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コラム 熱湯コラム「いで湯のあしあと」

雲上の解放露天風呂 蓮華温泉

雲上の解放露天風呂 蓮華温泉

 以前のコラムで、絶景を眺められる温泉が大好きだと書いたが、ご承知の通りそれが秘湯となるとさらにわくわく感が増す。白馬岳を眺めながら入れる標高1475mの野天風呂があると聞き、行ってきた。

 白馬と聞くと信州かと思ったら、北アルプスの向こう側、新潟は糸魚川にその蓮華温泉は存在する。北陸道周りで片道約4時間のドライブである。糸魚川インターを降りて、曲がりくねった山道を行くこと約1時間、眼下に広がる下界との差に息を飲みつつやっと到着したのは、その秘湯を管理する宿・蓮華温泉ロッジである。

 この宿は、食事を出すものの、どちらかというと北アルプスの山々を登山する登山者用の休憩ロッジと言った方がいいかもしれない。案の定、宿泊客はほとんどが登山客であった。チェックインの際に、「温泉は24時間は入れますが、館内は自家発電ですので夜9時には消灯です」と言われた。また、道中で気づいていたのだが、3Gすら通じない圏外である。宿内にもWifiなど飛んでるはずもなく、文字通りのデジタルデトックスができそうな気配である。

 「野天風呂は全部混浴で、4つともそれぞれ湯質が違います。ちょうど雨も上がったので、是非」と言われ、とりあえずここの名物、野天風呂へ向かった。といっても、すぐそこにあるわけではない。20分くらい山道を歩かないと、目的の場所には着けない。タオルを持ってできるだけ軽装になり、ひたすら案内された登山道を登り始めた。最初10分ほど登ったところに、最初の野天風呂「三国一の湯」が湧いていた。しかし、なんと言う小さな温泉か。昭和初期のアパートにありそうな、体育座りで一人入ったらそれで溢れるサイズである。しかも山道のすぐ傍にあり、本当に道端にあるという感じである。さすがに相当な勇気がないとここで無防備な格好にはなれないので、それはスルーしてさらに山道を登っていった。

 さらに5分ほど登ると、視界が開けてきて、硫黄の匂いと共に湯気が立ち上るのが見えてきた。この野天風呂のメイン、「仙気の湯」である。しかし、先客のおじさまたちが5人ほどすでに入浴を楽しんでらっしゃって、入る隙もない。どうしようかと戸惑っていたら、一人のおじさまが「上にもうひとつあって、そこは女性専用にできるから札かけて入ってきたら」と言ってくださった。ありがたい。ではと、おじさまを横目にさらに上を登っていく。

 一番上にある「薬師の湯」は、二人入ったらいっぱいのサイズであった。こんこんと湧くエメラルドグリーンのお湯が美しい。一瞬で脱衣し、おもむろにお湯に身体を沈めた。ふと前を見ると、雨上がりの雲が切れてきて、目前に壮大な北アルプスの山々がでーん!と姿を表した。

 ああ・・・なんて素晴らしい!めっちゃ気持ちいい!!最高!!!周りには人っ子一人いない(少し眼下をのぞくと、仙気の湯に浸かるおじさまたちが見えるが)。リアルに貸し切り大自然野天風呂である!野鳥のさえずりとお湯がとぽとぽ湧く音しかしない。圏外のスマホ以外、デジタル要素が全くない。約5ヶ月間の在宅勤務で、パソコンかスマホかテレビしか向かってなかった脳みそに、この大自然のエネルギーがどんどんチャージされていくようである。

 結構熱目のお湯だったので、湯だったら岩に腰かけて、また入って、を繰り返し、薬師の湯を十分堪能した。こうなったら下の仙気の湯もやっぱ入りたい。ちょうどおじさまたちも上がって帰っていったようだ。ここから先、誰もこないようにと祈りながら、さっと衣服をまとって再度仙気の湯に降りていった。

 「仙気の湯」は、もう少し柔らかめの無色のお湯だった。ここからでも十分な眺めである。すぐ隣には、源泉であろう、山肌から直接蒸気が噴き出してもくもくと立ち籠める湯気が緩やかな風に流されていく。地中のマグマが活動しているのを直に感じることができる。

 ふたつのお湯を堪能し、ふらふらになったので早速着替えてロッジに戻ることにした。途中、4つめの野天風呂「黄金湯」の傍を通過する。ここも緑に囲まれて、どちらかというと隠れ湯的な温泉である。入りたかったが、すでに湯だりすぎて入る体力もないので、お湯を触るだけにしておいた。ここのお湯もぬるめの柔らかいお湯のようである。

 夕食を宿で済ませたあと、テレビもないので部屋で本を読んでいたら9時ぴったりに突然の消灯。仕方ないのでそのまま寝る。おかげで翌朝は5時に目覚め、内湯に向かった。内湯の温泉からもアルプスの山々を眺めることができた。

 チェックアウト後、近くで山の空気を十分に吸引してから山を降りた。圏外から圏内に入ったところで、メール着信の音。ほんの一泊デジタルレスだったというだけでなんというメールの数かとうんざりしたが、本来人間とはどう生きるべきか、を束の間だけ味わえた気がした。贅沢なおもてなしは一切ないが、ゴージャスな大自然は限りなく味わえる温泉宿であった。

【蓮華温泉ロッジ】
住所: 新潟県糸魚川市 中部国立公園内
電話: 090-2524-7237
URL: http://rengeonsen.main.jp/index.html
アクセス: 糸魚川インターより車で約1時間半(又は最寄り駅:JR平岩駅、糸魚川駅からバスで約1時間半)
料金:一泊二食 大人11,000円、日帰り入浴 800円

源泉名: 薬師湯
泉質: 単純硫黄温泉
温度・PH値: 79℃、3.0

源泉名: 仙気の湯
泉質: 単純硫黄温泉(硫化水素型)
温度・PH値: 52.7℃、2.2

源泉名: 黄金湯
泉質: マグネシウム炭酸水素塩温泉
温度・PH値: 40.5℃、7.2

源泉名: 三国一の湯
泉質: マグネシウム炭酸水素塩温泉
温度・PH値: 32.8℃、2.6

効能: 慢性皮膚病、動脈硬化症、切り傷、やけど

2020年08月19日

コラムフォト

取材担当プロフィール

みなもといずみ
近場から遠出まで、行く先々に温泉マークを見つければすぐに飛び込んでしまうほどの温泉女。出張先ですら、温泉があればタオルとパンツを持ってでかけます。女である以上、温泉に癒される人生は永遠です。行き当たりばったりの旅が大好きな私のあこがれは、スナフキン。点々と旅を続けながらいで湯を求め、足あとを残していきたい!