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堺 大阪府 環濠都市の心意気 脈々

3年前に完成した「さかい利晶の杜」は観光の発信拠点として期待されている

3年前に完成した「さかい利晶の杜」は観光の発信拠点として期待されている

 「さかい利晶(りしょう)の杜(もり)」は、大阪と堺を結ぶ阪堺(はんかい)電車(通称ちんちん電車)が走る阪堺線の宿院駅近くにあった。利晶とは、千利休と与謝野晶子。ともに堺が生んだ文化人。とはいえ、3階建ての1階フロアに千利休茶の湯館、2階に与謝野晶子記念館とは、違和感ありすぎでは。ネットでも利晶の名に「観光に無関心な行政人の造語。堺の人も読めない」と手厳しい。だが、館内は地元の誇りを伝えようという意欲が充満していた。堺市文化観光局副理事の赤沢明さん(59)に案内を願った。

 入り口で目を引いたのは1595年に欧州で出版されたという「日本図」。日本の中心都市として「Sacay」と記され、「これが堺市民にとっては自慢なんですよ」と赤沢さん。

 利休によって大成された茶の湯。例えば道端の竹を花入れや茶杓(ちゃしゃく)といった茶道具に仕立てるなど、茶の湯館の展示品を見ていると「わび茶」の世界を創り上げた利休の非凡さが伝わってくる。

与謝野晶子の生家跡にある晶子自筆の刻字の歌碑。その上には晶子の好んだユリとアマリリスの彫刻。向こうを阪堺電車が通る

与謝野晶子の生家跡にある晶子自筆の刻字の歌碑。その上には晶子の好んだユリとアマリリスの彫刻。向こうを阪堺電車が通る

 2階では晶子の原稿、愛用の鏡台、短歌集の初版本などに見入る。みだれ髪や新訳源氏物語など著書の装丁がモダンな晶子をほうふつさせる。夫の寛(鉄幹)が「後世に残る造本を」と勧めた。藤島武二ら著名画家による色彩豊かな表紙の絵柄に明治の読者は仰天しただろう。

 晶子ファンという観光客の小菅真里子さん(50)は「政治家らによる最近のセクハラ発言を晶子が聞いたらどう感じたでしょうね」と指さした先にはこんな晶子のメッセージが。

 女性の力の及ぶところ はじめて平和の光あらん

 館内を回るうち、利休や晶子を生んだこの街の文化と歴史の奥深さに触れた気がした。もっと面白い所がいっぱいありそうだ。翌日、市内を走るちんちん電車とレンタル自転車で市内を回ることにした。

 利晶の杜のすぐ隣には利休の屋敷跡があり、堺観光ボランティア協会の石原緑さん(70)が説明当番だった。「ボランティアは250人。老後の生きがいですよ」。魚問屋兼倉庫業という豪商の家に生まれた利休が、秀吉によって自刃させられるまでの生涯の説明に力が入る。

 利休を生んだ16世紀の堺。戦国大名を退けるため、周囲を堀で囲む環濠(かんごう)都市を築き、豪商らが街を治めた。その財は貿易によって蓄えられ、外国人宣教師らが「この街は、ベニスの如(ごと)く治められる」と大航海時代の世界に紹介した。

国の指定史跡「旧堺灯台」。対岸の巨大壁画は幅155メートルもあり、南蛮貿易で栄えた堺に寄港した外国の帆船などが描かれている=いずれも堺市堺区で

国の指定史跡「旧堺灯台」。対岸の巨大壁画は幅155メートルもあり、南蛮貿易で栄えた堺に寄港した外国の帆船などが描かれている=いずれも堺市堺区で

 港にこそ街の繁栄の原点があるのでは-と旧堺港に向かう。沖には大阪湾。この海をどれだけの金品が行き交ったのか。古そうな灯台がぽつんと港の突端に立つ。国の指定史跡「旧堺灯台」で、1877年に造られた現存する国内最古の木造洋式灯台の一つだ。建造費用は市民の寄付と県(当時)の補助金で賄われたという。

 灯台の前を小舟がUターンしていった。「観濠都市堺のんびりクルーズ」だ。堺駅前から出発し、今も一部残る環濠約4.7キロを20人乗りの小舟で巡る。約50分の船旅というので、早速、乗ってみた。

 20年ほど前、当時はどぶ川だった環濠をきれいにしようと市民が立ち上がった。「ここに船を浮かべて観光に」と、NPO観濠クルーズSakaiを設立、もう12年になる。理事長の高杉晋さん(52)みずから観光ガイドを務める。「自由都市だった街の魅力を発信したい」

 薫風に出会った人々を思い出す。観光ボランティアにクルーズのNPO、さらには利休に晶子。昔も今も、この街を支える市井の人たち。自治都市堺の底力が少しわかった気がした。

 文・写真 中西英夫

(2018年6月1日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
堺へは南海なんば駅から南海線で堺駅、高野線で堺東駅へという2ルートのほかに、阪堺電車は天王寺駅前からと、恵美須町駅から我孫子道駅乗り換えで浜寺駅前行きに乗るルートがある。
阪堺電車の1日乗車券600円。

◆問い合わせ
堺観光コンベンション協会=電072(233)5258
阪堺電気軌道営業課=電06(6671)3080

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