砂風呂の枕べに、寄せては返す波の音が心地よく、うたた眠りに落ちていた。「ザッブーン」。ひときわ大きな波音に目が覚めた。天然サウナの砂を払って浜辺に立つと、落ちゆく太陽の残光が穏やかな海原を照らしていた。ここは鹿児島県・薩摩半島の南端、指宿市山川福元の「山川砂むし温泉」。
畑を掘れば畑に、浜を掘れば浜にも、いで湯わく指宿の宿。寒中だというのに、満開の菜の花畑を吹く風は、はや早春の訪れを告げていた。朝夕も、コートもマフラーもいらない身支度の軽さ。宿の窓を開けて、おいしい空気を吸い込む。寒さ知らずを喜んでいると、土地の人は「きょうは一番寒い」という。思わず「どこが」と突っ込みたくなる。
訪れた1月下旬、この時期には珍しい連日の雨。夕方、雨が上がったので「明日は天気になる」と思ったのは、ぬか喜び。翌日も再び雨模様になった。謎の怪獣「イッシー」がひそむというカルデラ湖、池田湖のほとりを車で走った。目に鮮やかな早春の花畑をぬらす、ひとあし早い南国の菜種梅雨。行けども雲が垂れ込め、薩摩富士と呼ばれる開聞岳(924メートル)は隠れたまま。
車の後部席から後ろ髪を引かれる思いで振り向くと、雲が切れて開聞岳が花畑の向こうにぽっかり浮かんでいた。
案内してくれた指宿市商工観光課の今柳田浩一さん(50)が「最寄りにいい撮影スポットがあります」と、車をJR西大山駅に寄せてくれた。
「JR日本最南端の駅」という標柱が立つ無人駅のホームには、大勢の年配の人たちが絵筆を走らせていた。大阪からスケッチ旅行に来た一行だった。添乗員が声を張り上げた。「下り電車が正午前に到着します。それまでに引き揚げてください」。腕時計を見ると、あと半時。「上手なものですね」。声を掛けてみたが、画帳に向かって一心不乱。春がすみに似た雲が山腹にたなびく薩摩富士。山すその駅は、静かな熱気に包まれていた。





















