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日本海と中原中也の故郷

日本海と中原中也の故郷 山口県 断崖を彩る朱の鳥居

日本海に向かって鳥居が連なる元乃隅稲成神社=山口県長門市で

日本海に向かって鳥居が連なる元乃隅稲成神社=山口県長門市で

 日本海を見下ろす海岸線に、鳥居が幾十にも連なっている。海の青に鳥居の朱色が鮮やかだ。山口県長門市の元乃隅稲成(もとのすみいなり)神社。海に向かって延びる鳥居は123基ある。

 最初の鳥居をくぐり急な坂道を100メートルほど上ると、大鳥居に着く。鳥居のちょうど5メートルほどの高さになんとさい銭箱がある。参拝客は、そこを目がけ硬貨を投げる。面白い仕掛けを考えたものだ。入れば願いがかなうとあって、皆何度も挑戦している。入るたび、歓声が上がる。

 私もやってみた。3度目にカチャリと音を立てて入った。やった。ただ、投げることにばかり気をとられ、肝心の願い事を唱えるのを忘れてしまった。

 あまり知られなかったこの神社が一躍有名になったのは2年前。米国の放送局CNNの「日本の最も美しい場所31選」に選ばれ、訪れる人が激増した。「年間数万人だった観光客が昨年は約50万人、今年はそれを超え80万人ぐらいになりそうです」と長門市観光課の大田栄一郎さん(29)。さい銭箱の硬貨も15カ国以上に及ぶそうだ。

高さ約5メートルのさい銭箱を目がけて硬貨を投げ入れる参拝客=山口県長門市で

高さ約5メートルのさい銭箱を目がけて硬貨を投げ入れる参拝客=山口県長門市で

 鳥居前の海食地形の断崖には、打ち寄せる波が1メートルほどの穴に突入し、上方に海水を噴出させる「龍宮(りゅうぐう)の潮吹」と呼ばれる場所がある。国指定天然記念物にもなっていて「気象条件がそろうと30メートル近く噴き上がることもあるんですよ」と大田さん。訪れた時は10メートルほどの水煙を噴き上げていた。

 ここから、同県下関市側に20キロほど行くと、やはり絶景で知られる角島(つのしま)大橋がある。海をまたいで角島まで長さ1780メートルの橋が延びる。ここまで来たら行ってみるのもいい。

中原中也記念館。手前の木は中也が子どもの頃からあるカイヅカイブキの木=山口市湯田温泉で

中原中也記念館。手前の木は中也が子どもの頃からあるカイヅカイブキの木=山口市湯田温泉で

 山口といえば忘れてはならない人がいる。山口市出身の詩人中原中也(1907~37年)だ。今年は生誕110年。「幾時代かがありまして 茶色い戦争ありました」で始まる「サーカス」や、「汚れつちまつた悲しみに……」などの詩を知る人も多いだろう。せっかく山口に来たのだから、中也の故郷山口市湯田温泉に足を延ばした。

 中也は代々医者の家の長男として生まれ、7歳から15歳までここで過ごした。生家は1972(昭和47)年に焼失したが、跡地に記念館が建てられ、火事の際、遺族が運び出した中也の遺稿や遺品を中心に貴重な資料を公開している。

 記念館は、低い山に囲まれた盆地のような町の中心にあった。中也が子どもの頃からあるカイヅカイブキの木が、焼失を免れ入り口に立っている。

 中也は、とても筆まめで頻繁に友人に手紙を送っていた。前夜酔って絡んだことをわびる手紙も。酔うと誰彼かまわず議論をふっかける癖があったという。そんな一面を知ると中也が急に身近な男にみえてくる。

 幼少の頃は神童と呼ばれた中也だが、中学に進むと、長男として中原医院を継がなければならない宿命に背を向けるように、文学にのめり込んでいく。ついに3年で落第、世間体を気にした父親が京都の立命館中学に転校させる。

 そんな中也が、学校をサボってはよく行っていた場所が町外れにあると聞き行ってみた。権現山という高さ40メートルほどの丘だ。長い石段を上って行くと木々に囲まれひっそりとした頂上に古い社があった。中也はここから町を見下ろし、何を思っていたのだろうか。

 中也の「帰郷」という詩の一節が浮かんでくる。

 「これが私の故里(ふるさと)だ さやかに風も吹いてゐる
 心置なく泣かれよと 年増婦(としま)の低い声もする
 あゝ おまへはなにをして来たのだと・・・・・・ 吹き来る風が私に云(い)ふ」

 文・写真 橋本節夫

(2017年10月27日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
元乃隅稲成神社へはJR山陰線長門古市駅からタクシーで約20分。
角島大橋は同線阿川駅からタクシーで約15分。
12月24日までの土日祝日は、2カ所とも行ける湯田温泉発の「やまぐち絶景満喫バス」も運行している。

◆問い合わせ
山口県観光連盟=電083(924)0462

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★山陰線観光列車「○○のはなし」
座席が外向きに設置され車窓から美しい海沿いの景色が楽しめる。
来年2月までの土日祝日、新下関-東萩駅間で1日1往復運行。
乗車券の他に座席指定券が必要。
お弁当は要事前予約。
JR西日本広島支社=電082(264)7420

★湯田温泉観光回遊拠点施設「狐(きつね)の足あと」
中原中也記念館の目の前にあり、湯田温泉の街歩き情報などを提供。
入館無料。
カフェもあり地酒利き酒セット500円などがある。
足湯は大人200円、小中学生100円。
電083(921)8818

★萩・明倫学舎
萩藩校明倫館跡地の旧明倫小木造校舎を観光インフォメーションセンターとして整備した。
本館への入場は無料。
2号館は明倫館の歴史や幕末維新期の歴史、科学技術史を伝える資料を展示する。
こちらは大人300円、高校生200円、小中学生100円。
電0838(21)2018

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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