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釜石鵜住居復興スタジアム

釜石鵜住居復興スタジアム 岩手県 歓声待つ希望の「原っぱ」

海風にはためく釜石伝統の大漁旗

海風にはためく釜石伝統の大漁旗

 かすかに潮の香りがする。鳥が白い翼を広げたようなメインスタンドの屋根。グラウンドにすっくと立つ白のゴールポスト。真っ青な秋空と緑の山に映える。「かーまいし!」。バックスタンドでは釜石伝統の大漁旗が折からの海風で翻っている。

 ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会の試合会場で唯一新設された岩手県釜石市の釜石鵜住居(うのすまい)復興スタジアム。地元のクラブチーム「釜石シーウェイブス(SW)」のホーム初の公式戦が、W杯開幕まで1年を切った10月初旬にあった。温帯低気圧となった台風による暴風で交通機関は乱れたが、1500人が駆けつけた。

 私が訪れたのは、釜石SWの前身で1985年に日本選手権7連覇を達成した新日鉄釜石ラグビー部の元選手、石山次郎さん(61)からのメールがきっかけだった。「釜石に来られることがありましたら連絡ください」。長野県の菅平高原で今年6月に開かれた不惑(40歳以上)のラグビー大会で別のチームの選手として出会った。

初のラグビー公式戦が行われた釜石鵜住居復興スタジアム。周りの自然の風景に溶け込んでいる

初のラグビー公式戦が行われた釜石鵜住居復興スタジアム。周りの自然の風景に溶け込んでいる

 8月にオープンした新スタジアムは、東日本大震災が起きた2011年3月11日に津波で全壊した小中学校の校舎の跡地で、5メートルかさ上げした9ヘクタールに建設された。登校した児童・生徒は高台に逃げて全員無事だったが、津波の避難場所ではない地区の防災センターに避難した住民の多くが犠牲になった。

 バックスタンドで説明してくれたのは、釜石市ラグビーワールドカップ2019推進本部事務局主査の佐々木智輝さん(40)。「屋根は復興に向けて大きく羽ばたき、船出する帆をイメージしました」と向かいのメインスタンドに目をやり、「ラグビーはもちろんサッカー、地域のマラソン大会などにも活用したい」とW杯後を見据えた。

 常設はメインとバックに計6000席。8割以上は昨年5月に市内で起きた山林火災で廃材になりかけた杉を活用した。W杯に備え、四方に1万席を仮設する。グラウンドには天然芝より横ずれしにくい「ハイブリッド芝」を
敷いた。総事業費は48億円を見込み、岩手県と市が負担し、復興交付金などで賄う。

 スタジアムに複雑な思いの市民もいる。前日、W杯関連イベントがあった市内の会場で尋ねたところ、「仮設住宅で暮らす人の生活再建が遅れるのでは」「人が減っている中、借金が増えるのでは」と心配する声が聞かれた。実際、「鉄のまち」として栄えた釜石市は鉄鋼業の低迷に伴い、多いときで9万人超だった人口が3万4000人と激減。震災が人口減に拍車を掛けた。

メインスタンドから望める大槌湾、建設中の水門と防潮堤=いずれも岩手県釜石市で

メインスタンドから望める大槌湾、建設中の水門と防潮堤=いずれも岩手県釜石市で

  震災発生から間もなく、石山さんら元選手と関係者は「ラグビーを通じて復興支援を」とNPO法人「スクラム釜石」を発足させた。石山さんはW杯の釜石誘致に奔走する一方、昨年6月の定年退職後はスタジアム建設の元請け会社に再就職し、現場でハンマーを手に汗を流した。

 共に誘致に尽くしたのは、スタジアム近くの旅館「宝来(ほうらい)館」の女将(おかみ)、岩崎昭子さん(62)。W杯イベント会場で待ち合わせた。濁流にのまれながらも生還した岩崎さんは「私たちには希望が必要だから…」と目を潤ませ、スタジアムをこう表現した。「山と海と川の風景に溶け込んだ、人が集って思い出をつくれる『原っぱ』です」

 この日、トップリーグ昇格を目指すトップチャレンジリーグの釜石SWは、昨季までトップリーグにいたNTTドコモと対戦した。結果は27-52とホームでの初勝利は持ち越されたが、ゼネラルマネージャー兼監督でW杯アンバサダーでもある桜庭吉彦さん(52)は「(震災という)過去と未来をつなぐ新スタジアムが満席となるようなゲームをしたい。地元のチームとしてまちの活性化につながるよう貢献できれば」と熱く語った。

 すっかり風が収まったスタジアムの周りを歩く。吹き抜けのゴールポスト近くで、小さな男の子がおばあちゃんとキャッチボールをしている。2人の向こうに、無防備なぐらい開け放たれた「原っぱ」が広がっていた。

 文・写真 小松原康平

(2018年11月2日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
釜石市へは東北新幹線・新花巻駅で釜石線に乗り換え、快速で釜石駅まで1時間半。
釜石鵜住居復興スタジアムへは釜石駅から車で20分、来年3月23日に開通する新三陸鉄道リアス線は鵜住居駅下車。
飛行機は愛知県営名古屋空港からいわて花巻空港便(70分)が便利。

◆問い合わせ
釜石市ラグビーワールドカップ2019推進本部事務局=電0193(27)8420
北東北3県名古屋合同事務所=電052(251)2801

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フィジー対ウルグアイなど釜石での1次リーグ2試合を含む全48試合の一般抽選販売受け付けは12日までで、一般先着販売受け付けは来年1月19日午前10時から。
購入するには大会公式チケットサイト(「ラグビーW杯チケット」で検索)でID登録(無料)が必要。

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