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沖永良部島

沖永良部島 鹿児島県 サンゴと西郷 誇りの礎

基盤岩の上にサンゴが堆積してできた田皆岬。崖の端まで歩み寄ることができる=鹿児島県知名町で

基盤岩の上にサンゴが堆積してできた田皆岬。崖の端まで歩み寄ることができる=鹿児島県知名町で

 断崖絶壁の上でピクニック。そんなことが、沖永良部(おきのえらぶ)島の田皆(たみな)岬(鹿児島県知名町)ではできてしまう。ゆるやかな斜面を芝が覆い、穏やかな日和ならレジャーシートを広げるには最適だ。でも、風がいたずらをして帽子をさらわれても、走って追いかけてはならない。その先には柵もロープもなく、下手をすれば51メートル下の海へと真っ逆さまだ。

 この田皆岬は海底の岩にサンゴが堆積し、それが隆起してできた。ここに限らず島全体がサンゴで形作られていて、それが目を奪われる数々の景観の礎になっている。

 波がサンゴの岩を削り、大きな穴がぽっかり開いているのが「フーチャ」(同県和泊町)と呼ばれる景勝地。台風時には、ここから潮が噴き上げるという。その迫力のある光景を想像しながら海を眺めていると、案内をお願いした沖永良部島エコツアーネットの山下芳也さん(49)が、「あそこにウミガメがいるよ」と言う。指さす先に目を凝らすと、海面を漂いつつ呼吸のために頭を上げる姿を捉えることができた。この島は陸からウミガメが泳ぐ姿を見られる数少ない場所といわれる。サンゴ礁に付く海草を食べに来るのだという。冬の間は運が良ければ、子育てのため沿岸にとどまるクジラも発見できるそうだ。

白砂が広がるワンジョビーチ。沖永良部島では4月に海開きがある=鹿児島県和泊町で

白砂が広がるワンジョビーチ。沖永良部島では4月に海開きがある=鹿児島県和泊町で

 南国的なビーチもこの島の宝物。白い砂が広がるワンジョビーチを訪れた。強い日の光を受け海はキラキラ輝く。水は浜辺に近づくと優しく明るい翡翠(ひすい)色に変わり、波打ち際では混じり気なく透き通る。そこで戯れていたのが川崎市から来た男性(32)一家。沖永良部は妻(25)の故郷で、もうすぐ生後6カ月になる女子児童を連れて初めて訪れた。女子児童は海に足を浸すのも初めて。妻は久々に故郷の海を見て、子どものころは当たり前だったその美しさに心が満たされた様子だった。

 ワンジョだけでなく、島には大小合わせ110ものビーチがある。私が見たのはそのうちの10程度だが、ソテツや岩に囲まれて隠れ家的になっていたり、サンゴのリーフが広がっていたりと、それぞれ個性を楽しめた。

西郷南洲記念館の西郷隆盛像は痩せ衰えている=鹿児島県和泊町で

西郷南洲記念館の西郷隆盛像は痩せ衰えている=鹿児島県和泊町で

 沖永良部は西郷隆盛が罪人として流された島としても知られる。江戸末期、薩摩藩の事実上の最高権力者だった島津久光を怒らせ、西郷にとって2度目の流刑となった。最初の奄美大島では妻帯が許されて子にも恵まれたが、沖永良部では完全に重罪人扱い。屋外の格子牢(ろう)に入れられ、風雨や蚊の襲来に苦しんだ。ここの西郷南洲記念館に復元された牢の中にある銅像は、私たちが知っている風貌と全く違い、げっそりと痩せ、ひげも伸びている。

 どんどん衰える西郷を見かね、島役人の土持政照(つちもちまさてる)が座敷牢を造り移らせた。西郷はそこで子どもたちに学問を授けた。約1年半の滞在で、飢饉(ききん)対策を伝授したことなどもあり、島民に尊敬され慕われた。それは今も同じのようで、訪れた時は、今年のNHK大河ドラマ「西郷(せご)どん」の島内ロケに向け、エキストラのオーディションが、もっぱら住民の話題になっていた。

 一周約55キロの島巡りを終え、山下さんと居酒屋で名産の黒糖焼酎を傾けた。ほんのりと甘い香りで芋焼酎ほどクセも強くない。グイグイいけてしまう。良い気分で宿泊先に戻って鏡を見ると、日焼け(断じて焼酎焼けではない)していることに気づいた。その日は二十四節気の「大寒」だったが、沖永良部の最高気温は20.8度。南の島の冬の太陽を侮ってはいけない。

 文・写真 佐橋忠浩

(2018年2月2日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
中部国際、羽田、成田の各空港から鹿児島空港で乗り継ぎ、沖永良部空港へ。
鹿児島空港から1日3便で所要時間は1時間半。
7月には那覇-沖永良部島-徳之島-奄美大島を結ぶ便が就航予定。

◆観光情報
おきのえらぶ島観光協会=電0997(92)0211

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★昇竜洞
沖永良部島には200から300の大鍾乳洞群がある。
そのうち昇竜洞では全長3500メートルのうち600メートルが一般公開される。
ほかの洞ではケイビングツアーもある。

★日本一のガジュマル
島北部の国頭(くにがみ)小学校校庭にある。
枝張りの直径22メートル、根回り8メートル。
1898年の第1回卒業生によって植えられた。

★黒糖焼酎&菓子
サトウキビと米を原料とする黒糖焼酎は奄美群島だけに製造が認められている。
純黒糖や黒糖を絡めた菓子も土産に人気。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。