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「おくのほそ道」をたどる

「おくのほそ道」をたどる 山形県 大岩に降り注ぐ蟬の歌

ヒグラシの声が染み入る山寺の開山堂(右)と納経堂=山形市で

ヒグラシの声が染み入る山寺の開山堂(右)と納経堂=山形市で

 俳聖松尾芭蕉が「おくのほそ道」の旅に出たのは約330年前の1689(元禄2)年。当時なら老境に差しかかる45歳。それでも衰えぬ未知の世界への好奇心には敬服するしかない。間もなく還暦を迎える筆者もあやかりたい。片雲の風にさそわれて漂泊の思いやまず・・・炎暑の山形へ出掛けた。

 芭蕉の名を高めた紀行文「おくのほそ道」の中で屈指の名吟とされるのが、この一句。

 閑(しず)かさや岩にしみ入る蟬(せみ)の声

 山形市にある天台宗の名刹(めいさつ)、宝珠山立石寺(りっしゃくじ)(通称山寺)で詠んだとされ、境内には芭蕉と門人曽良の像や句碑がある。

 登山口の根本中堂で手を合わせ、石段を登っていく。奇岩、岩壁が次々に現れ、芭蕉の句をしたためた短冊を、門人が埋めたというせみ塚もある。

 芭蕉と曽良が聞いたのは、細く澄んだニイニイゼミの声とする説が有力。しかし今、巨樹の梢(こずえ)から降り注ぐのは、カナカナというヒグラシの鳴き声だ。

 2人がこの地を訪れたのは、江戸をたって2カ月ほどの7月13日(旧暦5月27日)。筆者が訪ねたのもほぼ同じだが、今年は異常な暑さで季節の移り変わりが早いのか。たとえそうであっても、岩とセミの取り合わせの妙は変わらない。

 そびえ立つ大岩の前で、短い生を歌うセミのはかなさは、一層に際立つ。強烈な光に満ちた夏の盛りが舞台であればなおさらだ。参詣の客は汗をぬぐいながら満ち足りた顔をしている。

 奥の院の大仏殿で手を合わせ、尾花沢市に向かう。芭蕉一行は、この土地で豪商・鈴木清風の手厚いもてなしを受け、長逗留(とうりゅう)をした。当時の尾花沢一帯は、花笠(はながさ)踊りの笠にもあしらわれた紅花の一大集積地だった。富が集まれば文化が育ち、俳諧に熱をあげる旦那衆は多かった。

 今、紅花に代わって当地を活気づけているのは銀山温泉だ。

 山奥の温泉街だったが、銀鉱山で栄えた昭和初期に建設された木造3、4層の建築物が残っている。

 夜ともなれば、部屋の窓や歩道のガス灯のあかりが幻想的な雰囲気をつくり出し、人気に火が付いた。浴衣姿の外国人客などで人の流れが絶えない。

最上川の河畔に立つ芭蕉と曽良の像=新庄市で

最上川の河畔に立つ芭蕉と曽良の像=新庄市で

 翌日は最上川の舟下りへ。

 芭蕉一行も日本海の町、酒田市まで舟で下っている。これも有名な「五月雨をあつめて早し最上川」の句は、乗船前に詠んだもの。当初は中七が「あつめて涼し」であったのを「ほそ道」編さんの折に改めた。舟下りの経験が反映されている。

 昔の港跡の「本合海(もとあいかい)」に「芭蕉乗船の地」の案内があり、すぐ横に2月に亡くなった俳人・金子兜太さんの名を取った「兜太通り」の看板が並んでいた。俳句を志す人には特別な意味を持つ場所だ。

 
最上川を下りながら舟歌を歌う船頭さん=戸沢村で

最上川を下りながら舟歌を歌う船頭さん=戸沢村で

 戸沢村で観光船に乗り、約1時間の舟の旅。船頭さんが渋い声で最上川舟歌を歌い始めた。

 「酒田さぁ 行ぐさげぇ 達者でろちゃ」

 船頭さんによると、最近は外国人の乗船客が多いため、英語、中国語、フランス語の歌詞も作って覚えているそうだ。

 「ほそ道」には記してある。

 「白糸の滝は青葉の隙々(ひまひま)に落ちて、仙人堂、岸に臨みて立つ。水みなぎって舟危うし」

 その光景は今も変わらない。

 舟を下りると、羽黒山へ。芭蕉は、出羽三山の月山(標高1、984メートル)の山頂にも立っている。そして吟じたのが

 雲の峰幾つ崩れて月の山 

 次回は登山にも挑戦したい。

  文・写真 坂本充孝

(2018年8月31日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
JR山寺駅へは新幹線の仙台駅で乗り換えまたは山形駅で乗り換えて仙山線で。
東京から3時間、名古屋から5時間程度。
銀山温泉は山形新幹線大石田駅から、はながさバスで約40分。

◆問い合わせ
やまがた観光情報センター=電023(647)2266

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初めての銀山温泉観光には、尾花沢市内各所と銀山温泉を巡る定期観光バス「花笠バス レトロン」がよい。
昼食付きで要予約=電0237(22)2206。
公衆浴場は「しろがね湯」、「おもかげ湯」(貸し切り)など。
銀山川のほとりにある足湯「和楽足(わらし)湯」も手軽で楽しい。
詳細は銀山温泉観光案内所=電0237(28)3933

★美登屋
立石寺門前にある創業50年を超える人気そば店。
ぼた餅と板そばが名物で外国人の観光客なども多い。
人気一番の天ざるそばは1680円。
予約は電023(695)2506。

★出羽三山
1400年の歴史を誇る国内屈指のパワースポット。
羽黒山、月山、湯殿山の三山から成る。
登拝前には羽黒山頂近くにある「いでは文化記念館」=電0235(62)4727=で予習を。
出羽三山の四季の風景や祭りの様子を映像で紹介している。
要予約で山伏修行体験も可。
月山登山にはトレッキング装備が必要。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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