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明治維新150年で博覧会

明治維新150年で博覧会 佐賀・鹿児島県 先人の偉業 再び脚光

佐賀城跡に復元された本丸御殿は「佐賀城本丸歴史館」として肥前さが幕末維新博覧会の会場となっている=佐賀市で

佐賀城跡に復元された本丸御殿は「佐賀城本丸歴史館」として肥前さが幕末維新博覧会の会場となっている=佐賀市で

 320畳の大広間。着座する殿様の姿ははるか、かなた。最大で家臣1000人が詰めたという。佐賀市の佐賀城跡に主要部分が復元された本丸御殿は、木造復元建造物では全国で最大規模だ。佐賀の人たちはこぞって御殿の主(あるじ)だった殿様を敬慕している。事績のわりに県外では、さほど知られていないのではないか。

 本丸御殿は「佐賀城本丸歴史館」として、明治維新150年を記念した「肥前さが幕末維新博覧会」のメイン会場のひとつになっている。佐賀藩のものづくりや人づくりを中心に紹介。反射炉の築造・鉄製大砲鋳造、実用蒸気船建造は同藩が日本で最初に成し遂げ、主導したのは藩主鍋島直正だと強調する。

 同じく城跡にある「幕末維新記念館」では、直正を筆頭に佐賀の賢人(大隈重信、副島種臣ら)の実績を振り返っている。

 両館で主役に据えられているのはやはり直正だ。17歳で藩主に就き、乱脈財政を改めるとともに新田開発の推進や蝋(ろう)、陶磁器などの特産物を育成。表高は35万7000石ながら、実高を90万石近くまで押し上げたという。そうして築いた財力で洋式技術をとり入れた。

鍋島直正は佐賀藩を雄藩に導き新しい国づくりに尽くす人材を育てた=佐賀市で

鍋島直正は佐賀藩を雄藩に導き新しい国づくりに尽くす人材を育てた=佐賀市で

 動向を注視されながらも王政復古まで泰然と静観した直正だが、戊辰戦争から新政府軍側につき、当時最先端の軍事力で戦乱の終結を早めたとされる。そして自ら育んだ人材が新政府で大いに活躍。ここまで知れば、直正が敬慕されるのも納得だ。

 維新といえば、多くの人材を輩出した鹿児島県でも「かごしま明治維新博」が開かれている。鹿児島入りするのに、肥薩(ひさつ)おれんじ鉄道を走る観光列車「おれんじ食堂」に乗ってみた。車内で供される料理は、地元ゆかりのシェフらが監修、地元産の食材をふんだんに使っている。運行時間帯や乗車区間によりモーニング、ランチ、スイーツ、ディナーの各列車を用意。ランチの列車だと、料金は大人2万1000円、子ども1万4000円。

 鉄道を愛した随筆家の内田百閒(ひゃっけん)も1950年代、東京から鹿児島に行く折にこの路線をたどった。『第一阿房(あほう)列車』で百閒先生は景色がよかったりすると「そんな時に食べる気はしない」と書くが、ランチを賞味しながらでも広い車窓から壮大な絶景は望める。「車窓から不知火(しらぬい)の八代湾を眺め、まだ走り続けて、同じ側にもっと大きな遠い海が展(ひら)けた様(よう)であった」。先生と同じく東シナ海の眺望も楽しみ、やがて終点川内(せんだい)駅に到着。

八代海から東シナ海、断崖や奇岩の名所を眺めながら食事を楽しめる観光列車「おれんじ食堂」の車内

八代海から東シナ海、断崖や奇岩の名所を眺めながら食事を楽しめる観光列車「おれんじ食堂」の車内

 ここから新幹線に乗り換えて鹿児島中央駅(鹿児島市)へ。NHKの大河ドラマ「西郷(せご)どん」も放映中とあって、街は活気づいている。同駅から徒歩で「維新ふるさと館」に行った。先人の偉業をはじめ、薩摩独自の「郷中(ごじゅう)教育」などを紹介。木刀で打ち込むための木の棒の束を置いた「野太刀自顕流(のだちじげんりゅう)」の展示もあった。同館特別顧問の福田賢治さんから説明を聞くうちこの剣技にがぜん興味がわいた。

 腰を深く落として木刀を頭上高く掲げ「チェエエエエー」の叫声とともに膂力(りょりょく)の限り振り下ろす。剣士は木の束をたたき続ける稽古をする。福田さんは「一の太刀で相手を倒すんです。新選組の近藤勇も薩摩武士の一の太刀は外せと隊士に言っていたほどでした」と熱を込める。「一の太刀が外されたら、二の太刀は?」と尋ねると、「一の太刀だけなんです。肉を切らせて骨を断つ。一撃で倒せなかったら、死ぬんです」。こんな恐ろしい技を継承した鹿児島人には刮目(かつもく)せざるを得ない。

 文・写真 小鷲正勝

(2018年6月8日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
九州佐賀国際空港へは東京・羽田から1日5便、成田から1便。
所要1時間55分~2時間15分。
空港から佐賀市中心部へバスで約15分。
名古屋から直行便はなく、福岡空港から佐賀駅バスセンターまでバスで1時間15分。

◆問い合わせ
肥前さが幕末維新博推進協議会=電0952(25)7504

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西郷隆盛・従道誕生地

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★USEUM SAGA(ユージアム・サガ)
肥前さが維新博開催中、佐賀市城内の「さがレトロ館」で提供しているランチ。
要予約、3500円。
料理もさることながら、器は佐賀が誇る有田焼などの名窯の作品を使っている。
電0952(97)9300

★湯田口海岸散策
肥薩おれんじ鉄道・薩摩高城駅で降りると、散策路が旧湯田口海水浴場まで続いている。
展望台もあり、雄大な東シナ海が望める。

★偉人を生んだ町・加治屋町巡り
鹿児島市の同町は維新の立役者が集中して生まれたエリア。
維新ふるさと館では町巡りを勧めており、<西郷隆盛・従道誕生地→大山巌誕生地→東郷平八郎誕生地→黒木為楨(ためもと)誕生地→大久保利通銅像→樺山資紀邸跡→若き薩摩の群像→大久保利通生い立ちの地>で約1時間。
同館=電099(239)7700

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。