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由利高原鉄道

由利高原鉄道 秋田県由利本荘市 出羽富士の下 旅情運ぶ

 日本海からの風が吹き抜けるホームにかすりの着物姿の秋田美人がたたずむ。恥じらい気味の笑顔に迎えられ、一気に旅情が高まった。

 秋田県由利本荘市の由利高原鉄道・鳥海山ろく線は、羽後本荘駅から矢島(やしま)駅を結ぶ全長23キロのローカル線。人気は「秋田おばこ」姿のアテンダントが乗る「まごころ列車」で1日1往復ある。「おばこ」は「若い娘」という意味だという。
 
 羽後本荘駅を出発した列車は平日とあって乗客は5人だったが、ボックス席には木のテーブル、木のおもちゃが置かれたスペースがあるなど遊び心満載の列車だ。

木をふんだんに使った車内で笑顔で見どころなどを紹介する池田優香さん

木をふんだんに使った車内で笑顔で見どころなどを紹介する池田優香さん

 秋田おばこ姿のアテンダントは池田優香さん(33)で、年配者の乗り降りのサポートや沿線案内、車内販売と大忙し。団体客が乗ったときなどは、秋田ドンパン節の替え歌を披露することもあるという。列車は刈り取りの終わった田園地帯を子吉川に沿って、さかのぼる。白鳥が餌をついばむのどかな光景もあり、居合わせた病院帰りの年配女性との会話も弾む。

 鮎川駅近くには、この夏にオープンした「鳥海山 木のおもちゃ美術館」があり、途中下車して立ち寄るのもいい。国登録有形文化財の旧鮎川小学校の木造校舎を利用した施設で、5000個の木製のどんぐりがある「どんぐりプール」や世界各地のおもちゃの展示、手作りおもちゃ製作の体験コーナーも充実している。

 同館駐車場に、頬かむりをした年配女性がたたずんでいる。小学生が「あっ、ババヘラだ。一つちょうだい」と話し掛ける。女性はにこにこしながら大きな魔法瓶のような入れ物に入ったアイスをヘラを使ってコーンに盛り付けている。「ババヘラ」とは同県でおなじみの屋外販売されている氷菓の一つ。中年以上の女性がヘラを使って盛り付けることからこの強烈な呼び名が付いたという。季節外れだったが、こちらもつられて注文。黄色とピンク色のアイスは、爽やかな甘みがあった。

雪化粧した鳥海山をバックに走る由利高原鉄道・鳥海山ろく線の列車

雪化粧した鳥海山をバックに走る由利高原鉄道・鳥海山ろく線の列車

 列車が進むにつれて、同県と山形県境にまたがる鳥海山(標高2、236メートル)が、近づいてきた。雪化粧したなだらかな峰に雄大な裾野が広がり、出羽富士と呼ぶにふさわしい迫力だ。

矢島駅の一角の売店で佐藤まつ子さん(左)の話に耳を傾ける観光客=いずれも秋田県由利本荘市で

矢島駅の一角の売店で佐藤まつ子さん(左)の話に耳を傾ける観光客=いずれも秋田県由利本荘市で

 終点の矢島駅の改札を抜けると構内の一角に売店があり、今度は着物姿の白髪女性がいた。「まつこの部屋」という看板は、あの大物芸能人をイメージさせ、吸い込まれるように歩み寄る。上品な顔立ちの女性は「桜茶飲むか」と、ぶっきらぼうに切り出した。売店店主で観光案内もする佐藤まつ子さん(71)は、自ら漬け込んだ桜茶を振る舞うだけでなく、人生相談や恋愛相談にものる。

 まつ子さんと会うために全国各地から多くの人が矢島駅を訪れる。東京都世田谷区の宮川さん(47)は「やっと会うことができ、力をいただけました」と感慨深げ。近くにいた大学生にまつ子さんは「しっかり相手の目を見て話しなさい。へらへらしていてはだめ」と厳しい。

 今度はこちらに鋭い眼光が注がれた。「う~ん、そんなに苦労していない顔をしているな」とぽつり。動揺を隠せないまま、いろいろ悩みごとがあることを打ち明けると、「60歳までは頑張りなさい。それからの人生は楽しいわよ」と諭してくれた。

 帰りに立ち寄ると、今度は抹茶を振る舞ってくれたまつ子さん。「若いころはどん底を見たけれど、今、こうやって多くの人と触れ合えて幸せ。出会いが宝物なのよ」と話してくれた。
 鳥海山をバックに列車はゆっくり進む。旅で出会ったさまざまな“秋田美人”との思い出が走馬灯のように駆け巡った。

 文・写真 柳沢研二

(2018年12月14日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
由利高原鉄道・鳥海山ろく線の羽後本荘駅までは、中部国際、羽田空港から秋田空港へ。
リムジンバスでJR秋田駅に向かい、羽越線で約40分。

◆問い合わせ
由利高原鉄道=電0184(56)2736。
北東北三県名古屋合同事務所=電052(251)2801

おすすめ

鳥海山 木のおもちゃ美術館

鳥海山 木のおもちゃ美術館
酒蔵めぐり

酒蔵めぐり

★まごころ列車
午前9時40分矢島駅発と同10時43分羽後本荘駅発。
前郷駅では国内ではめずらしい、単線区間の昔ながらのルール「タブレット交換」がある。

★鳥海山 木のおもちゃ美術館
鮎川駅から無料シャトルバスで約5分。
体育館にはツリーハウスなどがあり、木のぬくもりに包まれた空間が広がる。
雪国の民具なども展示。
午前9時~午後4時で木曜(祝日の場合は翌日)と年末年始は休館。
入館料は大人800円、小学生以下600円。
(電)0184(74)9070

★酒蔵めぐり
秋田県を代表する銘酒「雪の茅舎(ぼうしゃ)」で知られる齋彌(さいや)酒造店では、酒蔵見学(1週間前までに要予約)も可能。
同県の発酵食文化を観光資源として活用する「あきた発酵ツーリズム」に合わせ、来春、ショップやカフェをオープンさせる。
電0184(22)0536。
矢島駅近くにある佐藤酒造店は地元で人気の「出羽の冨士」で知られ、甘口で濃厚な味わいが特徴。
こちらも予約すれば蔵見学が可能。
電0184(55)3010

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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