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美瑛

美瑛 北海道 彩り豊かな実りの丘

四季彩の丘に咲く色とりどりの花々。奥には収穫を終えた麦畑や山々も見える

四季彩の丘に咲く色とりどりの花々。奥には収穫を終えた麦畑や山々も見える

 抹茶色の麦畑が広がる。所々が刈り取られ、薄茶色となっている。モクモクと張り出した雲の下、山々の稜線(りょうせん)がかすんで見えた。スイスを思わせる田園風景だ。北海道中部にある美瑛(びえい)町。この町を撮り続け、ギャラリーまで建てたあこがれの写真家、前田真三さん(1922~98年)が魅了されたのは、どんな景色だったのだろう。そんな疑問に導かれるようにカメラとともに自転車で巡った。

 8月の末だったが、最高気温は23度ほどで朝方は肌寒い。JR美瑛駅で試し撮りを終え、午前9時半からガイドの冨田明さん(35)の自転車による先導で、ペダルをこぐ。

 点在する店や民家は、3分ほど走るとなくなり、聞こえるのは風の音と虫の「ジー」という鳴き声だけ。顔に当たる風は湿気が少ない。通り掛かった橋の下にはコバルトブルーの美瑛川が流れる。さわやかな風と川に歓迎され、胸が高鳴る。

 緩い上りが続いたが、実は電動アシスト自転車のおかげで、すいすい進め、5キロほどで「新栄(しんえい)の丘」に着いた。ラベンダーは薄紫の花を咲かせ、ほんのりかぐわしい。近くには1メートルほどのヒマワリもあり、不思議に思って見ていると「次に植える野菜の前の肥料として植え、しばらくしてトラクターで土に混ぜ込むんです」と冨田さんが教えてくれた。連作する農家の知恵が、畑に彩りを与えているのだと実感する。

 下り坂をしばらく進むと、花畑の名所「四季彩の丘」が見えた。花畑や丘を前田さんならどう撮るだろうと考えながらシャッターを切った。近くのカフェで一休みし、パンをかじりながらチェック。「今度はどう撮ろうかな」と腕組みする。

写真家の前田真三さんが建てたギャラリー「拓真館」

写真家の前田真三さんが建てたギャラリー「拓真館」

 丘を通り過ぎる。車通りは全くない。神社やジャガイモ畑を横目にシラカバ並木に囲まれた時計台のような建物に着いた。前田さんが廃校の小学校を改修して開いたギャラリー「拓真(たくしん)館」だ。ちょうど開館30年展の最中だった。朝霧や夕焼け、山や畑、塔…。風景が被写体として生き生き描写され、息をのむ。

 車1台がやっと通れる細い農道を真っすぐ上った。大豆畑では野生のシカに遭遇したが、カメラを持つ前に逃げてしまった。ちょっぴり苦笑い。

 上りきると、道の脇にジャガイモが詰まったコンテナが見えた。冨田さんによると、ポテトチップスの原料になるという。ちょうど収穫期で、遠くを見渡すと小高い丘で作業中のトラクターも見え、実りの時期を思わせた。

収穫真っただ中のジャガイモ=いずれも北海道美瑛町で

収穫真っただ中のジャガイモ=いずれも北海道美瑛町で

 町内を一望できる「三愛の丘」を経由し、午後3時すぎに美瑛駅へ到着。しばらく休んだ後、夕焼けを撮ろうと今度は1人で新栄の丘へ戻った。1時間ほど待つと、丘の上から日が沈んでいく姿が拝めた。隣の恋人と見ていた群馬県太田市の女性(30)は「夏が一段落したこの時期も、風情があってすてきです」とうっとり。

 美瑛を「日本の新しい風景」と称した前田さんが初めてこの地を訪れてから、46年。写真に収めたカラマツは刈られ、連作の作物が変わるなど、景色は様変わりしたが、「美瑛は変わらず、新しい風景」と言い切るのは、長男の晃さん(63)。父の撮影によく同行し、自身も美瑛を撮り続けてきた経験から「丘陵地に広がる田園風景は、父がテーマにした奥三河や上高地同様に趣のある眺め。年間でも一日の中でも違う顔を見せ、飽きない」。

 自転車で38キロ走ったが、前田さんの写真と比べ、自分が撮ったカットはほんの一場面。実りの丘を味わい尽くすには、まだまだ経験不足だと実感した。また違う季節に来よう。

 文・写真 山下洋史

(2017年9月22日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
旭川空港からバスで旭川駅まで30分、JR富良野線で美瑛駅まで約30分。
便数は少ないが、空港から美瑛駅をつなぐバス(約15分)もある。

◆問い合わせ
美瑛町観光協会=電0166(92)4378

おすすめ

青い池

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政ちゃん寿し

政ちゃん寿し

★ガイド付きサイクリングツアー
電動アシスト自転車でリクエストに応じてガイドが美瑛の丘を先導してくれる。
道中で撮影した写真を後日、送ってくれるサービスもある。
半日コース5400円、1日コース8800円。
ガイドサイクリングツアー美瑛=電090(5956)4567

★青い池
美瑛駅から白金温泉へ向かう途中にある名所。
火山泥流の災害を防ぐため、美瑛川に造られたえん堤。

★政ちゃん寿し
美瑛駅前にある創業41年の老舗。
ウニ、エビ、イクラなどに特製の甘だれを塗ったちらし(1100円から)はプリプリの食感が楽しめる。
店内には主人が撮影した美瑛の写真が飾られている。
電0166(92)1171

★拓真館
1987年7月開館の入場無料のギャラリー。
10月までは午前9時~午後5時。
11~1月は午前10時~午後4時。
2~4月は休館。
電0166(92)3355

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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