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タイ・ペチャブン コボリ大尉でないが

2019年06月13日

 タイ総選挙の終盤情勢を探るため訪れた北部ペチャブン県。陣営幹部や候補者本人に事前に電話で取材を申し込んだのだが、いずれも「忙しい」とけんもほろろ。候補者が事務所にしている自宅に突入すると、関係者が不機嫌そうに「後で連絡するから、お引き取りを」。日本人記者の取材を受けても票にはならない、と言いたげ。結局、連絡は来なかった。

 偶然見つけた別の政党支部に飛び込むと、やはり会議中の選対幹部らににらみつけられた。ところが「日本人記者ですが…」と言うと、1人が「コボリ、コボリ」と声を上げ、雰囲気が一変。事務所長が笑顔で「少しなら」と取材に応じてくれた。

 「コボリ」とはタイのベストセラー小説「クーカム」(邦題・メナムの残照)に登場する旧日本海軍大尉の名前。タイ人女性との悲恋を描き、何度も映画やドラマになっている。恐らく1番有名な日本人名だろう。

 「私の名前はコボリではないし、妻も日本人ですけど」と言うと、幹部らは爆笑。取材は1時間以上に及んだが、嫌な顔一つせず、選挙区事情や候補者の動静を詳しく教えてくれた。 (山上隆之)