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興福寺・中金堂

興福寺・中金堂 奈良市 目を奪う天平ロマン

約300年ぶりに創建当時の姿を見せる興福寺・中金堂=いずれも奈良市で

約300年ぶりに創建当時の姿を見せる興福寺・中金堂

 今日も参拝客や観光客でにぎわう奈良市の奈良公園。その周囲には威厳のある寺が立ち、国宝や重要文化財も数多く保存されている。世界遺産・法相(ほっそう)宗大本山興福寺の伽藍(がらん)の中心的な中金堂(ちゅうこんどう)が昨秋に落慶し、約300年ぶりに奈良時代の創建当初の姿を見せた。

 天平文化の象徴ともいえる中金堂は、710年の平城遷都と同時に興福寺の最初の神仏を祭る堂宇(どうう)として、藤原不比等によって創建された。しかし、7度も焼失し再建を繰り返した。1717年に焼失した後、規模を縮小した仮堂が建てられたものの、老朽化が進み、2000年に解体された。

 今回の再建工事では「天平の文化空間の再構成」を目標に掲げ、中金堂の基壇(石や土で造られた建物の基礎)の発掘調査が行われた。その結果、66個の礎石が見つかり、そのうち64個が創建時のものと判明。それらを生かして総工費約60億円をかけ、創建時と変わらぬ規模と形式で建設が進められてきた。

 新しい中金堂の魅力は東大寺大仏殿に次ぐスケールの大きさだ。幅約37メートル、奥行き約23メートル、高さ約20メートル。見上げながら近づくとさらにその大きさの迫力に圧倒される。まばゆいばかりの朱色に塗られた建物は息をのむほどの壮観さだ。屋根の両端に飾られ金色に輝く鴟尾(しび)(魔よけや防火のまじない)も青空によく映える。特に発掘調査で見つかった礎石の上に立つ長さ約10メートル、直径約80センチもある巨大な36本の柱は目を見張る。アフリカのカメルーンから約8年をかけて運ばれてきたアフリカケヤキを使用している。古式な工法を用いこの大きな木材を宮大工らが槍鉋(やりがんな)を使い仕上げた。触れてみると滑らかな感触が残り、温かささえ感じる。

 金堂の内陣にある、その一つの法相柱には、法相宗ゆかりのインド、中国、日本の高僧14人が鮮やかな色彩で描かれている。本尊の釈迦如来(しゃかにょらい)座像を中心に鎌倉時代の四天王立像や薬王(やくおう)・薬上菩薩(やくじょうぼさつ)立像らも安置されている。参拝客らは本尊の前で立ち止まり手を合わせる人も多く見られた。沖縄県から訪れた41歳の男性は「建物のスケール、釈迦如来座像の大きさに驚いた。天井も高くてとてもきれい」と話し、改めて見上げた。

人気の阿修羅像(中)は工夫された照明で陰影をつけ一層その姿を引き立たせる

人気の阿修羅像(中)は工夫された照明で陰影をつけ一層その姿を引き立たせる

 中金堂の落慶よりも早く昨春に新装開館された、隣接する興福寺国宝館も観光客でにぎわう。本尊の国宝・千手観音菩薩像を中心に主に奈良時代から鎌倉時代の国宝や重要文化財の仏像など64点が展示されている。

 館内に入ると、仏像との距離が近い。ガラスケースなどの覆いがほとんどなく、露出展示されている。鎌倉時代の木造金剛力士立像阿形(あぎょう)と吽形(うんぎょう)などの仁王像は仏像の表情や時代の匂いさえ感じ取れるようだ。再三の火災にもかかわらず8体が現存する奈良時代の国宝・脱活乾漆造八部衆立像(だっかつかんしつぞうはちぶしゅうりつぞう)は人気が高い。特に阿修羅像の前では工夫された照明方法で3組の手が立体的な陰影を見せ大勢の目を引きつけている。和歌山県から訪れた夫婦は「全体的に明るい雰囲気で仏像を間近で見ることができて、今までの仏像に対する見方が柔らかくなってうれしい」と話していた。

奈良公園を散策するとたくさんの鹿たちが迎えてくれる=いずれも奈良市で

奈良公園を散策するとたくさんの鹿たちが迎えてくれる=いずれも奈良市で

 奈良公園を散策すると、おなじみの鹿たちに出合った。約1150頭が生息するという。古くから武甕槌命(たけみかづちのみこと)ら祭神が白い鹿に乗ってやって来たことから神の鹿と伝えられてきた。公園内の売店で販売されている鹿せんべいを手に見せると匂いをかぎつけ、おねだりする。現在でもその愛くるしい瞳やしぐさはアイドル的存在である。

 まさに七転び八起き。7度の焼失を乗り越えて美しくよみがえった中金堂。間近で国宝の仏像が見られる国宝館。奈良の一大スポットになるに違いない。

 文・写真 金田好弘

(2019年1月4日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
興福寺へはJR東海道新幹線で京都駅に向かい、近鉄京都線に乗り換え。
近鉄奈良駅まで特急で約35分。
近鉄奈良駅から徒歩5分。

◆問い合わせ
興福寺寺務所=電0742(22)7755

おすすめ

店主の境祐希さんによる仏像講座

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さつま焼き

さつま焼き

★中金堂と国宝館
中金堂の拝観時間は、午前9時~午後5時で無休。
拝観料は大人500円、中高生300円、小学生100円。
国宝館も拝観時間は同じで、拝観料大人700円、中高生600円、小学生300円。

★喫茶・旅宿古白(こはく)
奈良情緒あふれるたたずまいで、喫茶店と併設の宿でゆったりと過ごすことができる。
店主の境祐希さんが毎晩仏像講座を開講。
仏像などの見方などを学べる。要予約。
また、じっくりと焙煎(ばいせん)したコーヒーは味わい深い。
店の名物のスパイスカレー「ゆうちゃん」(1000円)は鶏肉を約5時間煮込み、境さん自らが配合したスパイスで味付け。
辛さは控えめだが濃厚な味。
近鉄奈良駅から徒歩約15分。
宿泊は3000円から。
電0742(81)4236

★御菓子司「春日庵」
奈良銘菓の「さつま焼き」はサツマイモを形どり甘さを控え、あっさりと仕上げたあんを包んだまんじゅう。
1個ずつ竹串にさして焼き上げる。
1個145円。
頬張るとそのやさしい味わいに思わず笑顔になる。
興福寺から徒歩約5分。
午前9時~午後6時。
電0742(22)6483

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