書「吾妻鏡」に記載があるほか、当時中尊寺で描かれた絵図2枚も残されている。

 今も、絵図に描かれた中世の風景が目の前に広がる。国の史跡で、重要文化的景観にも選定されている荘園遺跡を巡った。

 まずは、骨寺村荘園交流館で荘園の歴史を学芸員の西幸子さん(56)から聞く。初代の藤原清衡は中尊寺建立の際、経を納める責任者の経蔵別当に自在房蓮光(れんこう)を任命し、蓮光は所領の骨寺村を中尊寺に寄進したという。荘園の歴史はここから始まった。

 「荘園歩きに欠かせないのがこの絵図ですよ」と西さんに渡されたのが複製の絵図。西方浄土思想が色濃く反映され、地図の上が西の方角となっている。田園風景が広がる荘園遺跡には、家屋の西側に防風林のいぐねがつくられ、前には田畑がまとまっている。中世の「田屋敷」が現在も点在している。まさに絵図そのものだ。西さんは「現在でも小さな水田が残っており、曲線状の用水路の骨格は95%以上が中世のままです」という。田植えが終わったばかりの水田を見ると、確かにあぜ道は曲がりくねり、よく目にする長方形の水田とは大違い。

 小さな丸い田は直径2メートルほどしかない。機械で耕すことはできず、自然の地形に合わせて、同心円状に苗が植えられている。

 と、そこに、荘園内で米を生産する佐藤正人さん(81)がやって来た。遺跡内での農業の難しさを尋ねると、5メートル四方ほどのいびつな田を指しながら「昭和の時代は毎年のように水害があった。川が氾濫し、この田んぼもその時に3つをまとめてようやくこの大きさになった」と話す。

 現在、荘園地区には100世帯ほどが住む。自然に手をつけず、遺跡と中世の風景を残しながら、どう生活を営んでいくか。まさに「生きている遺跡」といわれるゆえんだ。

 この田では夏の初め、中尊寺の僧の立ち会いの下、田植えが行われる。秋には稲刈り交流会、冬には中世さながらの行列を組み、収穫した米を中尊寺に納めている。かつては荘園北東側の逆柴山(さかしばやま)を越えて運んだという。

六所宮があったとされる駒形根神社。この日は荘園の自然観察のグループ客が来ていた

六所宮があったとされる駒形根神社。この日は荘園の自然観察のグループ客が来ていた

 草が生い茂る道を登ってみると、中腹からは栗駒山と荘園を一望できる。山頂付近には史跡の慈恵塚(じえづか)があった。このまま行けば平泉にも通じるが、徒歩では7時間はかかるという。

 2011年に中尊寺などの平泉の文化遺産が世界遺産に登録された際、骨寺などは除外された。いま、追加登録を目指し、準備が進んでいる。この日、岩手大の発掘調査に同行していた一関市博物館主任学芸員の鈴木弘太さんは「申請は最終段階。登録はできますよ」と自信をみせた。

逆柴山の頂近くにある慈恵塚。このわきの道を通って荘園の米や農作物が運ばれたという=いずれも岩手県一関市で

逆柴山の頂近くにある慈恵塚。このわきの道を通って荘園の米や農作物が運ばれたという=いずれも岩手県一関市で

 荘園のほぼ中央に駒形根(こまがたね)神社がある。突然、西さんは「荘園最大の謎は肝心の『骨寺』がどこにあったのか?ということです」と言って絵図を広げた。絵図で六所宮(ろくしょのみや)とあるのが現在の駒形根神社であり、見てきた田と社も絵図の通りだ。しかし、六所宮の近くに「骨寺跡」と記載はあるものの、あたりを発掘してもこれまで寺跡は発見されていない。

 骨寺は、清衡の中尊寺建立にともない廃寺になったとされ、中尊寺と深いかかわりがあると考えられる。荘園の生い立ちを探るうえでも重要で、寺跡の調査はなおも続いている。

 広々とした田園風景の中で、寺跡とされる丘だけはうっそうと木々が茂り、中世からの重い歴史を背負っているように、深い陰影に満ちていた。

 文・写真 亀岡秀人

(2017年7月7日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
東北新幹線一ノ関駅で下車。
同駅前から路線バスで塚(骨寺村荘園交流館前)まで約30分。
東北自動車道一関ICから車で約20分。
平泉からは約30分。

◆問い合わせ
骨寺村荘園交流館=電0191(33)5022
火曜休館。

おすすめ

舞草(もくさ)鍛冶が生み出した刀剣

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南部一郎ざるうどん

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★史跡ガイド
慈恵塚をはじめ史跡の多くはガイドの同行が必要。
中世と現代の荘園内を比べるためにもガイドはおすすめ。
2時間まで3000円、1時間超ごとに1000円加算。
予約は前々日の午後3時までに。
いわいの里ガイドの会=電0191(48)5888

★一関市博物館
荘園遺跡の資料や、最も古い鍛冶集団の一つとされる舞草(もくさ)鍛冶が生み出した刀剣などを展示。
刀剣の隅々まで鑑賞でき、マニアの評判も高い。
大人300円など。
原則月曜休館。
電0191(29)3180

◆かぼちゃうどん
荘園内で、米以外に生業を支えるため「南部一郎」カボチャを栽培している。
そのカボチャを生地に練り込んだうどんなどを交流館内の若神子(わかみこ)亭で提供している。
うどんの生地は黄色、味はほんのり甘い。
南部一郎ざるうどんは700円。
電0191(33)5022

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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