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豊島

豊島 香川県 負の記憶 芸術が癒やす

瀬戸内海を望む豊島の棚田エリア。右奧に見える、穴の開いた白い建物が豊島美術館

瀬戸内海を望む豊島の棚田エリア。右奧に見える、穴の開いた白い建物が豊島美術館

 瀬戸内海に浮かぶ香川県土庄町の豊島(てしま)。かつて全国最悪と言われた産廃事件に揺れた島が、近年、「アートの島」として再注目されているという。事件の収束から約20年。アート巡りを兼ねて、生まれ変わった島を訪ねた。

 フェリーで島に降り立つと、早速、若い観光客や外国人旅行客がちらほら。平日だったため、混雑というほどではないが、観光地という評判は本当のようだ。千葉県から来たという中年夫婦が「直島に比べれば、まだすいていて穴場だね」と、同じ瀬戸内の人気スポットを引き合いに教えてくれた。

 まず向かったのは、島のアートを代表する豊島美術館。丸みを帯びた白い外観が、海を望む田園地帯でひときわ目を引く。「建築界のノーベル賞」といわれるプリツカー賞受賞の建築家西沢立衛さんによる設計だ。

 館内に入ってさらにびっくり。柱1本、展示物1つない空間が広がっていた。唯一、天井にぽっかり開いた2つの穴から太陽の光が注ぎ、風の音、小鳥のさえずりが聞こえてくる。無機質な空間ゆえ、かえって外の自然がありありと感じられる。

 運営する福武財団(香川県直島町)広報の川浦美乃さん(42)によると、2010年の開館に合わせ、担い手不足で荒れ地となった一帯の棚田の再整備にも取り組んだという。湧き水に恵まれる島は古くから農業や漁業が盛んな「豊かな島」と呼ばれる一方、産廃事件では農作物の風評被害に苦しんだとも聞く。そうした歴史を思うにつれ、島の自然に改めて目を向ける大切さが、美術館の意匠に込められている気がした。

通りに面した真っ赤なガラスが目を引く豊島横尾館

通りに面した真っ赤なガラスが目を引く豊島横尾館

 次に案内された豊島横尾館も異彩を放っていた。通りに面した真っ赤なガラスや、派手なタイル張りの池にコイが泳ぐ中庭など、グラフィックデザイナー横尾忠則さんの世界観が満載。横尾さんが豊島を訪れて描いた「メランコリア」など、11点の展示作はいずれも「生と死」が色濃く表現されている。

 現在、島で展示しているアート作品や施設数は計15。くまなく巡るなら、多くが開館している週末がおすすめ。直島でアート活動を共同で展開していたベネッセホールディングス(岡山市)と福武財団が、豊島にも活動の幅を広げ、瀬戸内国際芸術祭の会場にもなった10年が転機になったという。

 確かに、のどかな島の空気からは長年混乱があったとは思えない。ただ、「創作にあたって産廃の現場を見学するアーティストもいます」との川浦さんの言葉に、やはり自分でも見ておきたい気持ちになった。

かつての不法投棄の現場内にある資料館で、事件の歴史を解説する石井亨さん=いずれも香川県土庄町で

かつての不法投棄の現場内にある資料館で、事件の歴史を解説する石井亨さん=いずれも香川県土庄町で

 かつての不法投棄の現場は、島の北西部の外れにある。一般の立ち入りは禁止だが、事件を語り継ぐ活動をする「廃棄物対策豊島住民会議」に申し込むと1人2000円で見学できる。その一員で県議も務めた石井亨さん(58)に案内してもらった。香川県は昨年、91万トンに及ぶ廃棄物の全量撤去を宣言しており、地面を覆い尽くしたという廃棄物は確かに見る影もなかった。ただ、今年に入って、新たに地中から610トンが見つかり、むき出しの地面の上を重機が行き交っていた。

 石井さんは「負の歴史の一言では片づけられない」と語る。業者による不法行為を県が黙認したことで、事件は1970年代後半から長期化したが、住民会議による草の根の反対運動の末、2000年、県が責任を持って廃棄物を撤去し、原状回復すると約束した公害調停が成立した。「住民運動には、行政に頼らず自分たちで決めるという自治本来の姿があった」と石井さん。アートだけではない島の一面にも目を向けてほしいと願う。

 文・写真 添田隆典

(2018年8月10日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
豊島には家浦港と唐櫃(からと)港にフェリー乗り場があり、小豆島豊島フェリーが宇野港(岡山県玉野市)からフェリーと旅客船をそれぞれ運航している。
家浦港までフェリーで40分(旅客船25分)、唐櫃港まで同1時間(同40分)。
宇野港へはJR岡山駅からJR宇野線・宇野駅経由で約1時間。高松港(高松市)から渡る方法もある。

◆問い合わせ
NPO法人・豊島観光協会=電0879(68)3135

おすすめ

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★泊まる
宿泊施設がユニークなのも豊島の特徴。
泊まれるアート作品として瀬戸内国際芸術祭2016に出品された「檸檬(れもん)ホテル」や、元乳児院を改装したゲストハウス「mamma」など。
自宅の一部を民泊として貸し出す家庭もある。施設数は少ないので事前予約が必要。
詳しい情報は「豊島観光ナビ」のホームページで紹介。

★海のレストラン
瀬戸内で取れる新鮮な魚介類と、島で育てられた米や野菜などを豊富に使った和食が楽しめる。
テラス席から望む海の眺めも必見。
ランチは1600円から。
ディナーコースは5日前までの要予約で3500円から。
電0879(68)3677

★レンタサイクル
細い路地や坂道が多い島巡りには電動自転車が便利。
家浦港、唐櫃港近くに、1日1500円前後で借りられる店が数軒ある。
事前予約がおすすめ。
詳しい情報は「豊島観光ナビ」に掲載。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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