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道後温泉と砥部焼の里

道後温泉と砥部焼の里 愛媛県 「坊っちゃん」に浸る秋

祖父江慎さんが企画し、小説「坊っちゃん」全文を収めた「道後舘」304号室。「いろんな仕掛けもあります。探しに来て」と井藤英晴支配人(左)=松山市で

祖父江慎さんが企画し、小説「坊っちゃん」全文を収めた「道後舘」304号室。「いろんな仕掛けもあります。探しに来て」と井藤英晴支配人(左)=松山市で

 海外勤務を終え、帰国して真っ先に向かったのはそば屋。旅に出るなら迷わず温泉だ。日本最古といわれる温泉に、刺激的なアートを取り入れたイベントで盛り上がる道後温泉へ、芸術の秋を探しに出掛けた。

 温泉とアートを組み合わせた「道後オンセナート」。国重要文化財の道後温泉本館が現在の姿になって120年を迎えた2014年、国内外から写真や立体、映像などさまざまなアートが町を彩った。来年4月、4年ぶりの大祭「オンセナート2018」が開幕するのを前に、今年9月からプレイベントが始まっている。

 格式ある旅館「道後舘」の一室は、本になっていた。松山を舞台にした夏目漱石の「坊っちゃん」。「親譲りの無鉄砲で-」と印字された扉を開けると、壁や床、座椅子の肘掛けや畳のへりまで、文章の海。きちんと一冊分、収められている。

 漱石好きで知られるブックデザイナー、祖父江慎(そぶえしん)さんの作品だ。「持ち運べない本、その場に行かなければ読めない本、という発想です」と井藤英晴支配人が代弁する。見学料1500円(大人)には、祖父江さんがデザインした新聞大の「坊っちゃん」が付く。それを片手に、お気に入りの場面を探すのも楽しい。

 欧州をイメージした全館洋室の「道後山の手ホテル」の一室は、女性に人気のイラストレーター、宇野亜喜良さんが描く幻想的な世界が、壁一面に広がっていた。見学は1000円、泊まることもできる。来年の本格オープンでは、舞踊家田中泯さんや明和電機のパフォーマンスもあり、幅広い芸術でさらに盛り上がりそうだ。

 14年のオンセナート以来、「若い女性客や個人客が増えた」と松山市道後温泉事務所の柴田仁さん。近年は、台湾などと松山を結ぶチャーター便や格安航空会社(LCC)が就航し、外国人の宿泊客も3年間で4倍以上に増えた。歴史ある町は新たな客層で活気づいている。

国重要文化財の道後温泉本館は、写真家で映画監督の蜷川実花さんの花火の写真で彩られ、夜は一層華やかだ=松山市で

国重要文化財の道後温泉本館は、写真家で映画監督の蜷川実花さんの花火の写真で彩られ、夜は一層華やかだ=松山市で

 アート巡りを満喫した後は、漱石も愛した道後温泉本館でひとっ風呂。台風21号が最接近したこの日、外湯「神の湯」の観光客も少なめ。アルカリ性単純泉のお湯をゆったり楽しんだ。

 「今日は旅の人も少ないけんね」。脱衣所では、地元のおばちゃんたちが話に花を咲かせている。日本有数の観光名所は、今も欠かせない地域の社交場なのだ。体がいっそう温まった気がした。

和紙を使った柔らかな絵付けで知られる大東アリンさん。窯跡で見つかった古い陶片を生かしたアロマキャンドルも作る=愛媛県砥部町五本松で

和紙を使った柔らかな絵付けで知られる大東アリンさん。窯跡で見つかった古い陶片を生かしたアロマキャンドルも作る=愛媛県砥部町五本松で

 台風一過の翌日は、バスに揺られてやきもの産地、砥部町へ。砥部焼は白い磁器に、呉須で絵付けした藍色の柄が特徴。高台がどっしりした「くらわんか」茶わんは、揺れる船上でも倒れないように。玉縁と呼ばれる、ぽってりとした縁は、欠けにくいように。日常使いに徹した庶民のための器だ。

 ミカンや伊予柑(かん)が実るのどかな里山で、陶板が埋め込まれた遊歩道を歩く。窯元のほとんどは家族経営。窓の向こうで、素焼きされた白い器が並び、職人たちが絵付けする光景が見える。

 ギャラリーを併設する窯元も増えている。五本松地区の東窯(ひがしがま)を訪ねると、花や木がのびのびと描かれた食器や花器がずらり。作家の大東アリンさん(56)はフィリピン出身。東窯を継ぐ夫との縁で砥部に根を下ろし、伝統のデザインや絵付けの手法を一から学んだという。

 「砥部焼のブルーが大好き」とアリンさん。優しい藍色と穏やかな伊予の空気に癒やされた旅だった。

 文・写真 小嶋麻友美

(2017年11月17日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
松山空港から道後温泉は空港バスで約40分。
松山市中心部とは路面電車で結ばれている。
砥部町へは、松山市駅から伊予鉄バスで約40分。

◆問い合わせ
松山市道後温泉事務所=電089(921)5141、砥部町観光協会=電089(962)7288

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★飛鳥乃湯泉(あすかのゆ)
今年9月末に開館した道後温泉別館。
真新しい館内は、和紙や伊予かすり、和くぎなど愛媛県の伝統工芸を生かした装飾が随所に。
2階の特別浴室は、本館にある皇室専用浴室「又新殿(ゆうしんでん)」を再現した。
入浴料は大人1人600円から。
電089(932)1126

★砥部焼観光センター・炎(えん)の里
国道沿いにあり、砥部焼の窯元約70社の製品を展示販売。
製造工程の見学や、茶わんや皿への絵付け体験もできる。
電089(962)2070

★松山鮓(ずし)
節句や祝い事、客のもてなしに出される松山の郷土料理。
タチウオやタコなど瀬戸内の食材をふんだんに使ったちらしずしで、甘めのだしが優しい味わいだ。
すし丸道後店(松山市道後湯之町20の12)では、吸い物付きで1134円。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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