見渡す限りの荒野の中で、その存在感は圧倒的だ。世界最大級の一枚岩といわれるウルル(エアーズロック)。高さは東京タワーより高い348メートル、周囲は9.4キロにもなる。岩肌が赤い理由は、鉄成分が酸化しているから。夜明けの観覧ツアーに参加した。徐々に朝日に照らされ、赤さを増していく姿は神秘的だった。
以前はエアーズロックと呼ばれていたが、1990年代から2000年代にかけて先住民のアナング族が呼んでいたウルルが公式の名称として採用されるようになった。
「ウルルは先住民にとっての聖地です。場所によっては写真の撮影も禁止されています」。日本人ガイドの横井久人さん(37)が教えてくれた。
この荒野でアナング族の人たちはどうやって暮らせたのか。周囲に生えている草木は細い葉で食用になるとは思えない。少雨の準砂漠気候に属し、夏は40度以上、冬は氷点下まで気温が変動することがある。
厳しい環境で彼らがどう暮らしてきたのかの一端は、ウルルをめぐる散策で分かる。岩がえぐれた入り江のような場所を奥に進むと、濃い緑の植物が増えてくる。突き当たりには、池のように水をたたえる場所があった。ムティジュルの水場という。ウルルの周囲は強い日差しで暑いのに、この水場は、日陰で爽やかな風が吹き抜ける。
アナング族の人たちにとって貴重な水源。それを裏付けるような言い伝えが水場に向かう道の脇にある。一部が風化した岩の形は、とぐろを巻いたヘビに見える。周囲を見渡し、外敵から水辺を守っているという。
アナング族の生活していた跡が至る所で見られる。1000年前に描かれたという壁画や木の実をすりつぶしていた岩、儀式が行われていた岩陰などだ。
ウルルの近くにある文化センターでは、アナング族の歴史や暮らしを紹介する写真と文章のパネルが展示されている。太古の昔からこの地に住み、水源や狩りの場所、武器の作り方を代々受け継いできたという。入り口には「ウルルを故郷と考えます」という彼らの言葉。いかに大切な存在なのか。少しだけ理解できたような気が
ウルルを訪れる人たちが滞在するエアーズロックリゾートで、アナング族のアリス・ウィラさん(52)から、狩りに使うやりや食料を運ぶ木製のかごなど伝統的な道具の説明を受けた。他にも、鮮やかな色の点で描くアナング族の人たちのユニークな絵も紹介してもらった。アリスさんに世界中から観光客が訪れることについてどう思うか質問すると「観光客と話ができることは幸せです。私たちの長い伝統と文化をぜひ知ってほしい」と歓迎してくれた。
ウルル観光での移動はすべてバス。ただ、それでは少しおもむきがない。そんな思いに応えてくれるのがラクダに乗って移動するツアー。ウルルのそばにまでは行けないが、遮るものがないので遠めに眺めつつ、観光できる。
「かわいいラクダたちでしょ」。ラクダ牧場のスタッフ、ジュディ・クロプトンさん(28)がガイドをしてくれた。距離は3.5キロと短いものの、45分をかけ景色を楽しみながら移動する。ラクダにゆられていると150年前にタイムスリップした気分に。1873年、西洋人冒険家が初めてウルルに到達した。その時、冒険家はどれほど驚いたのだろうか。なりきってウルルを眺めると、あらためてその雄大さに心を奪われ、しばし見とれた。
文・写真 寺本康弘
(2018年12月21日 夕刊)
メモ
◆交通
日本からエアーズロック空港への直行便はないため、シドニーやケアンズで乗り換える。
今年8月には、ブリスベンとエアーズロックを結ぶ便が就航し、経路の選択肢が増えた。
◆観光情報
ノーザンテリトリー政府観光局のホームページ(日本語)が詳しい。
おすすめ
★カタジュタ
ウルルから西へ約50キロにある巨岩群。
大小36の岩があり、最も高い所は546メートルでウルルよりも高い。
ワルパ渓谷の散策ができる。
往復約2.6キロ、1時間ほどのコース。
両側に迫る岩の壁の大きさを感じられる。
★エアーズロックリゾート
ウルルの観光拠点。
5つの宿泊施設をはじめ、ショッピングセンターや、ウルル周辺の自然環境や先住民の芸術作品を展示する施設がある。
また、リゾート内の広場などで先住民の生活を体験できるイベントも開催される。
★遊覧飛行
ヘリコプターに乗ってウルルとカタジュタを上空から観覧することができる。
プロフェッショナル・ヘリコプター・サービス社が提供している。