島根県西部には世界遺産「石見銀山」と並んで地域の名を高めている伝統行事「石見神楽」がある。これから本番の秋祭りの時期を迎えて、神社の境内からイベント会場からにぎやかな神楽囃子(はやし)が響いてくる。
JR浜田駅前ロータリーにある「どんちっち神楽時計」のからくり人形がおもしろい。神楽殿を模した屋台で神代の昔の八岐大蛇(やまたのおろち)が火を噴き、須佐之男命(すさのおのみこと)が剣を振るう。で、この「どんちっち」とは囃子のリズムの幼児言葉で、そのまま石見神楽のことをいう。
石見銀山効果で石見地方の宿泊客が、昨年は60数万人と増加傾向にあるとはいえ県全体の約20%に満たず、県都松江や大社のある出雲地方にとても及ばない。
だが、神楽では負けない、ずっと盛んだと地元の人は自慢する。もともと豊作を感謝して村や町内の神社で奉納された里神楽であり、今も秋祭りに舞われている。しかも夜通し。神社では翌朝までザラで、「子供のときからの楽しみだった」と誰もが話す。「どんちっち」の響きが幼いころから体に染みついている感じ。ほかにホールの神楽大会、温泉場のアトラクションに上演され、観光客にとっても接する機会は多い。今年からキャンペーン企画「石見の夜神楽」公演(おすすめ参照)も開催中。
神楽の社中は浜田市や江津市を中心に100団体以上。プロの集団ではなく愛好者の集まりだ。子供の団体もある。演目は30数曲伝わり神話の世界だけでなく、謡曲起源を思わせるものもある。1時間を超える大作も多く、「大蛇」をまともにやれば1時間半に及ぶ。
豪華な衣装はみんな神楽団の自前で、「ボランティアです。好きだからこそできるんです」と社中の代表者は誇らしげ。演目にふさわしい衣装を工房に注文するが、「鍾馗(しょうき)」などは300万円もするそうだ。「大蛇」に使う胴体は度々使うので1年も持たないとか。また、神楽面には“幻の”といわれた「長浜人形」や世界無形文化遺産候補の「石州和紙」など岩見の伝統工芸の技が生かされている。




















