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コラム 熱湯コラム「いで湯のあしあと」

讃岐の湯宿で贅沢を

讃岐の湯宿で贅沢を

 旧正月が過ぎ、春の風を少し体感できるようになった2月半ば、久々に四国へ行ってきた。温暖な瀬戸内海に面した四国は、特にこれくらいの時期に行くと、春を一足先に感じることができる。大阪から淡路島を抜け、香川県に渡ると、本州とは明らかに違う春の日差しが車中に差し込むのを感じて心が躍る。柔らかく温かい四国の空気は、訪れる人の気持ちをわけもなく嬉しくさせるのだ。

 今回お邪魔した宿は、香川県と徳島県の県境、阿讃(讃岐)山脈の山間に佇む別荘のような贅沢な湯宿「阿讃琴南(あさんことなみ)」。空海が改修したとされる満濃池からくるまんのう町に位置する宿である。

 大阪から車で約3時間ほど、里山の農道を抜けていくと突然立派な構えの建物があらわれる。丁寧にスタッフの方々に迎えられ、里山の中とは思えないほどセンスのよいロビーと入ってチェックインを済ませる。春とはいえ、外は先週の雪がまだたくさん残っており、ラウンジでは温かい暖炉が燃えていた。

 2面にバルコニーを携えた、眺めのよい部屋に通されて一服したら、夕食までの間早速お風呂へ向かう。ここは、この宿だけの自家源泉を楽しむことができる。渓流沿いにあるお風呂はとてもスタイリッシュで、内湯の他に広い露天風呂があった。

 少し熱めの湯船に入ると、自家源泉がじわじわと冷え切った身体を温めてくれる。四国の日差しのようなさらりとした柔らかいお湯の中で手足をゆらゆらさせる。渓流のせせらぎを聞いてじっとしていると、どんどんと心が解放されていくのがわかる。深く深呼吸をするたびに1週間たまった仕事のストレスによる肩凝りがあっという間にほぐれていった。

 夕食は併設されたレストランへ。まずは地ビール「空海」をオーダーし、乾いた喉を潤す。これまたセンスの良い器に盛られたお料理が次々と運ばれてくるのだが、全て地元でとれた野菜や鮮魚、お肉ばかりである。流暢な日本語を話す外国人のスタッフが、丁寧にひとつずつ料理の説明をしてくれた。なかでも、香川県ならではの、小豆島しかいないといわれるオリーブ牛のシチューは絶品であった。すごいボリュームだったのにもかかわらず、新鮮な材料と混じりけのない調味料や油で調理されてるからだろうか、全て平らげても全く胃にもたれない最高のフルコースだった。

 翌日の朝風呂は、少しぬるめの寝湯でゆったりと時間を過ごす。朝食も夕食同様、ぺろりと平らげた。いりこ出汁のお味噌汁が身に染み、大豆の味がそのままする湯豆腐や岩魚の一夜干しは、日本人であることに誇りを感じる逸品。さらに温泉卵にローストビーフを添えるなんて贅沢すぎるではないか。

 たった一泊の贅沢な大人の休日は、チェックアウト後も名残惜しそうに、宿の庭に併設された足湯に30分ほどたっぷりと浸かり、ファンファーレを迎えた。

 ところで、香川にいってうどんを食べないという選択肢はない。あんなにフルボリュームの朝食を食べたかかわらず、香川県を出る前に、看板もない讃岐うどん屋を2軒はしごし、かま玉うどんをぺろりと平らげた。本当はあと2、3軒はしごしたかったのだが、自分の胃袋の許容範囲に若干失望しながら、絶対また来ると誓った。うどんの喉越しを堪能しながら、心の中で2度目のファンファーレが鳴り響いていた。

【阿讃琴南】
住所: 香川県仲多度郡まんのう町勝浦1
電話: 0799-22-2521
アクセス: (車)徳島自動車道美馬ICより国道438号線経由 坂出方面へ15分、(公共交通機関)JR土讃線、琴平駅より琴参バスで35分
源泉名: 美合温泉
泉質: 低張性アルカリ性冷鉱泉
温度・PH値: 13.3℃・8.7
色・味・匂い: 無色透明・無味無臭
効能: 関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、神経痛、五十肩、打撲、捻挫などの慢性期)、運動麻痺における筋肉のこわばり、冷え性、末梢循環障害、胃腸機能の低下軽症高血圧、糖尿病、痔の痛み、自律神経不安定症、ストレスによる諸症状(睡眠障害、うつ状態など)、病後回復期、疲労回復、健康増進、きりきず、皮膚乾燥症

2022年03月30日

コラムフォト

取材担当プロフィール

みなもといずみ
近場から遠出まで、行く先々に温泉マークを見つければすぐに飛び込んでしまうほどの温泉女。出張先ですら、温泉があればタオルとパンツを持ってでかけます。女である以上、温泉に癒される人生は永遠です。行き当たりばったりの旅が大好きな私のあこがれは、スナフキン。点々と旅を続けながらいで湯を求め、足あとを残していきたい!