西表島(沖縄県竹富町)でピナイサーラの滝の上からの絶景に目を見張った。
台風一過で水かさの増した流れが勢いよく弧を描く。マングローブの森林の中をヒナイ川が船浦湾へと延びる。湾口をまたぐ海中道路(県道)の先にはマリンブルーの海とスカイブルーの空が映える。その境目にサンゴでできたバラス島や鳩間島が浮かぶ。
西表島は石垣島や竹富島、波照間島などからなる八重山諸島に属し、面積はその中では最大、県内でも沖縄本島に次ぐ。そこでのアクティビティーとして人気の「マングローブカヌー+トレッキング ピナイサーラの滝つぼ&滝うえ」に家族で参加した。
アクティビティーは旅先の海や山、川での遊びとか、体験のことで、最近、子どもの誘いに乗り、あちこちで楽しむようになった。トレッキングは、そのうちの1つで、登山よりもずっと気軽な山登りというか、自然と触れ合いながらの山歩きに近い。
石垣島から朝一番の高速船で上原港に着くと、催行会社のガイド宇野弘鷹さん(29)が迎えてくれた。「この島に魅せられ、メーカーの海外勤務から転職して3年目。出身は京都府綾部市」という。身支度を手伝ってもらい、パドルの使い方を習って、カヌーに乗り込んだ。
流れはほとんどなく、上流へと漕(こ)いでも大して苦にならない。生い茂るマングローブに南の島を実感する。やがて視界に入った滝に向かって進み、川辺にカヌーを係留する。この先がトレッキングで、道すがら宇野さんにあれこれ教わる。
最初に目にしたのはイシガキトカゲで「よくひなたぼっこしている」らしい。タカサゴシロアリの大きな巣に驚き、木の幹に残るアリの道を確認する。当然というか、なかなか姿を現さない国の特別天然記念物イリオモテヤマネコやカンムリワシなどの解説に耳を傾ける。
そして、1時間弱、わずか標高130メートル地点までの山登りで得たのは、予想をはるかに上まわる絶景だった。「やったぞ」との思いが胸中に広がり、汗が頬を伝ったその時、爽やかな風が吹き抜けた。
滝の落差は55メートルあり、県内では最大規模を誇る。ピナイは「顎ひげ」、サーラは「下がったもの」を意味する。滝をなす岩が老人の顔で、流れが長い顎ひげに見えることから付いた名のようだ。
感動タイムから昼食タイムに移り、宇野さんが作ってくれた八重山そばをいただく。小麦粉を原料とする郷土食で、そばよりもラーメンに近い。現地で何度も口にしながらも、この時ほどおいしく感じたことはなく、つゆも最後まですする。
腹ごしらえの後のもう1つの楽しみは滝つぼでの水遊びだった。「このツアーは西表島カヌー組合の36社が催行し、参加者は多い日だと200人近く。そんな時、ここは市民プール並みの混雑になります」と宇野さん。今回はそれほどでもなく、先行グループとの時間差もあり、自分たちだけで独占という幸運に恵まれた。
カヌーでの帰途、静けさで時が止まったかのような錯覚に陥る中、宇野さんの言葉が脳裏に浮かんだ。「マラリアは今では根絶されたものの、人の営み、開発を阻み、結果として豊かな自然が残った」。西表島の世界自然遺産への登録は、申請がいったん取り下げられ、指摘された課題の解決、再挑戦へと向かうことになった。
文・写真 木村昭彦
(2018年8月24日 夕刊)
メモ
◆交通
西表島へは中部、羽田、関西の各空港から石垣島へ直行便利用が便利。
その先は石垣港離島ターミナルからの高速船が上原港まで約40分、大原港まで約35分。
島内の移動はレンタカーやレンタサイクルなど。
◆問い合わせ
竹富町観光協会=電0980(82)5445
おすすめ
★アクティビティー
滝に関しては浦内川を船で上り、その先は雄壮なマリユドゥの滝などを巡るトレッキングの人気も高い。
シュノーケリングなら、バラス島または鳩間島周辺へ上原港から船で向かうコースなどがある。
★新城島(あらぐすくじま)
パナリ島とも呼ばれる有人島ながら定期船の就航がない。
島民による「新城島観光」がツアー参加者を大原港から送迎する。
島内散策のほか、サンゴの海に入れば、大きな極彩色の魚が手の届く所で群れをなして泳ぐ様子が観察できる。
★周遊コース定番
仲間川マングローブクルーズや由布島の水牛車観光がある。
遠浅の海を水牛車に15分ほど揺られると、島全体が亜熱帯植物楽園の由布島に到着する。
★泊まる
上原港近くにホテルニラカナイ西表島がある。
夕日の美しい月ケ浜に面した南国ムード漂うリゾートホテルで星砂の浜にも歩いて行ける。