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名勝・三段峡巡り

名勝・三段峡巡り 広島県安芸太田町 時忘れる神秘の空間

 人気のテーマパークも、観光名所も良いけれど、最近どうも、知る人ぞ知る秘境にひかれる。秘境ファンもうなるという特別名勝の峡谷が広島県安芸太田町にあると知り、訪れた。

黒淵を進む渡し舟

黒淵を進む渡し舟

 名古屋から新幹線で広島へ。可部線に乗り継ぎ、路線バスで終点三段峡まで94駅。さすが秘境。3連休初日だったが、バスは他に地元住民ら数人を乗せ、ゆっくり山の方へ向かった。終点は標高350メートル、三段峡入り口にある宿泊先、三段峡ホテルの目の前。昔は可部線がここまで走っていたが、利用者減で15年前に廃線になったという。

 峡谷内の景色は翌日にとっておき、車で10分ほどの「横畠(よこはた)工芸」を訪ねた。木でお玉などを作る伝統工芸「戸河内刳物(とごうちくりもの)」の工房。「名古屋から来よったんですか」。3代目の横畠裕希(ゆうき)さん(49)が、300種もの道具が並ぶ作業場を案内してくれた。戸河内地区の寒さの中、じっくり年輪が細かく育った木でできた作品は、3、40年はもつという。最後に完成品の数々を見せてもらい、びっくり。全てに私の名前「希」が焼き印されている…。聞けば、「裕希」さんの画数の少ない1文字を選んだそうだ。「何かのご縁ですね」。迷わず一つ購入し、ホテルへ戻った。

両側から断崖が迫る猿飛

両側から断崖が迫る猿飛

 ロビーで夜、ホテルの高下務社長(71)から話を聞いた。豊かな水が岩肌を浸食してできた全長13キロの三段峡。まだ人が簡単に入れなかった100年前、熊南峰(くまなんぽう)という写真家が魅せられ、国の名勝指定へ動きだした。ロープを使って命懸けで写真を何枚も撮り、家族も財産も失いながら、遊歩道の整備と国への陳情を続けたのだという。熊自らが名付けた三段峡は1925年、念願の指定を受けた。「ただの峡谷ではなく、歴史とロマンが詰まった場所なんです」。旅の重みが、ぐっと増した。

11月ごろに紅葉のピークを迎える=いずれも広島県安芸太田町で

11月ごろに紅葉のピークを迎える=いずれも広島県安芸太田町で

 翌日は天気に恵まれ、いよいよ峡谷内へ。原生林の木漏れ日が差し込む遊歩道の脇には、グラデーションが美しいどこまでも透きとおった川が広がっていた。期待以上だ。山側には岩に水の滴るコケがむし、真っ白な泡をはく激流や巨石などが進むたびに現れて飽きない。1時間弱で見どころの一つ、黒淵に到着。渡し舟に乗って切り立つ絶壁を見上げると、ごつごつした岩肌に圧倒された。渡った先で、同じホテルに泊まっていたドイツ人夫婦に遭遇。東京や京都を巡って来たという2人は「ここは人が多くなくてすてき」と満足げ。全くもって同感だった。

 雲の動きとともに景色を変える黒淵をしばらく眺めた後、大小さまざまな滝にいやされながら先へ。つり橋も渡り、峡谷の中心に位置する水梨口でお昼にした。居合わせた60代の男性たちと会話を弾ませながら、朝ホテルで持たせてもらったおにぎりをほおばった。

 次の見どころは、猿飛・二段滝。猿飛は、高さ20メートルの断崖の2メートルほどの隙間を、昔猿が飛び交っていたことに由来する。渡し舟でこの隙間を抜けていくとまさに冒険の世界。ごう音とともに二段滝が現れ、神秘的な空間が広がった。時間を忘れてボーッと過ごした後、最終目的地の三段滝へ。頭上を覆っていた木々が開けると、青い空と日光に照らされた全長30メートルの滝がお目見えした。11月ごろには一帯が紅葉し、また格別な風景が味わえるそうだ。

 撮影などしながらゆっくり歩き、ここまで約5時間。程よい疲労感と、大きな充実感に満たされていた。

 ホテルまで戻り、またここから5時間の帰路だったとわれに返る。バスと電車に揺られながら、ゆっくり、じっくり旅の思い出に浸ればいい。

 文・写真 北村希

(2018年10月19日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
三段峡へはJR広島駅から可部駅へ約40分、同駅前から広島電鉄バスで約1時間半。
車だと戸河内ICから約15分。
峡谷の入り口から三段滝までの高低差は約250メートル。
遊歩道が整備され、スニーカーで歩ける。

◆問い合わせ
一般社団法人・地域商社あきおおた=電0826(28)1800

おすすめ

三段峡の黒淵にある峡谷内唯一の食事処(どころ)。

三段峡の黒淵にある峡谷内唯一の食事処(どころ)。
戸河内刳物

戸河内刳物

★黒淵荘
三段峡の黒淵にある峡谷内唯一の食事処(どころ)。
景色を見ながら、うどんやそばなどの軽食が楽しめる。
看板メニューの炭火で焼いた山女魚(やまめ)串焼きは700円、ビールとセットで1000円。
午前9時~午後4時半(天候によって変動)。
電090(2296)2719

★横畠工芸
広島電鉄バス停「新明神橋」から徒歩20分。
工房の見学も可能。
常設の展示販売も行う。
普通サイズのお玉で2500~3500円ほど。
予約制の制作体験も受け付けている。
戸河内刳物は、宮島細工の職人が大正時代初期に戸河内町(現安芸太田町)に移住し、技術を伝えて始まった。
午前10時~午後4時。
電0826(28)2063

★三段峡ホテル
1956年設立の木造建築。
客室は和室11室。
部屋からは川のせせらぎが聞こえる。
温泉の大浴場があり、日帰り入浴は午前10時~午後5時(最終受け付け4時)、600円。
電0826(28)2308

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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