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コラム 熱湯コラム「いで湯のあしあと」

信州最古の湯 別所温泉

信州最古の湯 別所温泉

 「信州の鎌倉」とも言われる別所温泉は、開湯1500年。
古(いにしえ)は「七久里(ななくり)の湯」という呼称が、平安時代の和歌集に残るだけに、信州最古の温泉ともいわれる。長野県でも随一歴史を感じる町・上田駅から、ローカル列車でほんの30分。時代を感じる湯巡りを味わうべく、上田電鉄別所線に乗り込んだ。

 なんともレトロな二両編成のローカル列車は、上田市街を抜けるとほどなく、のどかな田園風景を走っていく。田んぼの畦道を、ホンダカブに乗ったおじさんがゆっくりと駆け抜ける。ゆっくりと時が流れる外の景色をぼんやりと眺めていたら、いつのまにか爆睡してしまった。終点別所温泉駅で目が覚めたときは一瞬、鎌倉時代へタイムスリップしたかのような気分に陥った。

 ミンミン蝉が激しく鳴き続ける中、駅から5分ほど歩くと北向観音に着く。どの温泉街にも寺社仏閣があるが、ここは特に鎌倉~室町時代にかけて造られたものが多く、歴史に疎くても時代の変遷を感じられる。かの有名な善光寺と合わせてお参りするとさらにご利益があるという。前日、ちゃっかり善光寺も参ったワタシ、ちょっとはご利益あるでしょうか。ここでの御手洗場は、やはり温泉。ほんのり硫黄臭のするお湯が惜しみなく湧き出ており、参拝前に手を洗う。真夏のお参りにはちょっと暑いが、これも温泉地ならでは。

 20軒ほどの温泉旅館が立ち並ぶ温泉街には、公共の外湯が3つ。宿泊客でなくても、湯巡りを楽しむことができる。真田幸村隠しの湯「石湯」、木曽義仲ゆかりの「大湯」、そして比叡山延暦寺の慈覚大師ゆかりの「大師の湯」。どれも大きくはないけれど、伝統と古代のロマンが感じられる共同浴場なのである。

 そんな歴史ロマンの外湯も、現代では町民の社交場である。今回石湯は工事中だったため、残念ながらパスしたが、大師の湯と大湯をはしごした。大師の湯で、地元のおばちゃんが話しかけてきた。毎日ここに入りにくるという。「だってねぇ、住民はほんっとに安く入れるのよ。ウチでお風呂沸かす方が、お金かかるくらいよ。」一般人でも150円という安さ、地元の人はタダみたいなもんなんだろう。「ウチにもお風呂場は一応あるんだけど、物置になっちゃってるわよ!」なんとも羨ましい限りである。

 ここの湯質は全部一緒、ほんのり硫黄臭がして、ちょっぴり白濁している。飲泉もでき、便秘や糖尿に効くらしい。その昔、嫁入り前の娘たちは、必ず別所温泉の湯に浸かって、肌を整えてから嫁いだというから、正真正銘の「美人の湯」としても有名だという。久々に猛暑でくたびれた自分の肌に喝を入れようと、猛暑の中、熱めのお湯につかり、汗をかきながらはしごした。

 ふたつの外湯をはしごすると、真夏の太陽もやっと落ちてきて、涼しげな風が湯上りの肌をなでた。夏の香りを胸いっぱいに吸い込んで、レトロな駅から折り返しの列車に乗り込む。心地よい眠りが押し寄せてきて、帰りの電車でもまた爆睡。上田駅に着いたときには、一瞬、鎌倉時代から現代に引き戻されたかのような錯覚に陥ったのであった。

【別所温泉】
住所: 長野県上田市別所温泉
アクセス
 車の場合: 中央・長野自動車道 麻積IC → R143 約18km
 公共交通機関: 名古屋駅より中央本線しなの鉄道で3時間20分(上田駅下車) → 上田駅より上田電鉄別所線で約30分
温泉名: 別所温泉4号源泉
泉温(源泉): 50.9度 (PH値8.9)
泉質名: 単純硫黄温泉(硫黄泉) 源泉かけ流し
色・味・匂: 微硫黄臭
効能(入浴): 神経痛・筋肉痛・五十肩・運動麻痺・関節のこわばり・うちみ・ねんざ・くじき・慢性消化器病・痔疾・冷え性・病後回復期・疲労回復・健康増進・慢性皮膚病・慢性婦人病・きりきず・糖尿病
効能(飲用): 便秘・通風・糖尿病
料金: ¥150(大人料金・各外湯)

2011年08月04日

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取材担当プロフィール

みなもといずみ
近場から遠出まで、行く先々に温泉マークを見つければすぐに飛び込んでしまうほどの温泉女。出張先ですら、温泉があればタオルとパンツを持ってでかけます。女である以上、温泉に癒される人生は永遠です。行き当たりばったりの旅が大好きな私のあこがれは、スナフキン。点々と旅を続けながらいで湯を求め、足あとを残していきたい!