【本文】

  1. トップ
  2. コラム
  3. 熱湯コラム「いで湯のあしあと」
  4. 別府温泉でワーケーション

コラム 熱湯コラム「いで湯のあしあと」

別府温泉でワーケーション

別府温泉でワーケーション

 コロナ禍になって以来、ずーっと温泉地でワーケーションをするタイミングを見計らっていた。朝風呂あびて、仕事して夜また風呂入って、その土地の美味しいもの食べて・・・の素敵な毎日を、リーズナブルかつ1週間ほど楽しめる場所。タイミングもそうだが、日本全国の多々ある温泉地から、滞在場所を一つに絞り込むのも大変である。そして、あるささいなきっかけで、その夢ような一週間を過ごす拠点を別府温泉に定め、初のワーケーションを試みてきた。

 別府温泉は、超ディープな市営・町営の銭湯が街中に無数に点在し、だいたい一回100円から300円で入浴できる。場所によって効能も様々で、言わずもがな温泉好きにはたまらない街である。高級旅館で1、2泊というのも、非日常を味わうにはいいのだが、今回はあくまでも「ワーケーション」である。別府市民になりきってこの一週間を過ごすのだ。旅館のような豪華な夕食は不要。たまには自炊もする覚悟で、とにかくそのディープな町営の銭湯を、思う存分楽しむだけを目的として別府へと旅立った。

 別府駅近くのアパートタイプの宿泊施設に拠を決め、日中は働く(つもり)。到着日の夕方、まずは「芝石温泉」へ。ここはディープというよりは、露天やサウナ(蒸し湯)もついた一通り揃った温泉である。別府初心者にはもってこいである。ぬるめの露天風呂に浸かると、一緒に入っていたご婦人方が他愛ないおしゃべりをはじめ、気づけばその輪に入れられている。地元民が多いようだが、よそ者の私でも温かくおしゃべりの輪に自然に入れるのだ。皆それぞれ、旦那の愚痴を言って盛り上がっていたのはご愛敬。お湯に浸かっておしゃべりをして、がははと笑うこれ以上の健康法があるだろうか。

 宿に荷物を下ろし、街に出て食事をしてから、宿近くのレトロ共同浴場「南的ケ浜温泉」へ。すっきりした泉質の塩化物泉だ。惜しみなく湧く高温の源泉につかってあがると、30分は汗がひかない。寝汗をたっぷりかいて、翌朝のどがカラカラだったのは言うまでもない。

 翌朝6時に目を覚まし、海岸へ30分ほど散歩し、その足で別府駅方面へ向かう。仕事前のひとっ風呂に選んだのは駅前の「高等温泉」。駅前だからか、観光客もわくわくしそうなメルヘンな洋館の佇まいなレトロ昭和風呂。90年前の建物だそうだ。中に入ると温泉成分で茶色く変色した湯船と壁に、年季を感じずにはいられない。熱湯、ぬる湯があるのに、朝一風呂だからかぬる湯ですらしずむのに時間がかかった。またまた汗が引かないまま街をぶらぶらし、大正5年創業の「友永パン」へ朝食のパンを買いに行く。

 一日仕事をした後は、これまた夕方のお湯を探しに外出。今度は車を少し走らせ、亀川という地区にある四の湯温泉へ。これまた情緒深くて、料金箱に小銭を入れてドアをあけたらそこはもう昭和の社交場だ。脱衣所との仕切りもなくそこに大きな楕円の湯船があり、夕方だからか多くの人がすでに入力していた。身体を洗う人は湯船脇でお湯をすくって、周りの人にかからないよう気を使いながら洗う。湯船の中で、おもちゃで遊ぶ小さな男の子を皆がほほえましく見守る中、やさしいお湯に身体をしずめたら、一日の仕事の疲れや肩の凝りなんてどっかにすっとんでしまう。

 さて3日目。早朝宿から海まで散歩して、朝日を浴びたら、すぐ国道脇にある北的ケ浜温泉へ。これまた朝一の貸切風呂で、熱々の湯船に、水を少しずつ足しながらそろそろと入る。良質な熱いお湯に一旦沈んでしまうと、ちくちくした熱さが肌を刺激して、一気に目が覚めた。その日の夜は、久々に広い露天風呂を求め、明礬温泉へ足を運び、宿泊施設「ハートピアさわやか」に併設するにごり湯へ。別府といえば明礬、週も半ばになると仕事の疲れもピークに達していたが、この硫黄の香りは身も心も癒された。

 そして4日目朝、浜脇温泉でレトロ風呂を堪能し、お昼は名物「地獄蒸し」で八百屋で買ったなると金時やトウモロコシなどを持ち込んで別府ならではのランチを楽しんだ。鉄輪にいたのでそのまま夕方は鉄輪温泉「みかゑりの湯」でこれまた別のタイプのお湯をいただく。

 最終日5日目。3日目に行った明礬のにごり湯が忘れられず、さらにディープなにごり湯を求めて、明礬のもっと山奥にある奥明礬山荘へ。温泉好きが高じて15年前に大阪から別府に移住してきたオーナーが、温泉配合の研究湯船を手作りし、130度の源泉を空冷して提供しているという露天風呂に入った。湯上りに、その高温泉で作られたプリンとゆで卵をいただく。硫黄臭のするゆで卵はくせになりそう。もくもくとした湯けむりに包まれた山荘とその泉質は、別府での5日間のクライマックスを飾るには相応しすぎるほどの温泉であった。

 別府でのワーケーション中に網羅した温泉は全部で10か所。駆け足で記述したが、本当はこのスペースじゃ書ききれないほどの満足感と充実感、そして何よりも幸福感だった。これは絶対クセになる。年1回、いや半年に1回はこんなことしたい・・・働き方改革の本当の意味を、身をもって知った素晴らしい滞在だった。

【別府温泉(町営・市営)】
左から順に、泉質、入湯料
芝石温泉: 単純温泉、ナトリウム‐塩化物・硫酸塩泉、無味無臭、300円
南的ケ浜温泉: 塩化物泉、200円
高等温泉: 弱アルカリ性単純温泉、200円
亀川 四の湯温泉: 単純温泉、200円
北的ケ浜温泉: 100円
明礬温泉ハートピアさわやか: 硫化水素泉、500円
浜脇温泉: 単純温泉、200円
鉄輪温泉 みかゑりの湯: 硫化物泉、300円
明礬温泉 奥みょうばん山荘: 硫化水素泉、500円

2021年12月17日

コラムフォト

取材担当プロフィール

みなもといずみ
近場から遠出まで、行く先々に温泉マークを見つければすぐに飛び込んでしまうほどの温泉女。出張先ですら、温泉があればタオルとパンツを持ってでかけます。女である以上、温泉に癒される人生は永遠です。行き当たりばったりの旅が大好きな私のあこがれは、スナフキン。点々と旅を続けながらいで湯を求め、足あとを残していきたい!