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コラム 熱湯コラム「いで湯のあしあと」

青森湯治の代名詞 酸ケ湯温泉

青森湯治の代名詞 酸ケ湯温泉

 「東北の秘湯」って聞いただけで気持ちが高ぶってうずうずしてくるのは、私だけではないだろう。関西在住の身にとっては、ある意味東北というのは、制限されたアクセス数と手法から考慮すると、外国よりも遠く未知の土地である。東北の秘湯の数々は測り知れず、一生かかっても網羅することは困難だろう。だからこそ東北地方へ行くというのはソウルや台北に行く以上に、腰を上げるのにとても時間がかかる気がする。

 だからこそ今回の東北旅行は、いつも以上に気合も入って計画したのだった。こんなにたくさんの魅力的な温泉地からひとつだけ選ぶのは困難だったが、私の抱く東北の秘湯イメージ(鄙びた湯治できるところ)とGoogleを活用して、まだ足を踏み入れていない青森県に焦点をしぼり、「青森 湯治」を検索してみたら、一番最初にヒットしたのがここ酸ケ湯温泉だった。

 酸ケ湯の歴史は300年程で、江戸時代から湯治場として人気だったようだ。その豊富で良質な温泉と収容規模の大きさ、自然環境の美しさ、コスパの良さ等から、昭和29年に国民保養温泉施設第一号となり、今も多くの湯治客・旅行客にその素晴らしい泉質を提供している。

 空港からレンタカーで、青森市内に行きのっけ丼とねぶた祭り会館を楽しんだ後、八甲田山の中をくぐりぬける。見えるものは、既に終わりかけの紅葉と「熊出没注意」の看板のみ。文明というものが全く感じられない大自然の中を1時間強ほどドライブすると、突如大きな宿泊施設が現れる。チェックインした4時頃にはすでに日が沈みかけ、肌寒い晩秋の雲が温泉への気持ちを急かす。チェックインをして昔からの襖扉に鍵のついた部屋に通された後、冷たくなった手足を早く温めるべく、とっとと温泉へ向かった。

 ここには3つの大浴場があり、ひとつはあの有名な混浴(朝晩1時間ずつ女性のみ利用可)と、男女別々の内湯がある。夕食前にまずは女性風呂に行き、その泉質の濃さを確かめる。内湯だけとはいえ十分に広い湯船には、源泉が惜しげもなくこんこんと湧き続けていた。酸が強いため「酸ケ湯」、または鹿が見つけたから「鹿湯」が転じて「酸ケ湯」になったとも。確かにお湯に入ると強い酸のため、若干肌にぴりぴりしたものを感じる。硫黄臭が立ち籠める温泉につかると、その匂いを吸い込むだけで温泉成分を全身に浸透させることができる。それもそのはず、湯治で有名なここ酸ケ湯温泉は、紫外線やアレルゲンの少ない標高900mの高地にあり、3回周り10日で万病に効果が現れると昔から言い伝えられているという。高温泉につかると免疫力が高まり細胞が活性化されるからだそうな。

 十分に身体を温めたあと、夕食会場へ。晩秋のお品書きは、十和田名物牛のバラ焼きをメインに、地元の食材を使った会席料理。青森の地酒3種を飲み比べしながら美味しい料理に舌鼓すると、暖まった心も身体もさらに高揚していった。

 寝る前とさらに翌朝、女性専用時間を狙ってここのメインの温泉である混浴風呂「ひば千人風呂」に入りにいった。ヒバの木でできた大浴場は、脱衣所と出入り口が男女別に分かれており、さらに女性側は浴槽まで衝立てがあるため、こっち側だけで入浴すれば初心者でもいけそうなレイアウトである。大きな浴槽が3つあり、それぞれ「熱湯」、「四分六分」、「鹿の湯」という名がついている。熱湯(41℃)と四分六分(43℃)は温度が若干違い、鹿湯(うたせ湯)と合わせて順番に入ると冷え性が改善するという湯治方法があるようだ。たしかに、立ち籠める湯気の中で熱めのお湯に長く浸かって浴槽を行ったり来たりしていると、万病に効いてきそうな気がする。

 すっかりのぼせそうになったので脱衣所で休んでいたら、3人ほどおばちゃんがわけのわからない言葉でおしゃべりしていた。外国人観光客はこんな秘湯まで来るようになったのかと思っていたら、突然「どっから来たんですか?」と話しかけられびっくり。どうやらおばちゃんらが話していた言葉は津軽弁らしい。バイリンガルの韓国人かと思った・・・。近くに住んでいて、よく日帰りで入浴しに来るらしい。全く理解できないネイティブ津軽弁を聞いて、日本は広いと改めて感じた瞬間であった。

 それにしてもここは湯治場、できれば今度は1週間くらい湯治体験してみたい。この素晴らしい泉質を一泊で後にするのは惜しいと思いつつ、宿をチェックアウトし、次なる目的地へ向かった。

【酸ヶ湯温泉旅館】
住所: 青森県青森市大字荒川字南荒川山国有林小字酸湯沢50番地
電話: 017-738-6400
アクセス: JR青森駅からJRバス十和田湖行き約70分(青森駅から送迎シャトルバスもあり:要予約)または青森空港からレンタカーにて約30㎞、45分
源泉名: 酸ケ湯温泉
泉質: 酸性・含鉄・含硫黄-アルミニウムー・硫酸塩・塩化物泉(低張性酸性高温泉)
温度・PH値: 63.8℃, 1.5
色・味・匂: 乳白色・強い酸味・塩味・強い硫黄匂
効能: 神経痛・筋肉痛・関節痛・リウマチ・五十肩・運動麻痺・関節のこわばり・うちみ・くじき・慢性消化器病・痔病・冷え性・病後回復期・疲労回復・健康増進・慢性皮膚病・きりきず・糖尿病

2018年12月07日

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取材担当プロフィール

みなもといずみ
近場から遠出まで、行く先々に温泉マークを見つければすぐに飛び込んでしまうほどの温泉女。出張先ですら、温泉があればタオルとパンツを持ってでかけます。女である以上、温泉に癒される人生は永遠です。行き当たりばったりの旅が大好きな私のあこがれは、スナフキン。点々と旅を続けながらいで湯を求め、足あとを残していきたい!