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やきものの里

やきものの里 長崎県・波佐見と三川内 伝統、モダン 多彩な窯

陶郷・中尾山集落。正面に階段のような登り窯が見える

陶郷・中尾山集落。正面に階段のような登り窯が見える

 棚田や畑の間を縫うように山あいへと延びる坂道を上って行くと、開けた小高い丘に広場があった。眼下に陶芸の里、長崎県波佐見(はさみ)町の中尾山集落が広がる。窯元のレンガ積みの煙突が見える。その向こうの山の中腹には、まるで大きな階段のような中尾上登窯(なかおうわのぼりかま)跡が見えている。広場の説明板によると、全長160メートル以上あり、世界最大規模の登り窯という。江戸時代から昭和初期まで(1640年代~1929年)300年近くにわたって使われた。長い時の流れを感じさせる。

 「有田焼の陰に隠れて、波佐見焼は最近までその名をあまり知られていませんでしたが、実は400年以上の歴史があるんですよ」と、はさみ観光ガイドの石原正子さん(67)。今も町内には大小およそ100の窯元がある。

 生地を作る人、絵付けをする人、運ぶ人、全体をプロデュースする窯元と、それぞれ分業し合い、町が一つのチームになっている。これを1カ所で流れ作業で行う工場もある。

カラフルでモダンなデザインが人気の波佐見焼=長崎県波佐見町で

カラフルでモダンなデザインが人気の波佐見焼=長崎県波佐見町で

 ギャラリーを備えた窯元も多く、散策しながらの窯元巡りも楽しい。のぞくとカラフルでモダンな器が目を引く。若い女性に人気というのもうなずける。波佐見焼は、白地に藍色のシンプルな絵柄が特徴だが、それにこだわらないものも多い。手に取るとどれも薄くて軽い。大量に作るため安価で、ちょっとおしゃれな日常の器としてとても使い勝手がよさそうだ。

 「実はこれが波佐見焼だというものがないのが、波佐見焼なんです。伝統にとらわれすぎず時代が求めるものに常に姿を変えていく、昔からそうしてきたのが波佐見焼です」。窯元「中善」の中尾善之さん(38)の言葉に、なるほどと納得する。

三川内の伝統絵柄「唐子」の皿。チョウと戯れる子どもは幸福の象徴とされる=長崎県佐世保市三川内町で

三川内の伝統絵柄「唐子」の皿。チョウと戯れる子どもは幸福の象徴とされる=長崎県佐世保市三川内町で

 九州北西部は、波佐見だけではなくさまざまな焼き物産地が集積しているのが面白い。

 波佐見町に隣接する佐世保市三川内(みかわち)町に足を延ばした。ここも400年以上の歴史をもつ三川内焼がある。今も30以上の窯元があり、波佐見とはまた違った趣がある。

 庶民の器を作り続けてきた波佐見に対し、こちらは藩主や諸大名への献上品を焼く御用窯として栄えてきたという。やはり白地に藍色の絵柄が基本だが、精密な細工で装飾が施されたものもあり、華やかさがある。

戯れる子どもを描いた三川内焼の伝統絵柄「唐子(からこ)絵」を受け継ぐ「平戸松山(しょうざん)窯」を訪ねた。ちょうど絵付けが行われていた。濃(だ)み筆と呼ばれる太い筆で染料の呉須(ごす)を付けていく。呉須は焼き上がると藍色に変化するが、その濃淡で立体感や遠近感を表すという繊細な作業だ。

 「窯元によってその藍色は微妙に違っています。呉須の成分を調節することで好みの色にするんです」と、窯元の中里月度務(つとむ)さん(52)。地の白も微妙に違い、最近は純白よりやや青みがかった昔の白を目指す動きもあるのだという。単純な絵柄のようだが奥が深い。

土の塊から花びらを1枚ずつ切り出す菊花飾細工。このパーツを器に付け装飾にする

土の塊から花びらを1枚ずつ切り出す菊花飾細工。このパーツを器に付け装飾にする

 歩いてすぐの「平戸洸祥団右ヱ門(ひらどこうしょうだんうえもん)窯」では、18代目による伝統的な「菊花飾細工(きっかかざりざいく)」の作業を見ることができた。先端のとがった竹の道具で、土の塊から小さな花びらを1枚ずつ切り出し、装飾として器に付けて焼き上げる。土の塊がまるで魔法のように精緻な花びらに姿を変えていく。見事な技巧に伝統の重みとすごさを感じた。

 5月の連休中は、三川内も波佐見も陶器まつりが開かれ、全国から訪れる人でにぎわうという。

 文・写真 橋本節夫

(2019年2月22日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
波佐見町へは、長崎空港から佐世保方面行きバスで川棚バスセンター下車、内海方面行きバスに乗り換え、やきもの公園前下車。
佐世保市三川内町へは、やきもの公園前から佐世保方面行きバスで三川内駅前下車。

◆問い合わせ
波佐見町観光協会=電0956(85)2290。
三川内陶磁器工業協同組合=電0956(30)8311

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電0956(30)8080

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★はさみ温泉「湯治楼(ゆうじろう)」
日帰り温泉。
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露天風呂もある。
近くに5.5キロにわたる桜づつみロードがあり、桜の季節は湯上がりの散策も楽しめそう。
中学生以上600円、小学生300円、3歳以上200円。
土日祝日は100円増し。
電0956(76)9008

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。