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天草四郎の足跡

天草四郎の足跡 熊本県 不屈の信仰、伝説刻む

原城跡に立つ天草四郎の像=長崎県南島原市で

原城跡に立つ天草四郎の像=長崎県南島原市で

 天草と聞くと、「島原・天草一揆」(島原の乱)の指導者とされる「天草四郎」の名前がすぐ浮かぶ。バテレン(神父)の予言で天から遣わされ、信徒らを率いて討ち死にした紅顔の美少年…。フランスのジャンヌ・ダルクにも似た若きヒーローの1人だ。でも、実像は? 伝説と謎に包まれた四郎の足跡を追って天草下島の鬼池(おにいけ)港(熊本県天草市)に降り立った。

 島の北西を走る観光バスの車窓からは奇岩が顔を見せる海岸線の眺めが美しい。しばらくすると富岡城のあった富岡半島が見えてきた。一揆が始まった1637(寛永14)年、籠城する唐津藩の軍勢1000人弱を四郎ら信徒約8000人が攻め立てたが、鉄砲隊の反撃を受けて敗走。島原半島へと海を渡り、海岸に突き出した丘の上に立つ原城(長崎県南島原市)に立てこもった。

 うち続く飢饉(ききん)と領主の悪政、キリシタン取り締まりへの反発から決起した一揆軍は、浪人武士や農民約3万7000人に増え、原城で四郎を大将に徹底抗戦した。一揆平定のため島原、佐賀、唐津藩を中心に、熊本、柳川藩などから計約12万5000人の軍勢が城を取り囲んだが「サンチァゴ(聖ヤコブ)」と叫び殉教を恐れず戦う信徒軍の前に苦戦を強いられた。翌38年2月の総攻撃で信徒軍は全滅。近くの海岸に1、2キロにわたって老若男女の首が並べられた。

 四郎はキリスト教やラテン語に通じていた。前髪を垂らし額に鉢巻きで十字架をくくりつけた姿は凜々(りり)しく、原城で討ち取られた首は色白できれいだったと記されている。「紅顔の美少年」説はあながち間違ってはいないようだ。「俳優の美輪明宏さんは四郎の生まれ変わりだと言っていました。美輪さんの祖母が天草の都呂々(とろろ)生まれなんです」。バスの中で天草宝島観光案内人の亀子研二さんが教えてくれた。都呂々は富岡城からほど近い山中の集落。この地に縁のある美輪さんにも反逆精神が培われているのだろうか。

真っ白な外観が美しい大江教会。聖堂の中央には「受胎告知」の絵が掲げられている=熊本県天草市で

真っ白な外観が美しい大江教会。聖堂の中央には「受胎告知」の絵が掲げられている=熊本県天草市で

 さらに南下すると丘の上に真っ白な教会が見えてきた。1873(明治6)年にキリスト教が解禁された後、天草で初めて建てられた大江教会だ。ロマネスク様式を模した建築で日本の風土に根付いたキリスト教の象徴ともいえる。92年に来島したフランス人宣教師ガルニエ神父が信徒と力を合わせ、1933(昭和8)年にようやく完成した。

 バスはいよいよ世界文化遺産の崎津集落へと向かう。羊角湾に面した漁師町で、禁教期に7割以上の住民が潜伏キリシタンだった。表向きは仏教徒や神社の氏子を装い、豊漁の神の恵比寿(えびす)像や貝の内側の模様を聖母マリアに見立てて崇拝し、信仰を守った。崎津教会は34年、フランス人宣教師ハルブ神父によって建てられた。こちらはゴシック様式を模し、堂内の床は畳敷き。祭壇は「絵踏み」が行われた場所に置かれている。「復活の象徴です」と亀子さんは説明する。道路を挟んだ山側に崎津諏訪神社がある。禁教期に参詣に来た信者が「あんめんりゆす(アーメン、デウス)」と唱えたと記録にある。

モラエスの著書。徳島市中央公民館内の「モラエス展示場」で紹介されている

熊本─三角駅を結ぶ特急「A列車で行こう」=熊本駅で

 翌日、天草上島から天草宝島ラインのフェリーで宇土半島の三角(みすみ)(熊本県宇城市)に渡った。ここから熊本までは特急「A列車で行こう」に乗った。黒地に金で縁取られたシックな車体は古き良き時代を彷彿(ほうふつ)とさせ、特製ハイボールを片手に島原湾の景色を堪能できる。キリスト教の隆盛とキリシタン弾圧-。激動の時代を乗り越えた天草の歴史に思いを馳(は)せているといつの間にか列車は熊本駅のホームに滑り込んだ。

 文・写真 土田修

(2018年12月7日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
天草空港へは福岡、熊本、伊丹空港(熊本経由)から定期便がある。
長崎県南島原市を経由する場合は、同市の口之津港から鬼池港までフェリーで約30分。
世界文化遺産の崎津集落へは「天草ぐるっと周遊バス」が便利。
問い合わせは九州産交ツーリズム=電096(300)5535=へ。

◆問い合わせ
天草宝島観光協会=電0969(22)2243

おすすめ

「天草四郎陣中旗」(国指定重要文化財)

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天草海鮮蔵

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★有馬キリシタン遺産記念館
世界文化遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」のうち「原城跡」を中心とするキリシタン史を展示。
原城での戦いなどがよく分かる。
南島原市南有馬町。
電0957(85)3217

★天草キリシタン館
天草にキリスト教が伝来してからの南蛮文化や島原・天草一揆の遺物を展示。
聖杯の左右に天使2人を配した「天草四郎陣中旗」(国指定重要文化財)、同館提供=は四郎が掲げたとされ、ジャンヌ・ダルクの旗などとともに世界三大聖旗と呼ばれる。
天草市船之尾町。
電0969(22)3845

★天草海鮮蔵
島原湾を一望しながらアマダイやウニ、ヒオウギ貝など天草の海の幸や海鮮バーベキューが楽しめる。
イルカウオッチング(大人2500円、小学生1500円、幼児500円、要予約)も受け付けている。
天草市五和町鬼池。
電0969(52)7707

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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