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遠野、平泉

遠野、平泉 岩手県 民話の里から「浄土」へ

粉雪の中、馬そりに興じる子どもたち=岩手県遠野市の遠野ふるさと村で

粉雪の中、馬そりに興じる子どもたち=岩手県遠野市の遠野ふるさと村で

 岩手の冬は、キーンと張り詰めた冷たい空気に包まれる。春先まで雪が覆うところもある。長い冬を過ごす工夫が、豊富な昔話や、さまざまな雪遊びだ。北上高地の真ん中にある民話の里・遠野市も小雪だった。

 早速「遠野ふるさと村」に向かう。ここにはかやぶきの「南部曲がり屋」が大小6軒ほど集められている。母屋と馬小屋がL字形につながっており、いろりで暖められた空気は、馬のいる空間にも流れる。煙は梁(はり)や屋根材に浸透し、家屋を長持ちさせるという。古趣あふれる曲がり屋で出る料理は、濃厚で腹持ちがいい。地元のどぶろく「どべっこ」は、体を内側から温める。

 ふるさと村では今、冬の遊びが楽しめ、10人も乗れる馬そりが走る。その脇で年配のお父さんが「昔はスキーといえば、裏山から竹を切ってきて作ったのさ」と教えながら、子どもに竹スキーをはかせていた。

 少し離れた「カッパ淵」は、伝説のカッパ出現地である。本物は出なかったが、カッパおじさんこと運萬(うんまん)治男さん(69)が出迎えてくれた。キュウリをぶら下げた釣りざおと、カッパを入れる「びく」、それに「カッパ捕獲許可証」を携帯している。「初代のカッパおじさんは、赤いカッパを見たというんだけどな、ワシ(2代目)はまだなんだな」。運萬さんは、普段農業を営む一方、ふるさと村でトークショーもやる。遠野一の人気者である。

カッパ淵でキュウリをえさにカッパを狙うカッパおじさん=遠野市で

カッパ淵でキュウリをえさにカッパを狙うカッパおじさん=遠野市で

 今のカッパはかわいく描かれる。でも本当はどうだろう。遠野市街地にある遠野文化研究センターの学芸員熊谷航(わたる)さん(37)は、「カッパの正体は諸説あるのですが、一説には、間引きされた子どもだといいます。座敷わらしもカッパと同じだというのです」と話す。常に飢えと背中合わせの時代、手をかけるに忍びず放棄されたか、あるいは死にきれなかった乳幼児がカッパ。大きな家にひそかにかくまわれると座敷わらしになるというわけだ。

 カッパ淵近くの「伝承園」にも曲がり屋があり、「オシラサマ」がまつられている。桑の木に彫られたペアの神様で、娘の姿と馬の姿をしている。娘と馬が夫婦になったことが父親の怒りを買い、馬は首を切られ、娘とともに天に昇ってオシラサマになったという。

 有名な柳田国男「遠野物語」は、遠野出身の民話収集家佐々木喜善が柳田に語った話が原型。佐々木は「日本のグリム」と称された。グリム童話と同様、遠野の民話も本当はこわいことを実感した。

中尊寺では座禅体験ができる=岩手県平泉町で

中尊寺では座禅体験ができる=岩手県平泉町で

 遠野から花巻を経由し平泉町に足を延ばす。世界遺産の町となり、内外の観光客が増えた。その中心は、奥州藤原氏が平安時代後期に建立した中尊寺。深い木立に囲まれたお堂で写経や座禅の体験ができる。案内の僧侶・佐々木五大さんは「座禅はお釈迦(しゃか)さまの瞑想(めいそう)からきており、(中尊寺が属する)天台宗でも重要な修行です。呼吸を整え、不安の波を落ち着ける。ごみが下に沈むように、澄んだ心が得られるのです」と説明する。

 往時の建物が焼失した中、金をふんだんに使った金色堂は、今もまばゆい輝きを放つ。遠野の土くささとは対照的に優雅な仏教文化の世界だ。

 佐々木さんは話す。「黄金で権力を誇示したのではありません。極楽浄土を目に見える形で再現したのです。奥州藤原氏は戦乱に懲り、平和を祈るという強い気持ちを持っていました。海外からいらっしゃる方にもそれを分かってほしいですね」

 文・写真 吉田薫

(2018年1月26日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
遠野へは東北新幹線新花巻駅からJR釜石線快速で約40分。
遠野駅から遠野ふるさと村へはタクシーで20分。
カッパ淵と伝承園へはタクシーで10分。
いずれも路線バスは1日数本。
中尊寺へはJR東北線平泉駅から徒歩約25分。

◆問い合わせ
遠野市観光協会=電0198(62)1333
遠野ふるさと村=電0198(64)2300
伝承園=電0198(62)8655
中尊寺=電0191(46)2211

おすすめ

十二単(ひとえ)の着付け体験

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もち本膳

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★えさし藤原の郷
平安時代の建物を多数復元建築した。
とくに寝殿造りの邸宅は京都にもない本格建築。
時代劇のロケやコスプレの若者でにぎわう。
十二単(ひとえ)の着付け体験もできる。
東北新幹線水沢江刺駅からタクシーで15分。
入場料大人800円。
電0197(35)7791

★毛越(もうつう)寺
中尊寺と並ぶ平泉の古寺。
浄土庭園は平安時代の栄華を示し、5月第4日曜には曲水の宴が開かれる。
壮大な規模が礎石からしのばれる。
東北線平泉駅から徒歩7分。
拝観料大人500円。
電0191(46)2331

★せきのいち
平泉の入り口にあたる一関市の蔵元レストラン。
名物の「もち本膳」は、江戸時代の大名伊達氏に受け継がれた儀式用の食事。
2000円(要予約)。
点在する蔵造りの建物内に、博物館や文学館、売店がある。
JR一ノ関駅から徒歩10分。
電0191(21)1144

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。