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那智山

那智山 和歌山県 達成感と名瀑待つ道

平安衣装を着て石畳の続く熊野古道の大門坂を歩く女性たち

平安衣装を着て石畳の続く熊野古道の大門坂を歩く女性たち

 いにしえの旅人に思いをはせながら、熊野三山の一つ和歌山県那智勝浦町の熊野那智大社を中心にした那智山を歩いて巡ってみた。

 この山域は平安貴族らが熊野に現世浄土を求めて熊野詣でに訪れた地として知られる。熊野古道の大門坂から、同大社、那智山青岸渡寺(せいがんとじ)、那智の滝を目指した。いずれも世界遺産に登録されている「紀伊山地の霊場と参詣道」の一つだ。

 熊野古道の中でも、かつての面影をよく残す大門坂から往復約5キロのコースを歩き始めた。入り口にたたずむ「大門坂茶屋」では熊野詣でが盛んだったころの平安衣装を貸し出している。衣装を着て坂を歩き終えた千葉市の女性二人が、おかみの宮本照代さん(88)とくつろいでいた。女性(22)らは「歩くのが大変でしたが、精神的にすっきりしました」と満足そうだった。

 さらに3人が着替えを終えて出発するというので、途中まで同行した。道の両側に並び立つ樹齢800年の夫婦(めおと)杉を抜けると、石畳が延々と続く。うっそうと茂った樹林に木漏れ日が差し込み、紅色の平安衣装がぼんやりと浮かび上がる。3人は頬を赤らめながら「次は彼と二人で歩いてみたいな」とうっとり。タイムスリップしたような雰囲気に外国人観光客もびっくりしていた。

創建1700年で多くの参拝客でにぎわう熊野那智大社

創建1700年で多くの参拝客でにぎわう熊野那智大社

 厳しい残暑の中、今度は一人になって熊野那智大社を目指して歩く。同坂は650メートル近くあり、石畳は凹凸があって膝が、がくがくする。坂を抜けて土産物店が立ち並ぶ急な石段を上り切ると同大社だ。法皇や上皇の熊野御幸(ごこう)だけでなく、鎌倉期以降は庶民もこの地を目指した。今年は創建1700年とあって、各地からの参拝客でにぎわっていた。10月14日には式年大祭もある。

 朱塗りの社殿脇に平清盛の子、重盛が植えたと伝わるクスノキの古木があり、空洞化した幹の中をくぐることができる。身をよじりながら中に入ると、目の前には、ざらついた木肌のみ。母の胎内とはこんな感じなのか。はしごを登って反対側に出ると、すっとした。

 すぐ横には、同大社とつながりの深い西国33所巡礼1番札所の那智山青岸渡寺が並び立つ。こちらは来年、同巡礼草創1300年を迎える。豊臣秀吉が再建した桃山期の本堂は黒ずんで貫禄があった。お参りを終えると、三重塔と那智の滝が目に飛び込んできた。「早く間近で滝が見たい」と、急な道を駆け下った。

那智山青岸渡寺の三重塔の向こうに現れた那智の滝=いずれも和歌山県那智勝浦町で

那智山青岸渡寺の三重塔の向こうに現れた那智の滝=いずれも和歌山県那智勝浦町で

 樹林を抜けると、風の音をかき消すようなごう音が響く。那智の滝は日本三名瀑(めいばく)の一つで、落差は133メートルある。この山域のシンボルで、熊野那智大社はこの滝を信仰する自然崇拝が起源とされる。まろやかな延命長寿の水を口に含んで滝を見上げると、あまりの高さに首が痛くなった。落下する水が強風で左右になびいて、竜のように見える。この滝に神が宿ると感じたいにしえの人に共感した。

 すーっと汗が引いていき、日常では感じられない達成感がこみ上げてきた。汗も日頃のストレスも滝が洗い流してくれたように爽快になった。ここ熊野は「よみがえりの地」とも呼ばれる。京都から1カ月近くかけて熊野詣でをしたいにしえの人々の足元にも及ばないが、歩き続けることによって、再生される何かがある。

 滝から戻る山中では、また噴き出した汗で、下半身までがびしょぬれ。那智山を歩き終えると、土産物店に駆け込んで、この地の名物・黒あめの蜜が入ったソフトクリームを注文した。かぶりつくと、濃厚な味わいで、正直、ここで「やっと、よみがえった」と思った。

 文・写真 柳沢研二

(2017年9月15日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
那智勝浦町へはJR名古屋駅から特急で紀伊勝浦駅下車(約3時間半)。
東京からは羽田空港から南紀白浜空港まで約1時間10分。
JR白浜駅から特急で紀伊勝浦駅まで約1時間20分。
紀伊勝浦駅から那智山へバスで25分。

◆問い合わせ
那智勝浦町観光協会=電0735(52)5311

おすすめ

市場の競り

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マグロ中とろカツ丼(1800円)

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★勝浦漁港
はえ縄漁法による生マグロの水揚げ日本一の漁港。
市場の競りは午前7時からで2階のデッキから見学できる。
入場無料。
土曜、祝日の前日が定休。
不定休あり。
周辺には多くの温泉旅館があり、朝食前に訪れるのがお勧め。
取材日にはビンナガマグロを中心に18トン近い水揚げがあった。

★マグロ料理
JR紀伊勝浦駅周辺を中心に多くのマグロ料理店が立ち並ぶ。
こだわりは冷凍していない生マグロ。
同駅前の「bodai(母大)」はマグロ中とろカツ(1400円)やマグロ中とろカツ丼(1800円)が人気。
さっとレアで揚げられ、さくっとした外側ともちっとした内側の対照的な食感が味わえる。
昼は午前11時~午後2時、夜は午後5~11時。
火曜定休。
電0735(52)0039

★大門坂茶屋
平安衣装体験はモデルコース(約1時間)が2000円、体験コース(約2時間)が3000円。
男性用もある。
予約可。
電0735(55)0244

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