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船でしか行けない秘境宿 大牧温泉

船でしか行けない秘境宿 大牧温泉

 日本全国には、人知れず素晴らしい秘湯がたくさんある。これだけ数々の秘湯を求めて旅しても、尽きることはない。今回行った秘湯、いや秘境は、船以外では辿り着く術がない温泉宿である。

 飛騨高山、白川郷をさらに抜けて五箇山インターで降り、ひたすら国道を北上する。途中、五箇山の合掌造りの集落を横目に通り過ぎ、さらに山の中を走っていくと、やがて小牧ダムが見えてくる。その先にあるのが、荘川峡の遊覧船乗り場である。ここから遊覧船に乗り込み(チェックインに間に合うようにするには一日2便しかないので絶対に乗り遅れちゃならない)約30分ほど、峡谷の間をゆったりと流れていく。乗り込んだときには、突然降ってきた激しいにわか雨もやみ、青空に陽の光がさしこんできた。川面に靄がかかって幻想的な風景を愛でながら船の度を楽しむことができた。

 しばらくすると、靄の中から突如大牧温泉旅館が現れた。こんな峡谷の合間にどうやって建てたのだろうと感銘を受ける。「日本列島最後の秘境」とはよく言ったもんだという風格の佇まいだ。1183年に、平家の落ち武者が見つけたという、歴史のある出で湯なのだそうだ。

 チェックインを済ませ、部屋で荷物を降ろして一息ついたら、早速露天風呂へ行ってみた。ここはお風呂が全部で男女各3つずつある。内風呂の大浴場と中浴場、そして露天に野天風呂もおまけでついている。明るいうちにまずは露天風呂に行ってみた。

 露天風呂の脱衣所は実に簡素なもので、開放感に溢れている。幸いまだ誰もいない。さっさと素っ裸になり、かけ湯をしてぬるめのお湯に身をしずめた。柔らかくてすべすべとしたお湯が身体を包み込む。すぐ眼下には先ほど通ってきた荘川が見え、まだ靄が立ち籠めている。鳥のさえずりと、さわさわという木々の鳴る音、とぽとぽという源泉の湧き出る音だけが耳に心地良い。長湯をしてじっとこの心地良い音を聞いていると、にわか雨に降られて冷えきった身体が芯から温まった。

 次に、隣の「野風呂」の看板の奥にある場所に移動すると、岩肌をくりぬいたようなお風呂があった。2、3人入ったら満員になってしまいそうなその野風呂を独り占めしていたら別のお客さんが入ってきたので、十分堪能した露天風呂を後にした。

 さて、お楽しみの夕食は、言わずもがなすごいボリュームであった。ぶりとボタンエビの刺身から始まり、川魚と猪のしゃぶしゃぶ、野菜の天ぷら、白エビを使ったえび真薯、シメはキノコと豆の炊き込み御飯。空っぽだった私の胃をすごい勢いで富山の食材が満たしていった・・・。

 翌朝再度、露天風呂を堪能してから朝食を取り、台風が近づいているからと9時の船に乗るためにせかされ、後ろ髪をひかれる思いでそそくさとチェックアウトをした。この日に泊まっていた宿泊客が全て同じ船に乗り込む。乗り込む前、皆名残惜しそうに写真をとったり、コーヒーを飲んだりしていた。

 いざ船が出航すると、旅館のスタッフの方々が、見えなくなるまで手を振ってくれていて、なんだかじーんとしてしばし感傷に浸ってしまった。少しずつ岸から離れていくあの秘境の宿を、乗客全員が同じ思いで見ていたに違いない。たかが一泊の温泉旅行だが、船でしか行けない秘境宿というのは、非日常の2日間の素晴らしい思い出として、確実に私の記憶に刻まれたのであった。

【大牧温泉観光旅館】
住所: 富山県南砺市利賀村大牧44
電話: 0763-82-0363
URL: http://oomaki.jp/
アクセス: 東海北陸自動車道 五箇山IC下車―R156経由小牧ダム―荘川遊覧船乗り場から船で約30分
料金:一泊二食 大人16,000円~

源泉名: 大牧温泉
泉質: ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩泉
温度・PH値: 57.6℃、8.14
色・味・匂い: 微弱な硫化水素臭と、弱酸味
効能: 神経痛、筋肉痛、関節痛、五十肩、運動麻痺、間接のこわばり、うちみ、くじき、慢性消化器症、痔病、冷え性、病後回復期、疲労回復、健康増進, きりきず、やけど、慢性皮膚症、虚弱体質、慢性婦人病、動脈硬化症

2020年10月27日

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取材担当プロフィール

みなもといずみ
近場から遠出まで、行く先々に温泉マークを見つければすぐに飛び込んでしまうほどの温泉女。出張先ですら、温泉があればタオルとパンツを持ってでかけます。女である以上、温泉に癒される人生は永遠です。行き当たりばったりの旅が大好きな私のあこがれは、スナフキン。点々と旅を続けながらいで湯を求め、足あとを残していきたい!
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